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花農家で研修をした話

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【Vol.01】ディープな花屋にならないかい?

【Vol.01】ディープな花屋にならないかい?

「究極な花束を作る」

それは、物語と時間が込められている。
受け取った瞬間、自然とのつながりや自らの生を感じられる。
その答えを探す旅が始まったな、と思う。

・・・

「花と向き合うために、花を育てよう。だってここは長野県だから!」

馬酔木の大群集を見た私は、さっそく花農家さんを探すことにした。市役所の農林課を訪れ、「新規就農がしたいです!」「花農家さんはいらっしゃいますか?」と単刀直入に聞

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#最終章 愛してるぜ宮崎

#最終章 愛してるぜ宮崎

母の日が無事に終わり、同時に風の丘ガーデンでの研修が終わった。実は全く終わった実感がなく、いつものように出勤する勢いなのだが、悲しきかな、もう研修は終了した。様々な発見があったのだが、自分は文章を書くこと、そしてそれを読んでもらえることが嬉しい人間であることが分かった。
宮崎に行くまでの経緯、生産現場で感じたこと、そしてこれからの展望を記したいと思う。楽しんで読んでもらえることはもちろん、誰かの生

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#37 母の日に花を摘んだ話

#37 母の日に花を摘んだ話

日本の母の日はアメリカから伝わったらしい。
1905年5月9日、アメリカのフィラデルフィアに住む少女「アンナ・ジャービス」が母の死をきっかけに、「生きている間にお母さんに感謝の気持ちを伝える機会を設けるべきだ」と働きかけたのが始まりとされている。そして、彼女がカーネーションを母に捧げたことをキッカケに、この花が母の日のシンボルとなった。以降、5月の第2日曜日は感謝の印として母にカーネーションを贈る

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#36 母猫として

#36 母猫として

母の日にプレゼントを渡した記憶は無い。
理由は単純、母の誕生日が5月だったからだ。クリスマスに誕生日が近いとプレゼントを一緒にされてしまう論理に従って、母の日も同様、贈り物をすることを怠っていた。

私の母は@雑貨の職人である。故に近年腱鞘炎に悩まされており、いつまでも若くないことを自他共に感じ始めた。親孝行したい時に親は無し、と言ったものだが、良い機会なのでカーネーションを贈ることにした。

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#35 いい仕事

#35 いい仕事

張った糸が切れた、とはこの感覚を指すのだろう。

10連勤くらいしただろうか。一年で最も忙しいとされるカーネーションの出荷シーズン。今年で25歳になるのだが、感覚としてはもう若くない。そんな体を無理やり動かし、鈍りに鈍った身体に鞭を打って、最後は気分がハイになっていた。そして頂いた休日。温泉に入って、美味しいご飯を食べて、よく眠って…。迎えた出勤日。布団から身体が動かなかった。

気づけばあと5日

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#34 言葉如きが語れるものか

#34 言葉如きが語れるものか

好きな言葉がある。綺麗な言葉がある。
自分の美的感覚に合った言葉と出会った時、大切に記憶すると共に、その言葉をふと思い出す瞬間が訪れることが楽しみになる。

市場への出荷が昨日佳境を迎えた。ハウスの中にあるカーネーションの7割は姿を消した。忙しすぎて気づかなかったけど、気づいた時には別れが終わっていた。ほぼ空になったハウスを見ると切なくなる。わずかに残された花々は一般のお客さん向けに販売される。母

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#33 花緑青の木陰から

#33 花緑青の木陰から

早朝5時、起床。
今日から五月が始まった。
寝ぼけ眼を擦り、微かに温もりが残る布団の中でアニメを見る。アーニャが可愛い。私だったら仮初めの家族でなく、永遠に一緒にいてやるのに、と、寝起きであることを言い訳にしないといつロリコン認定されてもおかしくない思考に危機感を覚え、目が冴えた。
昨日、帰り際に湿布を貰った。湿布を舐めるんじゃない、絶対に貼れと言われたので、ふくらはぎ・もも裏・肩の前6箇所に貼っ

