【読書録】かつてあった大阪 柴崎友香+岸政彦『大阪』

 たぶんコロナ禍に入ってから連載が開始された、岸政彦という社会学者と柴崎友香という小説家の、往復書簡のような形式のエッセイ集。
 テーマは、まさに題名通りの「大阪」。どちらも生い立ちの多くは大阪という土地に彩られており、そのうち東京に来た、という所が共通している。
 その性質から、大阪の昔を描写せざるを得ないわけだが、それに関して二人とも慎重である。何が慎重かというと、過度に思い出のフィルターを掛けないこと、ノスタルジーの色で見ないこと、それから、一般論に落ち込まないこと、あくまで個人として見えてきた光景を描写すること。小説ではないわけだが、この姿勢は大いに参考になったし、なまじ変な小説よりも大阪の感触を知ることが出来るかもしれない。
 もっとも、僕は個人的に大阪をよく知っているわけではない。もともと縁もなかったから、大阪をよく知ろう、といっても限界がある。
 今回これを買ったのは、柴崎友香という小説家が書いていると知ったからで、岸政彦については、ぜんぜん知らなかった。
 読んでみれば、昔はジャズ奏者になりたくて、ウッドベースをやっていたという。それから大学の頃に社会学の論文か何かを書いて、この道に入ったと。
 あまり文体はいい方ではないと思った。文体というか、倫理観というのだろうか。文章を律している意識みたいなものだ。合う合わないという問題だけれども、今まで、文体が合わないと思った本は、ほとんど読み進めることがなかった。逆に貴重な機会だともいえる。
 それで、基本的には柴崎友香のパートを読んでいる。割と、今まで込み入って話していなかったような話題にも触れている気がする。エッセイを読みこんだわけではないから、どこかですでに書いていたのかもしれないが。自分には、新しく発見する事実が多かった。
 それは、大阪という土地について、中心的に扱っているようで、まだ触れていなかったところがあるということだろうか。
 最初は岸政彦という人の文章を気に入らないと思って読んでいたが、そのうち、この相互に書かれる、かなりつながりのないエッセイのグルーヴというのだろうか、これに慣れてきて、よく読めるようになってきた。
 話は結構前後する所が多い。何度か学生時代の話をしたり、岸政彦に関しては、時系列というより、話題単位といった方が良い。しかし、どこか、それこそ倫理観というのだろうか、柴崎友香とどこか共有している部分があって、辺境的作家ということもあるかもしれない、そういったものが、何か話題とも時系列とも違う別の流れで、ひとつ流れているという気がしなくもない。
 まだ六割方しか読めていない。

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