マガジンのカバー画像

映画の感想

139
運営しているクリエイター

#邦画

恋が共同幻想だとして/坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』【映画感想】

恋が共同幻想だとして/坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』【映画感想】

脚本・坂元裕二、監督・塚原あゆ子というヒットメイカー同士の初タッグ。主演は松たか子と松村北斗(SixTONES)。事故で夫を亡くした折、タイムトラベルする術を手にした妻が、夫の死なない未来を作るために15年前・2009年に2人が出会った日へと戻り、手を尽くそうとする。何度となく扱われきたSF題材であり、その目的もラブストーリーとして極めてオーソドックスなものだ。

しかしそこは坂元裕二。この夫婦は

もっとみる
最期は“人間”になる/吉田大八『敵』【映画感想】

最期は“人間”になる/吉田大八『敵』【映画感想】

精神科医という職業上、私は他者の歩んできた人生について訊くことが多い。特に高齢者となればその生活歴の厚さは凄まじい。そして語っている現在の当事者とその歴史のギャップに驚くこともある。認知症でかつての仕事にまだ勤めていると思い込んでいたり、配偶者を亡くし抑うつ気分で全てに無気力になったりする。過去の時間の濃さが、今の自分を揺さぶっているようにも見える。

そんな“老い”に対する不安を鋭くテーマにした

もっとみる
2024年ベスト映画 トップ10

2024年ベスト映画 トップ10

今年は邦画がかなり豊作だったように思います。ずっと邦画が好きでいたけどここ数年はやや物足りなさがあったところに、こんな年が来るなんて。何かが突き抜け、新たな面白さを追求する作品が世に出るになったように思います。濱口竜介以降の潮流なのでしょうか。理由は分かりませんが、まだまだこれから不可思議な映画体験が増えていくのではとワクワクします!

10位 ボーはおそれている

守られすぎた子供は現実の侵襲性

もっとみる
鏡を覗く、誰かと繋がる/森井勇佑『ルート29』【映画感想】

鏡を覗く、誰かと繋がる/森井勇佑『ルート29』【映画感想】

森井勇佑監督による長編映画第2作『ルート29』が桁外れに素晴らしかった。綾瀬はるかを主演に迎え、そのバディとして前作『こちらあみ子』で主人公を演じた大沢一菜を引き続き抜擢。その意外性のある組み合わせで紡がれるのは、およそ明快さとは無縁のストレンジな幻想譚だった。

このあらすじで確かに間違いはないのだが、このプロットだけでは到底語り切ることのできないイリュージョンに満ちたシーンだらけの怪作でもある

もっとみる
働くことと愛すること/『ラストマイル』【映画感想】

働くことと愛すること/『ラストマイル』【映画感想】

脚本・野木亜紀子、プロデュース・新井順子、監督・塚原あゆ子による映画作品。この座組で制作されたドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と同じ世界で繰り広げられる“シェアード・ユニバース・ムービー”と銘打たれた作品である。

結論から言えば、アベンジャーズのようなアッセンブル感はなくその点についてはやや肩透かしではあったのだが、敢えて分業化して事件を紐解くというお祭り感を抑えた工程が物語への集中度を

もっとみる
2024年上半期ベスト映画 トップ10

2024年上半期ベスト映画 トップ10

映画館に見に行く本数は減ってしまったけれども、配信などで食らいつくことができたと思う。結論をすぐ出さない、"揺らぎ"のある映画たちを10本。

10位 アメリカン・フィクション

本年のアカデミー賞作品賞ノミネート作。海外の作品を見始めたのはここ数年だけど、“真っ当”なものとして見てきた傑作にもこのコメディが刺そうしている目線があるのでは?と思わせるような毒と説得力があった。戯画化された正しげな配

もっとみる
2023年ベスト映画 トップ10

2023年ベスト映画 トップ10

劇場公開から配信までの間隔がどんどん狭まって、年末には9月公開くらいの映画ならば(特にU-NEXT)配信で観れちゃうようにはなってるのだけどこうして振り返ると劇場鑑賞のインパクトはやっぱ強い。来年は恐らくここまで映画館には行けなくなるはずなので、このトップ10を大事に噛み締めます。

