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スイの読書日記

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小説・詩の感想や、文学や読書全般について考えたことなどを綴ります。文学のある暮らしを楽しもう。
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記事一覧

フィンランド語の世界をのぞいてみる

フィンランド語の世界をのぞいてみる

最近なんとなくフィンランドに興味があって、こんな本を手に取りました。その名も『フィンランド語のしくみ』。

フィンランドへの憧れだけで読みはじめたので元々フィンランド語の知識は全くなかったのですが、それでも楽しく読めました。

文体もデザインもミニマルで美しい本です。

時折見られるおちゃめなユーモアにくすりとしながら読みすすめました。フィンランド語をさっと見渡すことができた気がします。

この本

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外国語学習をゆるく楽しみたい人におすすめの本・ブログなど【お悩み別】

外国語学習をゆるく楽しみたい人におすすめの本・ブログなど【お悩み別】

私は子どものころから言葉が好きで、これまでに趣味として約7ヵ国語の言語を勉強したことがあります。高校生のころから語学ブログや語学に関する本をたくさん読み、情報収集をしてきました。

レベルとしてはかなり低い言語もあるのですが、英語に関してはTOEIC900点以上を取得できました。海外在住経験はなく、TOEIC専門の対策本での勉強もほとんどしていません。模試を1回解いたレベルです。また、韓国語に関し

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自由で幸福な童話|エリナー・ファージョン

自由で幸福な童話|エリナー・ファージョン

エリナー・ファージョンというイギリスの児童文学作家をご存知だろうか。

「『リンゴ畑のマーティン・ピピン』の作者」と聞けば、ピンとくる人もいるかもしれない。

ファージョンの描くおとぎ話は、すみずみまで自由で、素朴な幸福に満ちている。

ファージョンは1920年頃から活躍していた作家だが、現在イギリスではあまり読まれなくなっているらしい。もったいないなと思う。

効率性や合理性にがんじがらめになっ

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冬に読みたい天文学エッセイ『夜の魂ー天文学逍遥』

冬に読みたい天文学エッセイ『夜の魂ー天文学逍遥』

冬になると甘くてこってりしたお菓子が食べたなくなる。フルーツを散りばめたバターたっぷりのシュトーレンや、濃厚なホットチョコレート、アプリコットジャムをしのばせたザッハトルテーー。疲れた心と身体にしみわたる甘さの。

冬の読書も例外ではない。シュトーレンみたいな甘くて華やかなものが読みたくなる。数年前から私の「冬に読む本リスト」の定番となったのが、『夜の魂ー天文学逍遥』だ。

『夜の魂』は、天文・物

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『ショウコの微笑』を読んで 韓国文学も面白いかも!

『ショウコの微笑』を読んで 韓国文学も面白いかも!

こんにちは。いよいよ読書の秋ですね📚🍂🌕

先日『ショウコの微笑』という、韓国の短編集を読みました。新しい韓国の文学シリーズの一冊として刊行されています。

今年読んだ現代小説の中でいちばん刺さったかもしれない。

韓国文学はあまり読んでこなかったのですが、この本をきっかけに興味が出てきました。

実はこの本、ブックカルテという選書サービスで、ある書店員さんに選んでいただいたものです。

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語学好き必読エッセイ | 『べつの言葉で』

語学好き必読エッセイ | 『べつの言葉で』

「読書好き」にはいろいろなタイプがいると思います。起伏のあるストーリーを追うのが好きな人、情景描写を頭の中でじっくりイメージして味わうのが好きな人、構造に注意して読みたい人ーー。

私は言葉自体がそもそも好き、というタイプです。ひとりで歩いている時なんかはしょっちゅう言葉について考えているし、辞書も読みものみたいに読んだりする。そんな具合なので当然、文学と同じくらい語学にも興味を持っています。

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翻訳夜話2 サリンジャー戦記 | 読書メモ

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 | 読書メモ

読んだ本

村上 春樹/柴田 元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』文藝春秋、2003

メモ

J.D.サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』という翻訳のほうが有名かな)の魅力を余すところなく語った本。

