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yuriponzuu
【エッセイ】歳月人を待たず
主要な登場人物
・私: 不和雷同。だが、文筆には芯がある。作家志望。少しの筋肉。
・ひなた氏: 明るく素直な小柄女性。活発に暴れる。建前を知らない。
・あめ氏: 掴みどころのない女性。会話のズレが多い。よく雨が降る。
注文してないアンハッピーセット
「付き合ってくれないか」
私が告げ、彼女は泣く。それは出来ないと宣告される。幾度も見たような光景と、耳が腐敗するほど聞いた台詞である。複数の女性に、揃いも揃って用意されてきた同じ結末。手を繋ぎ、キスをして、体に触れても。告白すれば、泣かれて振られ。皮肉だが、もはや才能だろう。
どうして毎度こうなるか。未だに理解できない。どうやら、我が運命は稀代の悪戯好きである。失敗から内省。不備や不良の修正。それら一連を反芻した後に、再び繰り返される失敗。七転び八起きしても、予定調和の如く八回目の転倒。目の前の貴様が泣いて、何故私が泣いていないのか。転び過ぎて感情の捌け口さえ見失ったか。恋愛と、客体としての自分。その得体の知れなさに、心は沈むばかり。
「どうしてだ」
そう聞けば必ず返ってくる答え。
──結婚が考えられない。
「またか」
ここまでがお決まりの展開である。あまりに聞き馴染みが深い。玩具付きの子供向けメニューがハッピーセットなら、差し詰め、現実を突きつける大人向けアンハッピーセット。そして、「ならば致し方なし、やはり目指すべきは独身として歩む文豪の道」と、安易に諦めと切り替えを発するのが、私という人間であった──。
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