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【エッセイ】

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【エッセイ】をまとめたものである。
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【エッセイ】夜を仰ぐ 未だに遠い 夏の果

【エッセイ】夜を仰ぐ 未だに遠い 夏の果

桜新町にて 夏の日。空は曇りの不安定。気温は高い。時折小雨が降る。じめっとした高温多湿の不快感が体にまとわりつき、歩けば汗をかく。幸先の悪い陰鬱な午前。

 だが、天気などお構いなし。夢や目的があるならば、人生の曇天や荒天なんのその。我々はその足をどこまでも動かす。

 雲は低く、雨に打たれど、この暑さは夏の始まり。私は自らの信条を掲げ、今年の夏へ動き出すのだった。

美徳のファンファーレ

「か

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【エッセイ】歳月人を待たず

【エッセイ】歳月人を待たず

注文してないアンハッピーセット「付き合ってくれないか」

 私が告げ、彼女は泣く。それは出来ないと宣告される。幾度も見たような光景と、耳が腐敗するほど聞いた台詞である。複数の女性に、揃いも揃って用意されてきた同じ結末。手を繋ぎ、キスをして、体に触れても。告白すれば、泣かれて振られ。皮肉だが、もはや才能だろう。

 どうして毎度こうなるか。未だに理解できない。どうやら、我が運命は稀代の悪戯好きである

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【エッセイ】是でも非でも、夜空には花火

【エッセイ】是でも非でも、夜空には花火

星野珈琲にて

 とある休日、私とねくら氏は昼間から星野珈琲で駄弁を交わす。ところどころに電球色が灯る程度の暗い店内。私は雰囲気に飲まれたのか、取るに足らない話を、重々しい口調で始めていた。

「理想のプロポーズを聞いてくれないか」

「まだ相手もいないのに?」

 的確かつ迅速な返答に面食らう。

「正論を突かれて胸が痛いが、思いついたので、聞いてほしい」

「いいよ」

 意外にも容易く承諾を

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【エッセイ】そして均衡は保たれる(2/3)

【エッセイ】そして均衡は保たれる(2/3)


1/3はこちら↓

雨天へ奏でるセレナーデ怒りの日

 ある秋の日である。メガネ君は、社内の食堂で静かに座る。ぼんやりと窓の外を眺めていた。夕方から雨が降り、時刻は既に午後八時過ぎ。暗い窓では、新たに水滴が生まれては下に流れていく。長らく窓を見過ぎた彼は、その水滴から、生命の誕生と死滅にまで思いを馳せていた。座して壮大である。そこへ私が到着した。

「すまん。遅くなった」

「座しすぎて尻痛し。

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【エッセイ】僕たちのマッスル

【エッセイ】僕たちのマッスル

挨拶 読者諸賢、ご機嫌はいかがだろう。日本列島は陽気が栄えてきたな。恐らく諸君は、冬との別れを惜しみ、こたつやベッドの中で未だぬくぬくとくるまっているのだろう。悲しいかな。そんな猫のような愚者は犬も食わない。

 私はというと、諸君らとは違い、筋肉の鍛錬により溢れ出るエネルギーで、毎日毎晩と己を温めている。漏れ出したエネルギーが、汗となって、私の額で輝く。望むのであれば、余剰分の熱で諸君を温めてや

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【エッセイ】そして均衡は保たれる(1/3)

【エッセイ】そして均衡は保たれる(1/3)

 久方ぶりの文筆活動になる。諸君はご清祥極まりなく過ごしていることだろう。
 私か? 私はというと、相も変わらず詭弁と駄弁をこねくり回し、のべつ幕なしに売り言葉を買い続け、断腸の思いで罵声を被り続けている。それら全てを脳内で黄色い声援へと変換し、架空の大歓声を浴びる私は、今日も身勝手な荒唐無稽を、立て板に水の如く嘯く。女三人寄れば姦しいが、私一人いれば近所迷惑。わが人生に一片の有益無し。それでもこ

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【エッセイ】語るには値しない

【エッセイ】語るには値しない

 読者諸君、ご機嫌よう。猛暑の候、咲き乱れる日傘と一向に途絶えぬ蝉の声に暑さはますます増幅するが、それでもご健勝である事を願う。

 私に関しては、暑さに負けぬ強靱な体を持つため、問題はない。熱中症の心配などおくびにも出さず日に当たる。四畳半の自室も、窓を開け、扇風機を浴び続ければ、冷房は要らない。ところで最近、どうしてか寝苦しかったために一度冷房を使ってみたが、ぐっすり睡眠が出来るだけであった。

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【エッセイ】高嶺の花が、心の側でそっと笑う

【エッセイ】高嶺の花が、心の側でそっと笑う

 我が平生に絶世の美女がいる。凜とした佇まいで淑やかに咲き、至福の言葉と可憐な笑顔で、衆生をぱっと明るくする。誰もが思い描く理想の美人像。そこに最も近い女性が、今、私の目前で笑う。