10位 正欲

欲望が共有されない寄る辺なさ、欲望を共有することで生まれる信頼、という点でとても根源的な問いにまつ

もっとみる
2023年上半期ベスト映画 10

2023年上半期ベスト映画 10

10位 フレーミングホット!チートス物語

あまり観ない伝記モノだが知られたお菓子という題材に釣られて観たらとても面白かった。自分はこのぐらいのモン、と社会や時代に思わされてしまう境遇においても、ユーモアとアイデアの輝きはきっとずっとそこにあることを実直に描いていた。こういうニッチなヒストリードラマ、もっと観たい。

9位 フェイブルマンズ

スピルバーグの巨匠への道筋をなぞる映画だと思いきやその

もっとみる
Podcast『海月の人々(((通信)))』#15.「THE FIRST SLAM DUNK」「このテープ持ってないですか?」/#16.柄本佑「ippo」安藤サクラ「ブラッシュアップ・ライフ」

Podcast『海月の人々(((通信)))』#15.「THE FIRST SLAM DUNK」「このテープ持ってないですか?」/#16.柄本佑「ippo」安藤サクラ「ブラッシュアップ・ライフ」

夫婦ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』、第15回はいつもを趣向を変えまして、どちらか1人しか観てないものについてお互いが語りかける回。なまずのさんは「THE FIRST SLAM DUNK」、月の人は「このテープ持ってないですか?」です。各々の好みの方向性が浮き彫りになりました。

第16回は、最近観た映画と夢中になっているドラマの話。柄本佑が監督した短編3本をまとめた映画『ippo』の

もっとみる
旧作の感想メモ(2022年11,12月)

旧作の感想メモ(2022年11,12月)

11月は間違えて1か月延長したアマプラの作品などを一気に見て、12月に久々にレンタル屋を利用した結果、突如としてシャマランブームが到来。

未来世紀SHIBUYA(2021)

僕らの白石晃士監督がHuluで撮ったドラマ。2036年の渋谷を舞台にWeTuber正義マン(金子大地と醍醐虎太郎)がのし上がっていこうと危険なミッションを動画配信するうちに、いつしかこの世界の陰謀に巻き込まれていく、、とい

もっとみる
2022年ベスト映画 トップ10

2022年ベスト映画 トップ10

2022年の映画で良かった作品を10本選んでランキング化。今年も大充実。下半期は特にやや好みの範囲外にも足を伸ばし、思いがけぬ名作を見つけられたと思う。やっぱり、確実な傑作よりも小さな名作を抱きしめていきたい。

10位 そばかす

三浦透子の単独初主演作。同年代最上級の演技とともに彼女の良い“走り“が観れる映画だった。立ち向かうでも逃げるでもなく、ただシンプルに自分として走ることの難しさと気高さ

もっとみる
ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#12.生きた音の映画〜「はだかのゆめ」「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」

ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#12.生きた音の映画〜「はだかのゆめ」「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」

夫婦ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』、第12回は映画回。Bialystocksとしても活動する甫木元空監督の「はだかのゆめ」、そして青山真治監督の追悼上映で観た「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」の2本。2人は師弟関係にあり、ともに“生きた音”を映画に活かす2作。継承されていく美学と、2人を繋ぐ仙頭プロデューサーの話など、あれこれ喋りました。
#音声配信       #日記 #夫婦 #ポッ

もっとみる
揺さぶられる人間の味~「窓辺にて」

揺さぶられる人間の味~「窓辺にて」

今泉力哉監督、稲垣吾郎主演による映画「窓辺にて」を観てからというものの、何度となく考えている。人間味とは何かということを、だ。愛嬌とかクールさとか、そういうキャッチーなものじゃなく誰しもが自分で知らないうちに抱えているような人間の味。それは自分で把握している部分もあるだろうが、他の人からしか知りえないものも沢山ありそうで。そんなことを考えれば考えるほど、他者と生きることの面白さと不思議さが押し寄せ

もっとみる
ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#9.SFは一軒の家から〜『四畳半タイムマシンブルース』『アフター・ヤン』

ポッドキャスト『海月の人々(((通信)))』#9.SFは一軒の家から〜『四畳半タイムマシンブルース』『アフター・ヤン』

第9回は映画感想回。原作:森見登美彦、脚本:上田誠、監督:夏目慎吾の「四畳半タイムマシンブルース」と監督:コゴナダ、主演:コリン・ファレルの「アフター・ヤン」について。どちらも1軒の家を中心にしたSF作品。一方はタイムトラベル、一方はAIロボットということでジャンルは違うのだけど、どちらも“今”を描く作品になっているのが最高だった。

トークトピックスは以下。

SFのイメージ
ROTH BART

もっとみる