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#32 過酷な環境下におけるアーニャの必要性について

#32 過酷な環境下におけるアーニャの必要性について

今日は土曜日である。
繰り返す、今日は土曜日である。

母の日を1週間前に控えた花農家にに休息の時間は無い。
今日が土曜日だろうが、世間がGWだろうが関係ない。
カーネーションの旬は刻一刻と近づいている。
出荷、出荷、出荷、出荷…。
一年で最も苦しく過酷な三日間、私の上腕二頭筋は日に日に感覚を失い、精神は理性を崩壊させつつある。作業中に奇声をあげたり、変なタイミングで笑ったり、簡単な足し算を連続で

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#31 note書いてよかったなーって話

#31 note書いてよかったなーって話

SNSが苦手だ。
Twitterの限られた文字数の範囲内で共感を得られるような言葉を紡ぐことができない。
Instagramの作り込まれた世界観に映えるような生活も送ってない。

演者をやっている時、著名なインフルエンサーの方と仕事をさせて貰った。毎日同じ時間にスマホのアラームが鳴っていた。そして、投稿する写真と文章を選定。キラキラしてるように見える姿の裏で、地道に、地道に活動を続けている姿に心底

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#30 見えない罠

#30 見えない罠

「親父が転んで病院に行ってるので、早めに来れたら来てください。」

時刻は午前8時。ここ数日妙に意識が高くなった私は、始業1時間前にハウスに到着。出社前、陽気に猫の巣を覗き込み、愛猫を愛でることに集中していた。今日も可愛いねぇと不気味な笑顔を浮かべながら、ふと携帯に通知が来たことを知る。内容は、社長が転んで怪我をしたから早く来てくれないかというお願い。

"病院に行ってる"を"入院している"と誤読

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#29 初心忘れるべからず

#29 初心忘れるべからず

"慣れ"とは本当に恐ろしい。
研修終了まで既に2週間を切っている中、研修がただの作業になっていることに気がついた。
寝ても回復しない精神的な疲労、連続するあくび。

このような症状を世間一般では「ダレる」と言う。

自分の意欲低下を自覚し、悲観に暮れる。
なぜ東京を離れ、宮崎にやって来たのか。
答えは一つ、花に関わってみたい。
その為に、産業の川上にある生産農家から携わりたいと思ったから来たのであ

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#28 目を離した隙に

#28 目を離した隙に

切られた茎が伸びた。
風の丘ガーデンの研修3日目、茎を切ることで茎がさらに増える頂芽優勢という植物の性質を利用した「ピンチ」という作業を行った。そこから約1ヶ月経った今日、出過ぎた茎がさらに出過ぎた結果、ネメシアという花が晴れて出荷されるに至った。

自分が手を加えた花が旅立つ瞬間は感慨深い。
植物は目を離した隙に大きくなるので、成長した姿を見たときは驚きを隠せない。

目を離した隙に、と言えば先

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#27 猫の恩返し

#27 猫の恩返し

夢を見た。
いつものようにクロに餌をあげる。その場を立ち去り、2.3歩進んだところで振り返ると、クロが人間になっている。小松菜奈のような見た目、LEONのマチルダのようなボブカット、圧倒的な黒髪美少女だ。
そんな彼女から「もう何日も食べてないの、ご飯を一緒に食べたいな」と言われ、レストランに案内する。
食後に「帰る家がないの」と言われたタイミングで起床。
己の強烈な変態性を感じざるを得ない。夢の続

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#26 良質な筋トレ

#26 良質な筋トレ

風の丘ガーデンでの研修26日目。
遂に始まったカーネーションの出荷作業。
作業は至ってシンプル。約10キロほどのケースをひたすらに持ち上げ、運び続けるのだ。

思い出すのは高校生の頃の部活動。
私はラグビー部に所属していた。ガリガリの自分を変えたくて、「弱そう」と評される自分を変えたくて入部した。
練習は本当に辛かった。綺麗なタックルで相手を倒した記憶がほぼ無い。敵味方関係なく自分より大きな相手と

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