災害と混乱に乗ずる恐怖の計画『ショック・ドクトリン』/ナオミ・クライン
こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!
あなたは、世界で起きている出来事の本当の意味を知っていますか?
経済危機、戦争、自然災害……これらの「ショック」が、実はある恐ろしい計画のために利用されているとしたら?
本日紹介する『ショック・ドクトリン』は、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが、綿密な調査と鋭い洞察でその闇を白日の下にさらします。
この本は、経済学者ミルトン・フリードマンに代表される新自由主義経済理論が、自然災害、戦争、テロなどの危機的状況(ショック)を利用して、人々の抵抗が弱まっている間に、どのように世界中に広まっていったかを克明に描く。
クラインは、この現象を「ショック・ドクトリン」と名付け、その具体的な事例として、以下の出来事を挙げる。
これが「ショック・ドクトリン」だ!
1973年 チリ アウグスト・ピノチェト将軍による軍事クーデター後の経済改革。フリードマンの弟子たちが主導し、社会保障の民営化、貿易の自由化、規制緩和などが急速に進められた
1980年代 ラテンアメリカ アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルなど、多くの国々がIMF(国際通貨基金)の構造調整プログラムを受け入れ、市場開放や民営化を余儀なくされた
1990年代 ロシア ソ連崩壊後の混乱に乗じて、フリードマンの思想に基づく「ショック療法」と呼ばれる経済改革が実施された。しかし、それは一部のオリガルヒに富を集中させ、大多数の人々を貧困に陥れる結果を招いた
1997年 アジア アジア通貨危機の際、IMFは各国に緊縮財政や金融引き締めを要求し、経済をさらに悪化させた
2001年 アメリカ同時多発テロ テロ後の混乱に乗じて、ブッシュ政権はイラク戦争を開始し、占領下のイラクに新自由主義経済政策を導入
2005年 アメリカ ハリケーン・カトリーナ 被災地の復興事業が民営化され、貧困層が置き去りにされた
クラインは、これらの事例を通じて「ショック・ドクトリン」が、民主主義を弱体化させ、格差を拡大させ、公共サービスを崩壊させ、環境破壊を加速させる危険性を強く訴えています。
本書は、新自由主義経済政策の功罪について改めて問い直すきっかけとなり、世界中で議論を巻き起こしました。
まずは、上巻・下巻それぞについて見ていきましょう!
上巻のポイント
『ショック・ドクトリン』上巻は、主に以下の内容で構成されています。
1.おそろしい実験?
電気ショック療法の実験 1950年代、モントリオールで行われた電気ショック療法を、社会全体に適用する実験の比喩として用い、ショック・ドクトリンの概念を導入
経済学の拷問実験室 チリのピノチェト政権下で行われた過激な新自由主義経済改革を、拷問実験室に例え、フリードマンの理論と実践の関係を明らかにする
2.ピノチェトのチリ――「純粋な実験室」
チリの経済学者たち シカゴ大学でフリードマンに師事したチリの経済学者たちが、ピノチェト政権下でどのように経済改革を主導したかを詳細に描く
ショック療法の実験: 軍事クーデターというショックを利用して、社会保障の民営化、貿易の自由化など、過激な経済改革が強行された過程を解き明かす
3.ショック療法の実験室
ショック療法の伝播 アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルなど、ラテンアメリカ諸国にチリモデルのショック療法がどのように広がっていったかについて考察
IMFの役割 国際通貨基金(IMF)が、構造調整プログラムを通じて、各国にショック療法を押し付けていった経緯を批判的に検証
4.ショック療法士たち
経済学者のネットワーク フリードマンを中心とする経済学者たちが、どのようにして世界的なネットワークを築き、ショック療法を広めていったかを明らかにする
シンクタンクの役割 ヘリテージ財団などの保守系シンクタンクが、ショック療法を政策提言としてまとめ、政治家や官僚に影響を与えていった過程を時系列で追う
