相徳 夏輝 / Natsuki Aitoku 【悪性リンパ腫・闘病中】

癌になったけど、面白おかしく生きていたい。 1997年6月25日生まれ/フローリストとして活動している中、27歳で悪性リンパ腫を発症。治療を受けながら闘病記を書いています。花や考えていることについても書きます。

相徳 夏輝 / Natsuki Aitoku 【悪性リンパ腫・闘病中】

癌になったけど、面白おかしく生きていたい。 1997年6月25日生まれ/フローリストとして活動している中、27歳で悪性リンパ腫を発症。治療を受けながら闘病記を書いています。花や考えていることについても書きます。

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左手の人差し指が綺麗になった。

爪を噛む癖があった。指先の皮を剥く癖があった。生きている実感がなくて虚無の時間が長ければ長いほど私の指先は荒れていった。人生のどん底にいたとき、無意識にホームで目の前を過ぎる電車を見続けていたとき、人が自分を殺めるのはどんな時かを知った。今も左手の人差し指だけはボロボロだ。現実に自分を戻す為に傷つけてるのかもしれない。いつか、100%自分はこの世界を生きれます、という自信が湧いた時、私の指は全て綺麗になるのだろう。 ・・・ 薬の影響で震える左手を眺める。花束を作るときは左

    • 【悪性リンパ腫・闘病記㉑】裸一貫

      -前回の記事はこちら- ・・・ 怒哀に満ちた感情に支配されながらしっかりと看護師との Hな夢を見て、しかし看護師さんからのHな誘惑を「あ、そういうの大丈夫です」と断ってしまい、己の男性としての機能や尊厳を疑問視して目を覚ました私はNetflixで相撲映画「サンクチュアリ-聖域-」を見ています。裸の男と男がぶつかりある姿に胸が熱くなっております。自分の精神状態がよくわかりません。 無菌室に入って1週間が経ちました。抗がん剤の影響でここ数日は宇宙にでも行ってきたのか?と錯覚

      • ”置かれた場所で咲きなさい”への返答

        「ずっと花屋さんに聞いてみたかったんですけど、”置かれた場所で咲きなさい”って言葉をどのように考えますか?」 ・・・ 以前、とある大学の授業で講師をさせていただく機会がありました。卒業後の進路を多角的な視点で考えるための「キャリア形成論」と呼ばれる授業。毎週ゲスト講師を招き、何か学生の人生のヒントになり得る授業を自由に考えて行ってもらう、という形式でした。 私は法学部を出てコンサルタントの仕事をした後、紆余曲折あって花屋になる、という珍しい経歴を持っているのですが、自身

        • 【悪性リンパ腫・闘病記⑳】<妄想>無菌室から脱出せよ!

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「無菌室病棟はあちらになりますので、ドアの前に立ったらナースコールを押してください」 再入院のために病院に戻ってきた私は受付を済ませ、病室へと向かった。通常だと受付表を持ってナースセンターに行けば看護師さんがそのまま病室へと案内してくれるのだが今回は違った。私はこれから約1ヶ月間、無菌室で集中治療を行うのだ。 入院する病院はフロアの半分が一般病棟、それ以外が無菌室病棟になっていて、両フロアは完全に隔離されている。唯一行き来するための出入

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        • 悪性リンパ腫・闘病記
          21本
        • 花農家での修行記
          2本
        • 花農家で研修をした話
          39本

        記事

          【悪性リンパ腫・闘病記⑲】極めて花屋的な死生観

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「どうせ死ぬなら美しく死にたい」 人生で初めての感情、こんにちは〜。今まで筋トレやおしゃれになりたいと言った自分を着飾るような動機は、突き詰めれば全て”異性にモテたい”といった健全とも不純とも考えられる動機でした。果てはどうなるかと言うと「仮にモテたとして何の意味があるん?」と、目的を代償とする苦痛・費用・時間といったネガティブな側面を回避する言い訳を用意し、いつかは習慣が消え去っている、そんな人生でございました。 この思考はとても厄介