 読者諸君、ご機嫌いかがだろうか。らしくもない始め方をしてしまった。美人は三日で飽きるという欺瞞を一笑に付し、365日の美人凝視を続けた私である。感傷に浸ったキザな文章を書くのも詮方ない。
 我が職場には、圧倒的才色

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【エッセイ】想定外とシニカルフレンド

【エッセイ】想定外とシニカルフレンド

 読者諸君、ご機嫌よう。世はゴールデンウィークに突入し、愉快な諸君はさぞ浮き足立っていることだろう。昨今は旅の需要も戻っていると聞く。浮いた足で全国各地へ飛ぶといい。津々浦々で舞い上がる諸君を下から眺めるのも、また一興と言えよう。

 斯く言う私は、四国をふわふわと歩き回ってきた。地中海がもたらす海の幸、霊験灼かな神社、涼しげな落ち着きを与える自然、甘味引き立つ抹茶大福、路地裏で食べるカルボナーラ

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【エッセイ】身を挺して歴史学習

【エッセイ】身を挺して歴史学習

前編はこちら

 可愛い子には旅をさせよ。危険を伴う冒険と引き換えに、大いなる成長を手に入れるべきだ。薄汚い大人にも旅をさせよ。煤けて黒くなった心を浄化するのだ。しかし、薄汚い我々の旅は、苦行を含む自己研鑽の道ではない。平易どころか利便性に充ちた快適な旅である。豊かな自然と観光地に恵まれた四国を、レンタカーで放蕩不羈に巡るのだ。可愛い子の方がよっぽど殊勝だろう。私は恥じるべき自己を背負って四国を旅

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【エッセイ】騙すとは、稚拙を楽しむレトリック(誕生日前編)

【エッセイ】騙すとは、稚拙を楽しむレトリック(誕生日前編)

 読者諸君、ご機嫌よう。最近は書きたいことが山のようにあるが、時間と語彙力が今の私にはない。思考力と生命力は仕事に吸収され、辛うじて余った残滓で言葉と踊る。
 すると、偏見や間違いだらけの駄文ばかりが生み出される。だが、たとえ何かを間違えて糾弾されようとも、屁理屈と強弁で脱兎の如く言い逃れを敢行しよう。どうせ残滓で動いている頭はろくな事を考えないのだ。ならば逃げるしかない。私は喋る、されど育たず。

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【エッセイ】君への大巧は拙なるが若し(誕生日後編)

【エッセイ】君への大巧は拙なるが若し(誕生日後編)

 今ここに断言する。他に誇れる人生を一切送っていないと。誰もが憧憬の念を抱く人間とは、常に精神的向上、肉体的鍛錬、学問的精進を怠らない圧倒的覚悟を持った人間である。

 集中力の欠如と生半可な努力を引き連れて生きる私の廃れた人生に、褒められるべき点などは万に一つも無いのだ。暇さえあれば惰眠を貪り、時折目を覚ませばひたすらに米を貪る。貪るだけ貪った挙げ句、日が射さぬ埃だらけの部屋で誇りある自分を夢想

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【エッセイ】春

【エッセイ】春

 読者諸君、ご機嫌よう。外はすっかり春の装いだ。街を歩けば、温かい空気に惑わされた奇人が、大量に街を跳梁跋扈している。奇人たちは春の景色を賑やかす存在として勇躍中なのだ。

 試しに週末の代々木公園に足を踏み入れれば、不思議なことに辺りは一瞬で地獄絵図と化す。花吹雪と杯盤狼藉が入り乱れた風景はまこと不気味である。平生は経験し得ない黄泉の雰囲気を、諸君らも堪能してくると良い。

 私も負けじと近所の

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【エッセイ】忙中閑ありとは誰が言ったのだ。満足のいく執筆が出来ない。今週はTOEICに読書会……。気息奄々の私は、最近出会ったこだわりマンを思い出すのであった。

【エッセイ】忙中閑ありとは誰が言ったのだ。満足のいく執筆が出来ない。今週はTOEICに読書会……。気息奄々の私は、最近出会ったこだわりマンを思い出すのであった。

挨拶 読者諸君、ご機嫌よう。今日はバレンタイン当日だ。まさか、懐にたんまりとチョコを携えた逆賊はいないだろう。我が同胞の諸君らには、そのような輩を見つけ次第、私に報告して欲しい。バレンタイン革命を起こそう。スローガンは「全てのチョコを非モテの胃袋に」だ。この世から愛のこもったチョコレートを駆逐しようではないか。くだらないイベントに終止符を打つのだ。我々の血となり肉となることで、カカオたちは報われる

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