『ショック・ドクトリン』上巻では、ショックを利用した新自由主義経済政策の導入と、その背後にある経済学者やシンクタンクの役割に焦点が当てられています。
これから紹介する下巻では、ソ連崩壊後のロシア、中国、南アフリカ、そしてアメリカ同時多発テロ後のイラクにおけるショック・ドクトリンの実践が描かれています。
下巻のポイント
『ショック・ドクトリン』下巻は、主に以下の内容で構成されています。
5. 惨事便乗型資本主義の勃興
ショック療法のグローバル化 冷戦終結後、ソ連崩壊やアジア通貨危機などのショックを利用して、新自由主義経済政策が世界的に広まった経緯を解説
企業のショック療法士 多国籍企業や投資銀行が、ショックを利用して市場を開放させ、利益を最大化しようとする戦略を明らかにする
惨事便乗型資本主義 災害や紛争などの惨事をビジネスチャンスと捉え、復興事業やセキュリティサービスなどで巨額の利益を上げる企業の活動を批判的に検証
6.ショック療法がアメリカにやってきた
レーガン政権のショック療法 レーガン政権下で、規制緩和や減税などの新自由主義経済政策が推進された過程を分析
ブッシュ政権のショック療法 9.11同時多発テロ後のショックを利用して、イラク戦争や国土安全保障の名目で、大規模な軍事支出や監視社会の構築が進められたことを痛烈に批判
ハリケーン・カトリーナとショック・ドクトリン カトリーナ被災地での復興事業が、民営化や市場原理主義に基づいて行われた結果、格差が拡大し、貧困層が置き去りにされた問題を鋭く指摘
7.抵抗の芽生え
ショック療法への抵抗 アルゼンチンやボリビアなど、新自由主義経済政策に反対する社会運動が各地で起こり、成果を上げている事例を紹介
オルタナティブな経済モデル 市場原理主義に代わる、地域経済や協同組合などのオルタナティブな経済モデルの可能性を探る
『ショック・ドクトリン』下巻では、ショックを利用した新自由主義経済政策の世界的な広がりと、その弊害を明らかにし、抵抗運動やオルタナティブな経済モデルの可能性について書かれていました。
感想など
『ショック・ドクトリン』は、新自由主義経済政策の負の側面を浮き彫りにした衝撃的な作品でした。
特に印象的だったのは、チリやロシア、そしてアメリカなど、世界各地で起きた危機的状況に乗じて、新自由主義的な経済改革が強引に進められてきたという点です。
これらの改革は、確かに経済成長をもたらした側面もありますが、同時に貧富の格差を拡大させ、社会不安を増大させ、公共サービスを崩壊させるなど、多くの問題を引き起こしたとクラインは言います。
また、本書に描かれている経済学者や政治家、企業の思惑には、正直なところ憤りを感じました。彼らは、自らの利益のために、人々の苦しみや混乱を利用しているように思えてなりません。
一方で、本書は希望も示しています。アルゼンチンやボリビアなど、新自由主義に抵抗し、オルタナティブな経済モデルを模索する人々の姿は、私たちに勇気を与えてくれます。
『ショック・ドクトリン』は、現代社会が抱える問題を深く理解するためには必読の書と言えるでしょう。
私たちが生きるこの世界で、何が起こっているのか、そして私たちは何をすべきなのかを考えるきっかけを与えてくれるはずです。
日本でも、新自由主義的な政策の影響は少なからず見られます。例えば、非正規雇用の増加や社会保障の削減などは、私たちの生活に直接影響を与えています。
たとえば、コロナ禍で世界中が混乱に陥ったとき、各国政府は経済刺激策を打ち出しましたが、その中で一部の大企業が莫大な利益を上げる一方で、多くの人々が失業や収入減に苦しむ現実が生まれました。これはまさに『ショック・ドクトリン』が描く、新自由主義経済政策の典型的な影響の一つです。
また、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争も、経済制裁や新たな経済秩序を生み出し、特定の企業や国家が利益を得る状況が続いています。
本書を読むことで、これらの問題の背景にあるメカニズムを理解し、より良い社会を築くために何ができるのかを考えるきっかけになるのではないでしょうか?
ショック・ドクトリンが描く世界の闇!
あなたの知らない経済政策の裏側に迫ってみませんか?
【編集後記】
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