          【悪性リンパ腫・闘病記⑲】極めて花屋的な死生観

          【悪性リンパ腫・闘病記⑱】 人生って大喜利の連続かも -ヴィクトール・E・フランクル著「夜と霧」-

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「君が人生に何かを期待するのではない、人生が何を君に期待しているかが問題なのだ」 ユダヤ人精神科医:ヴィクトール・E・フランクル著「夜と霧」。 第二次世界大戦中にナチスの強制収容所に約3年間収容された経験をもとに、過酷な日々と、人間の内面的な生きる意味を探求した名著。アウシュヴィッツ強制収容所に代表されるユダヤ人迫害のリアルが明瞭に描かれていて、少し読むだけで目を瞑りたくなり、冷や汗が出てくる。腐ったスープとパンだけの食事、栄養失調で骨

          【悪性リンパ腫・闘病記⑱】 人生って大喜利の連続かも -ヴィクトール・E・フランクル著「夜と霧」-

          伝えたい言葉

          人に自分の好きな本を渡すのは、なんだかとても上品なことだと思います。選書に人の個性と歴史が出る。これまで沢山の本を薦めてもらい、沢山の本を押し付けてきました。私はあなたにこれを読んでほしい!なんて、正真正銘愛の告白みたい。本棚を見せることは服を脱ぐことに似てるかも。なんだか恥ずかしいですね、きゃっ♡ 腫瘍が見つかったとき最初に誰に伝えるべきか悩み、大学時代に一緒に暮らしてた友人に電話しました。 「突然なんやけどな、胸に腫瘍が見つかってな、多分癌やねん」 彼は数秒間の沈黙

          【悪性リンパ腫・闘病記⑰】なんかMARVELみたいだなあ

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「なんかMARVELみたいだなあ」 MARVELとは、スパイダーマン、アイアンマン、キャプテン・アメリカなどなど、世界を救うスーパーヒーローを次々と生み出してきたアメリカンコミックスのことだ。ちなみに、MARVEL作品をちゃんと観たことはない。 人は危機に瀕したとき、情報を得ることに貪欲になる。根っからの文系で一番不得意な科目が理科だった私でも、癌になったことで治療の知識や方法を自分から調べたりするようになった。最初は主治医が使う難解な

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          【悪性リンパ腫・闘病記⑯】抗がん剤クール2

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「考えてしまうこと」 クール2で最も辛い副作用だった。クール1に比べて、副作用があまり出ていない。嗅覚が何かの匂いを捉えただけで嘔吐することも、痒みに耐えきれず肌が血だらけになることも、無い。発熱や手足の痺れは症状として起こっているが、これまでの苦痛に比べれば取るに足らない。だが、この束の間に思えた安堵が1日1日と連続していくと、幸か不幸か頭が少しずつ冷静になってきてしまった。入院生活は、何かを考えるにはとても十分な時間がある。漫画や映画

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          【悪性リンパ腫・闘病記⑮】美味しいご飯を食べること-チキン南蛮への恋慕-

          -前回の記事はこちら- ・・・ 例えば、ランチタイムに一階にあるローソンへ食べ物を買いに行ったとする。本当は冷えたそばが食べたいなと思って来たんだけど、入り口付近で「まちかど厨房」と呼ばれる、店内の厨房設備で調理されたお弁当やサンドイッチのコーナーを見つける。そして、左斜め下に陳列されていたチキン南蛮丼に目が行った。わたしはチキン南蛮が大好きだ。もも肉派かむね肉派で意見が割れるようだが、正直どっちも美味しいのでこだわりは無い。柔らかい鶏肉を纏う衣に甘酸っぱいタレにひったり

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          【悪性リンパ腫・闘病記⑭】青ク深イヨル

          -前回の記事はこちら- ・・・ 深夜2時、目を覚ました。抗がん剤の副作用の影響か、眠りが浅く、一度起きたらなかなか寝られないらしい。仕方がないので、YouTubeを開いて怖い話やサイコパス事件の解説動画を見始めた。最近までは犬の動画を見ていたけど、きっと自分が身を置く環境とのバランスをとっているのだろう。ダッチロールみたいに不安定な心電図。まばらに光る夜景を横目に、やっぱり自分は病気で、入院をしている事実を確かめるように…。 深夜3時、天井を見つめている。抗がん剤の副作

          【悪性リンパ腫・闘病記⑭】青ク深イヨル

          【悪性リンパ腫・闘病記⑬】スキンヘッド・イズ・ワンダフル!