村上春樹と柴田元幸が、作家と文学者という異なる立場から、そして時には翻訳者同士という同じ立場から、徹底的にキャッチャーを語っています。

キャッチャーは知性より

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海と山のオムレツ | 読書メモ

海と山のオムレツ | 読書メモ

概要

カルミネ・アバーテ著、関口英子訳『海と山のオムレツ』新潮社、2020

古今東西変わらない人間の生を描き、肯定する小説

家族や仲間と食卓を囲むシーンがたくさんある。テーブルに並ぶたくさんの料理の彩りや良い香り、賑やかなおしゃべりを思い浮かべると、心がぱっと温かくなる。そしてお腹も空いてくる。

この小説には異質なものが何もない。海外の小説なのでもちろん知らない固有名詞もたくさん登場するが

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冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙について | 短歌の感想

冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙について | 短歌の感想

歌人・穂村弘の代表作で、こんな短歌がある。

出会った瞬間、理由もわからないままお気に入りの歌になった。

自分の中でそのまま「なんかいいな」状態にしておいたが、最近ふと疑問が湧いた。あれ、なにがいいと思ったんだろう。考えてみることにする。

🥚

まず、浮かぶのはこんなイメージだ。

……歌に詠み込まれていない細かいところは、私がなんとなく思い浮かべただけ。そして、自分で思い浮かべたこのイメー

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子供のころ初めて夢中になった小説

子供のころ初めて夢中になった小説

おそらく私が生まれて初めて夢中になった小説はイーニッド・ブライトンの『おちゃめなふたご』シリーズだ。

(絶版になってしまった昔の表紙のほうがかわいかった)

舞台はイギリス、主人公はわがままで高慢なふたごの女の子。希望していなかった質素な寄宿学校・クレア学院に入学させられることになり、入学後も学校に対して反抗的な態度を取る。

ふたごは次第に自分たちの態度を反省して周囲とも打ち解けていき、女子校

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クララとお日さま | 読書感想文

クララとお日さま | 読書感想文

⚠️ ネタバレあり

読んだ本

カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『クララとお日さま』早川書房、2021

初めてカズオ・イシグロを読みました。カズオ・イシグロはいろいろな本で「不穏な語りの操作に長けてる」「信頼できない語り手を用いるのが上手い」というような紹介をされているので、ちょっとむずかしいんじゃないかと警戒しつつ。

あらすじ

人工知能を搭載したロボットのクララが物語の語り手です。やはり得

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短歌はポケットに入るし教えてくれる

短歌はポケットに入るし教えてくれる

雨降りの土曜日。読みおわった本を本棚に戻すとき、笹井宏之の短歌を思い出す。

そうだ。だから何度でも読みたい本しか本棚に置きたくないんだった。待たれている意識。私のことを待っているだれか。

……雨の日にだれかを待つのっていやだろうな。

また読むからねと思う。

喉を潤すためにコップに水を注ぐ。その瞬間にも笹井宏之の歌がやって来た。

実際に水を注ぎながらこの歌を口ずさむと、時系列がぐらりと揺ら

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初夏にはクリアな白が似合う

初夏にはクリアな白が似合う

いちばん好きな季節は初夏かもしれない。陽射しはきらきらと眩しいけれどまだ穏やかで、暑さもそれほどでもない。日が長いから、明るい夕方を味わえる。

初夏特有の涼しくて青っぽい夕方には、ちょっとスーパーへ行くだけでも素敵な散歩になる。初夏の夕方に家中の窓を開け放って風を通し、そよ風を感じながら読書をするのも好きだ。

そしてもしかすると個人的な感覚かもしれないのだが、初夏にはクリアな白が似合う、と思う

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なんでもない暮らしのディテールと世界の手ざわり

なんでもない暮らしのディテールと世界の手ざわり

子どものころから英米の物語が好きだった。遠い国への憧れや好奇心から、外国の物語をたくさん読むようになったのだと思う。

きっかけは憧れだったものの、英米小説ならではの物語のつくりのようなものも好きになった。

そのひとつが、客観性が高くてきめ細やかな情景描写が多いことだ。

たとえば私の好きな『フラニーとズーイ』というアメリカの小説の中には、こんな一節がある。

私はこのなにげない描写が好きだ。

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