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2024年7月の記事一覧

ハードボイルド書店員日記【196】

ハードボイルド書店員日記【196】

<ヤナギダクニオ>

「すいません、ヤナギダクニオさんの本はありますか?」
物腰の柔らかい女性。同僚がレジを離れ、カウンターの脇へ移る。彼はかなりの読書家だ。慣れた手つきで「柳田国男」と端末のキーを打つ。
「いまこちらに置いているのは角川ソフィア文庫の『新版 遠野物語』だけですね。何かお探しのものはございますか?」
「タイトルはわからないのですが、脳死状態になったお子さんのことを書いた本で」
「脳

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ハードボイルド書店員日記【195】

ハードボイルド書店員日記【195】

<蔵書を売る>

路地を曲がったところの独立系書店。
広さは10坪程度だろうか。大型本は什器に立てかけられ、他は平積みかジャンルごとに木の箱へ収められていた。
奥に古書用のエリアが設けられている。ピザやパスタの作り方を紹介する並びに荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」33巻(集英社)の新書版が混ざっていた。

「やるなあ」
手に取ってつぶやく。
「やるでしょう」
振り向く。カウンターの中に座っている

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ハードボイルド書店員日記【194】

ハードボイルド書店員日記【194】

<20歳と84歳>

「宇佐見りんの『かか』はありますか?」
「ございます」
大学生らしき小柄な女性。ビジネス書のエリアで声を掛けられた。河出文庫の棚へ移動し、くだんの本を抜き出す。1999年生まれの著者は本作で2019年の文藝賞を受賞し、デビューを果たした。
「あの、もうひとつ」
「何でしょう?」
「この人の『推し、燃ゆ』を好きな子が気に入ってくれそうな本、もしご存知でしたら」
「小説ですか?」

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ハードボイルド書店員日記【193】

ハードボイルド書店員日記【193】

<バーサーカーをさがしています>

資格書のコーナー。下のストッカーから売れた分を補充し、傾いた棚を整える。相変わらずFP関連が好調だ。スーパーヘビー級の外国人男性に呼び止められる。スマートフォンの画面を見せられた。
「わたしはバーサーカーをさがしています」
何のことだ。そんなタイトルの小説は寡聞にして知らぬ。本じゃないとしたら見失った友達の名前? まさか「ドラクエ2」の関連グッズとかではないだろ

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