          -前回の記事はこちら- ・・・ 突然ですが、禿げました。 自分の掌よりも大きくて広いおでこがコンプレックスで、前髪で隠し続けてきた。2年に一度くらいの頻度で、短所は実は長所になる的な思考に虎われて前髪を分けたり、短髪にチャレンジしたくなってしまうのだが、大学1年生の時にとある美容師から言われた「お客さん、結構奥行きありますねー」の一言にひどく傷つき、その日から、将来の夢はお金持ちになって植毛することになった。毛根は浅いかもしれないが、この問題は根深い。 実は高校生にな

          【悪性リンパ腫・闘病記⑬】スキンヘッド・イズ・ワンダフル!

          凍らせた帰り道、ただの妄想。

          悪性リンパ腫という血液癌を発症してしまい、その治療が原因で精巣に大きなダメージを負った。精子凍結を行うも、運悪く抗がん剤治療が始まった後だったので、正常値が100とすれば3くらいしか健康な精子は残っていなかった。微量に残ってた精子は凍結できたのだが、医者からは「この量だと足りないね。数年後に復活する可能性もあるから」と悲しげな表情でフォローされた。将来はゴールデンレトリバーとペルシャ猫を飼って海辺の街で静かに暮らす未来を想像したが、病院での帰り道、ある意味コペルニクス的転回と

          【悪性リンパ腫・闘病記⑫】精子凍結の話-小さな個室とエッチなビデオ-

          ※赤裸々に体験を語っているので、シャイな方は読むのをお控えください。 -前回の記事はこちら- ・・・ レントゲン室の奥の小さな個室。案内してくれるのは初老の看護師。片手には小さな巾着袋。また一つ、特異な経験をしてしまった。 抗がん剤の副作用といえば、嘔吐や免疫不全、そして脱毛。例外なく私の頭は光り輝くツルピカになってしまったのだが、慣れてしまえば楽なもんだ。シャンプーはいらない。その代わり、保湿クリームを塗る範囲が広くなってしまったが。 そして、あまり知られてないの

          【悪性リンパ腫・闘病記⑫】精子凍結の話-小さな個室とエッチなビデオ-

          【悪性リンパ腫・闘病記⑪】推しの看護師の話

          -前回の記事はこちら- ・・・ 「そのやり方じゃダメでしょ!」 看護師さんが医師から説教を受けている。これから手術を行うのだが、その準備の過程で看護師さんがヘマを打ってしまったらしい。 抗がん剤は強力な薬なので、腕から点滴を投与すると血管がボロボロになってしまう可能性がある。そのため、太い血管「大静脈」にカテーテルという太い管を大静脈の血管に刺し込む手術を行う必要がある。一般的には首の血管から薬を投与するのだが、私の腫瘍は胸部にあるため、最初は点滴を投与する位置を腫瘍

          【悪性リンパ腫・闘病記⑪】推しの看護師の話

          いつか、誰かのために”残す”こと。

          27歳で癌が発覚したとき、最も不安を感じたのは、情報の少なさであった。 病名に関する文献や記事は溢れているが、そもそも癌になる割合は高齢者が多いため、症例が若者に合致しないケースも多い。また、実際に体験した人の声も少なく、だからこそと言うべきか、あるとき、誰かが残してくれた闘病記との出会いが、心を救ってくれることがあった。どのような治療をしたのか、抗がん剤の副作用について、社会復帰後の生活は?などなど。熱を帯びた同世代の叫びが、私に病気に対する覚悟を抱かせてくれた。 先日

          いつか、誰かのために”残す”こと。