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記事一覧
自由で幸福な童話|エリナー・ファージョン
エリナー・ファージョンというイギリスの児童文学作家をご存知だろうか。
「『リンゴ畑のマーティン・ピピン』の作者」と聞けば、ピンとくる人もいるかもしれない。
ファージョンの描くおとぎ話は、すみずみまで自由で、素朴な幸福に満ちている。
ファージョンは1920年頃から活躍していた作家だが、現在イギリスではあまり読まれなくなっているらしい。もったいないなと思う。
効率性や合理性にがんじがらめになっ
冬に読みたい天文学エッセイ『夜の魂ー天文学逍遥』
冬になると甘くてこってりしたお菓子が食べたなくなる。フルーツを散りばめたバターたっぷりのシュトーレンや、濃厚なホットチョコレート、アプリコットジャムをしのばせたザッハトルテーー。疲れた心と身体にしみわたる甘さの。
冬の読書も例外ではない。シュトーレンみたいな甘くて華やかなものが読みたくなる。数年前から私の「冬に読む本リスト」の定番となったのが、『夜の魂ー天文学逍遥』だ。
『夜の魂』は、天文・物
『ショウコの微笑』を読んで 韓国文学も面白いかも!
こんにちは。いよいよ読書の秋ですね📚🍂🌕
先日『ショウコの微笑』という、韓国の短編集を読みました。新しい韓国の文学シリーズの一冊として刊行されています。
今年読んだ現代小説の中でいちばん刺さったかもしれない。
韓国文学はあまり読んでこなかったのですが、この本をきっかけに興味が出てきました。
実はこの本、ブックカルテという選書サービスで、ある書店員さんに選んでいただいたものです。
自
語学好き必読エッセイ | 『べつの言葉で』
「読書好き」にはいろいろなタイプがいると思います。起伏のあるストーリーを追うのが好きな人、情景描写を頭の中でじっくりイメージして味わうのが好きな人、構造に注意して読みたい人ーー。
私は言葉自体がそもそも好き、というタイプです。ひとりで歩いている時なんかはしょっちゅう言葉について考えているし、辞書も読みものみたいに読んだりする。そんな具合なので当然、文学と同じくらい語学にも興味を持っています。
翻訳夜話2 サリンジャー戦記 | 読書メモ
読んだ本
村上 春樹/柴田 元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』文藝春秋、2003
メモ
J.D.サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』という翻訳のほうが有名かな)の魅力を余すところなく語った本。
村上春樹と柴田元幸が、作家と文学者という異なる立場から、そして時には翻訳者同士という同じ立場から、徹底的にキャッチャーを語っています。
キャッチャーは知性より
海と山のオムレツ | 読書メモ
概要
カルミネ・アバーテ著、関口英子訳『海と山のオムレツ』新潮社、2020
古今東西変わらない人間の生を描き、肯定する小説
家族や仲間と食卓を囲むシーンがたくさんある。テーブルに並ぶたくさんの料理の彩りや良い香り、賑やかなおしゃべりを思い浮かべると、心がぱっと温かくなる。そしてお腹も空いてくる。
この小説には異質なものが何もない。海外の小説なのでもちろん知らない固有名詞もたくさん登場するが
なんでもない暮らしのディテールと世界の手ざわり
子どものころから英米の物語が好きだった。遠い国への憧れや好奇心から、外国の物語をたくさん読むようになったのだと思う。
きっかけは憧れだったものの、英米小説ならではの物語のつくりのようなものも好きになった。
そのひとつが、客観性が高くてきめ細やかな情景描写が多いことだ。
たとえば私の好きな『フラニーとズーイ』というアメリカの小説の中には、こんな一節がある。
私はこのなにげない描写が好きだ。