子供のころ初めて夢中になった小説
おそらく私が生まれて初めて夢中になった小説はイーニッド・ブライトンの『おちゃめなふたご』シリーズだ。
(絶版になってしまった昔の表紙のほうがかわいかった)
舞台はイギリス、主人公はわがままで高慢なふたごの女の子。希望していなかった質素な寄宿学校・クレア学院に入学させられることになり、入学後も学校に対して反抗的な態度を取る。
ふたごは次第に自分たちの態度を反省して周囲とも打ち解けていき、女子校生活を満喫するようになる。そんな物語だ。
率直に言うと、この小説には文学性がほとんどない。外国籍の子どもたちをステレオタイプ的に描いているし、頻出する勧善懲悪の展開の描き方もかなり危うい。大人になってから読み返すと、登場する教員の指導方法に疑問を感じるシーンもある。文章も上手くない。
それでも、小学生だった私はこの小説が大好きだった。女の子たちのくだらないやり取りにはとても共感した。
たとえばクレア学院の生徒たちは、「嘆かわしい」が口癖のフランス語の先生のことを影で「嘆きのマドモアゼル」と呼んでいる。授業中によからぬいたずらをして先生たちを困らせることもある。そんなシーンが楽しかった。
先生たちの目を盗んで映画に出かけたり、真夜中に寮でこっそりパーティーを開いたりするシーンには、わくわくが止まらなった。パーティーのシーンでは、聞き慣れない食べものがたくさん出てくる。
なかでも印象深いのはオイルサーディンだ。ずっとなんだろうと気になっていて、ある日ネットで検索してみたら「イワシの缶詰」と出てきて、なんだかがっかりしてしまった思い出がある。
田村セツコのかわいらしい挿し絵も、この小説にのめり込んだ大きな理由のひとつだ。田村セツコの描く女の子たちをトレースしたり自分でも描いてみたり。クレア学院の制服なら今でもなにも見ずに描ける自信がある。
まだ英語にほとんど触れたことがない小学生時代に、「この登場人物たちは、本当はなんと言っているんだろう」と思いを馳せて英語に恋焦がれていた。もし学校で英語を習うようになってから読んでいたら、きっとそこまで強い関心は抱かなかっただろう。
初めて原書を読み通したのも、この本だった。高校生になってからAmazonで買って、必死に読んだことを覚えている。今手元にある当のペーパーバックは黄ばんで相当に汚れている。
子どものころ抱いていた「好き」という気持ちのパワーは、本当に純粋でまっすぐで強かったんだなと思う。
中学校入学後に出会い、その後私のバイブルとなった『赤毛のアン』に関しては、まだ原書が読めていない。残念ながら、私にとって英語がかなりむずかしく、なかなか読み進められないでいる。『おちゃめなふたご』の原書を読んだことを思い出して、『赤毛のアン』にもまたチャレンジしてみたくなった。
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