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読書録

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柳流水の読書録です。
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記事一覧

【読書録】ベル・フックス『アート・オン・マイ・マインド』雑感

 まず、情報が乏しい。邦訳が、全著作の半分くらいしかないだろう、ベル・フックスは。代表作は邦訳されているけど、要は、アメリカのコアな文化に触れているが、それを直接間接に享受する日本人がいないから、メリットがないと思われたのかもしれない。さもありなんといえばそうだけれども。

「黒人性は、アメリカ全体で、戯画化され、ステレオタイプを押し付けられている。それに対抗するために、写真の力がとても有効に働く

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【読書録】ベル・フックス『私は女ではないの?』

 ベル・フックスの『私は女ではないの?』を、引き続き読んでいる。
 図式的な説明が多く、少し辟易するところもなくはないけれども、これが黒人女性が被ってきた現実なのだ、ということは、薄々わかる。
 マルコムX。よく、黒人運動の中心人物として、名前を聞いたことがあった。それくらいの認識で、まるで僕は物を知らないのでもあるけれども、彼はかなり強く、「男性の力が黒人の地位向上に必要だ」という主旨の言葉を発

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【読書録】廣瀬純『新空位時代の政治哲学』雑感

 神保町のブックフェスの、出版社のセール品などの列の、「共和国」という出版社から買ったこの本を先ごろ読み終えたので、おおよそ二ヶ月くらいかかったことになる。最後の二十ページ、この本は正確に年代記の形式を取っていて、一ヶ月が三ページくらいなので、最後の一年間を残して、しばらく読み進めていなかったから、本当はもう少し早く読み終えていたかもしれない。
 政治の、革命の、蜂起の、市民運動のいい勉強になった

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【読書録】カント『純粋理性批判』に挑戦

 ついに大物、哲学界の要石であるカント、その『批判』三部作の最初である、『純粋理性批判』に挑戦する。
 これから読む、というのではなく、もうすでに150ページほどは読んでいる所だ。前に、確か二度ほど、全て読み切るつもりで読み始めて、他の本に移ったり読み進められなかったりして、挫折していた。それでいて、いつかは読むことになるだろうと思っていて、『批判』三部作全て、岩波文庫で買いそろえている。
 この

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【読書録】アレクサンドル・ジノヴィエフ『カタストロイカ』3 半年続けた読書の散漫な雑感

 やっと読み終えることが出来たが、余りはっきりした感慨もない。前回に、騙されたと書いた通り、何というか、真剣な読書ではなかった。が、それなりに得るところもあった。

 そもそもこの本を手に取ったのは、これもここで取り扱った気がするが、西谷修という人が、本の中でこの本について触れていたことからだった。どういう文脈かというと、ロシアやソヴィエトとして括られているこの地域のこの政治体は、一般に言われてい

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』4(終) 驚くべき二つの「効果」と一つの「操作の結果」

 フーコー節、とでもいうような、独特の語法があると、昔から思っていた。曰く、今はこれこれという観念が常識となっているが、それは通時的に自明なものではなく、○○年代に起こったこれこれの出来事の効果であった、など。

 今回、『精神疾患とパーソナリティ』を読み直して、初読では気付かなかった、というか、今までその初読の、途中まで読んだ時に抱いたイメージをそのまま引きずっていたのでわからなかった点が二つあ

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』3 あっけなく行われるフロイト精神分析の要約と乗り越え

 フーコーの『精神疾患とパーソナリティ』を、さらに読み進めている。

 フロイト理論の要約と問題点の指摘が、スピーディに、的確に行われていることに驚く、これは、やはり、前に一読した時には気づかなかった点である。

 フロイトの、初期の、と言っていいのか、分析の仕組みは、精神の構造の発展史的記述、人は生まれてから何期と何期があって、そして、それが一番外の膜で覆われてはいるが、実は見えないだけで今まで

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』2

 前回、言いたいことが言えなかった。
 そんな、フーコー自身は歴史の闇に葬りたかったこの書だが、それでも得るところは多いと感じる。
 この本は一九五四年に書かれたものらしい。精神医学は発展途上だった。哲学者にとっての精神医学だし、より仔細に症例を検討するのであれば、比べるのも良くないが、中井久夫の著書の方が、精神医学、精神疾患の位置づけとしてははるかにクリアで、明察を含んでいて、広い視野を得られた

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【読書録】フーコー『精神疾患とパーソナリティ』1

 また久々に読書録である。本当に、正味の読書録を書いていこう。今までは、気取り過ぎて、大変だった。

 フーコーの伝記を読んで、初めに出て来た本の、『精神疾患とパーソナリティ』を手に取った。実は、この本は、半ば来歴は知っていながら、ずいぶん前に購入して、七割方読んだ本だった。七割読んで、すっかり奥に仕舞われていた。が、伝記を読んだので、改めてバックボーンを知ることが出来たので、また味わいも変わるだ

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【読書録】聖書周り

 新約聖書の福音書を読む日々。何で今、いや、そんなにジャストのタイミングで読むべきものもない。読むことはたいがい、時期外れに行われる。
 ニーチェが確か『喜ばしき知識』かどこかで、ルナンのことを批判していたので、とりあえずルナンの『イエス伝』を読んでいたのだが、新約聖書を読んでいなければそもそも背景というか、何が書いてあって何が事実なのかという所もわからないので、今まで何かの折に読もうと思っては放

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【読書録】かつてあった大阪 柴崎友香+岸政彦『大阪』

 たぶんコロナ禍に入ってから連載が開始された、岸政彦という社会学者と柴崎友香という小説家の、往復書簡のような形式のエッセイ集。
 テーマは、まさに題名通りの「大阪」。どちらも生い立ちの多くは大阪という土地に彩られており、そのうち東京に来た、という所が共通している。
 その性質から、大阪の昔を描写せざるを得ないわけだが、それに関して二人とも慎重である。何が慎重かというと、過度に思い出のフィルターを掛

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【読書録】ディドロ他『百科全書』5 中世のプロジェクトX

 もう図書館に返してしまったので、直接読み返したり引用することはできないが、せっかく読み終えたので雑多に浮かぶことをまとめようと思った。
 まず一つ、思ったより現在ある百科全書との差異はない。内容が薄いということもないし、当時必要とされていた知識、網羅的にアーカイブするという意識も、現代のものとそう変わらないのだろう。
 前回触れた「神と王の気配を強く感じる」という点も、当時の法全般がそこを根拠に

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【読書録】アレクサンドル・ジノヴィエフ『カタストロイカ』 2

 あの許すべからざる侵略戦争が起きるはるか前に読み始めたのだが、読むことをサボっているうちに、社会情勢がこんなに変わってしまうとは、夢にも思わなかった。

 いずれ同じ調子で、ペレストロイカが起こった当時のことを、面白おかしく、だが「いくら誇張したように見えても、それこそが当時の現実だったのだ」調で、本当らしく語るのである。
 面白おかしいのであるが、時世が時世であるだけに、それほど無邪気にも読め

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【読書録】ディドロ他『百科全書』4 神と王の気配が強いんじゃ

 引き続きこの本を読んでいる。
 「自然法」「主権者」「親権」の項目。これらに滲んでいるのは、王権と親権の、今とは違う、今現在の日本の社会からは想像もつかない力関係としての王権と親権の力である。主権の奥には、神の力がある、神がいなければ、王は力をもたない、神の代理として振る舞うのが王である、等々、はっきりと書かれている。その力に歪んでいて、たぶん、現在ではこれは事典としては成り立たないのではないか

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