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創作ものがたり

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2021年5月の記事一覧

大切なものが欠如した世界のどこかで

大切なものが欠如した世界のどこかで

僕たちは歩いている
目的地は無いが いつも歩いている

僕たち というのは
僕には妹がいて
その妹が連れている茶色の動物がいる
だから 僕たち

何となくいつも一緒にいる

何となくお腹が空いたらそこら辺の草や
小さかったり動かなかったりする動物を食べて歩いている

この前 僕たちも僕たちより大きな動物に食べられそうになった
あいつはよく僕たちを食べようとする
1回噛まれたことがあるがとても痛くて

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怠惰の中に映るもの

怠惰の中に映るもの

何も考えたくない日は
何も考えないでやろうと思った

何もやりたくない日は
何もやらないでやろうと思った

でも そうはいかなかった

何も考えたくない日でも
何も考えたくないって考えなきゃいけなかったし

何もやりたくない日も
ダラダラして寝付くまで寝転がってなきゃいけなかった

生きていることは素晴らしいと
生きているだけで幸せだと
死にたいと思えるだけで幸せじゃねーかと
そう言って笑うあなた

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嘘の色

嘘の色

「今日、先生休みだってよ」
僕は親友のアサヒに嘘をつく。
「え、マジで?」
アサヒは少し喜んだ。
「うっそー」
僕はアサヒに向けて舌を出す。
「だと思ったよ」
僕に指を向けて、小さいため息をつくアサヒ。

僕の顔に、1本線が入る。

「お、今日は緑だな」
アサヒは僕に鏡を見せる。
「ホントだ、緑だ」

よく分からないが、これは僕の体質である。
先天性のものではない。
ある日突然、嘘をついたら顔に線

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マンホール大魔神

マンホール大魔神

「あきと!!またあんた勝手に食べたわねー!!」

戸棚のお菓子を勝手に食べたら、怒られた。
でも食べたかったんだから仕方ないじゃないか。
でもそう言ったら怒るんだから、言えないし。

僕は不貞腐れて、小さな声で「食べてない」と呟く。

「嘘つくと庭のマンホールの中に閉じ込めちゃうからね!!!」

お母さんはいつもそうやって言う。
マンホールなんて工事のおじさんが使うやつなんだから、底が無いわけない

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水が降る

水が降る

子どもが泣いている。
どうしたのかと聞くと、お母さんがいなくなってしまったらしい。
一緒に探してあげるよと言うと、子どもはありがとうと言って僕と手を繋いだ。

しばらくすると、母の姿が見えたようで
子どもは僕の手を振り払って走り出した。

母親に抱きついたその子の傍に行き
見つかってよかった、と声を掛けたら、
その母親は怪訝そうな顔をして僕に浅く1礼をした。

なんだか不快だった。

不快な気持ち

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死ぬことを恐れない男

死ぬことを恐れない男

ある昼下がり、俺は駅に立っている。
未曾有のウイルス災害によりテレワーク続きだった会社も、徐々に出勤となった。
しかし時差出勤とやらで俺はこの時間に会社に向かうことになったのだ。

午前にリモート打ちが無ければ昼前まで寝れることは嬉しいが、逆にそんなに長く寝てしまうと今度は起きることがしんどくなる。
それが俺にとっての最近辛いことだ。

瞼が重い。欠伸が出る。
電車はまだ来る気配がない。

ポカポ

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本と目薬

本と目薬

「あー、疲れた」

そう言って机の上の目薬を手にする彩未。
目の前には大量の本。

「まだ読めるけどなぁ」

時計を見るともう深夜2時を回っていて、
明日の朝も早いのにな、とため息をつく。

「さすがに、寝るか」

愛してやまないベッドに横になり
癒しのホットアイマスクをして目を閉じる。

今日読んだ本、どれが1番面白かったっけ。

彩未は頭の中でストーリーを整理する。

彩未にとって、この時間は

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機ーボード

機ーボード

キーボードを押して文を紡いでいる時
ふとあなたの顔を思い出して
キーボードに書かれる配列の中の
平仮名にあなたの名前を探した

思い出せば出すほど
幸せになって苦しくなる

キーボードというのはある意味見える無機質で
様々な言語の元素になる
誰も見ていないのを確認して
作っている文の中に
あなたへの1文を打ち込んでみた

「いま、あなたは元気ですか」

ここでのあなた、とは私の元想い人で
突然連絡

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教えてくれないQRコード

教えてくれないQRコード

帰りの電車でQRコードを見つけました。

いまや当たり前にあるこのコードの意味と
このコードの由来を知っている人はどれくらい居るのでしょう。

知らなかった私は、
調べてみることにしました。

このコードは1994年に誕生し、
QuickResponseの略でQRコードと呼ばれるそうです。

その名に恥じない、早い反応を試そうと思って私はそのQRコードにカメラを向けました。
一瞬で、大学の情報ペー

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オノマトペスケッチ

オノマトペスケッチ

ふわふわ
ふわふわ

でも羽はバタバタ忙しなく動く

この蝶なのか蛾なのかわからない虫は
なんのためにここでパタパタ羽ばたいているのだろうか

ふわふわも
バダバタも
パタパタも
どこで誰が考えたオノマトペか

私は蝶をスケッチする
いや、蛾かもしれないがとにかくその虫をスケッチする

キュッキュッ
ケシケシ
絵は完成に向かう

忙しなく動く羽は、私に柄を描く暇も与えてくれない
むしろ私が描いてい

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ハローグッバイウィズギター

ハローグッバイウィズギター

相棒のギターを持って、
彼はありがとうと笑って出ていった。
私の好きなギターの音色が、さっきまで家に響いていたのに。
私は彼が座っていた場所に座る。
まだ残る、彼の温もり。

出会ったのは路上ライブ。
彼は有名バラードをカバーして、全力で歌っていた。
バラードなのにめっちゃ全力。
馬鹿なのかなって思ったけど、その全力さに惹かれて通うようになった。

5回目の路上ライブの日。彼は缶を投げられた。

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世界の色というものは

世界の色というものは

色の名前を付けたくなるような日は
決まって絵を描くようにしています

基本的には皆が想像できるような、
在り来りな色の日が多いです
楽しかった日はオレンジ
悲しかった日は青
癒された日は緑
失恋した日は紫

ただ、この感覚は人によっては違うようで

この前、
悲しかった日の色は青じゃなくて普通は赤だよ
と言われました

赤?何故?
私はつい聞きました
気になったので聞きました

そしたらその人は、

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デスクファンと回る夏

デスクファンと回る夏

蒸し暑い日の午後。
キーボードの音と
電話応対をしている声が響くオフィスで、
私は、昔娘に貰ったデスクファンを取り出した。

「お、金平さんがそれを出すということは、もう夏ですね」

同僚の松井がうちわで顔を仰ぎながら話しかけてくる。

「そうだね。夏ももう間もなくな気がするよ。今日はとても暑い」

携帯の充電コードを抜き、空いたUSBタイプのタップに扇風機のコードを差し込む。
今にも全員餃子にな

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茶の味は不気味

茶の味は不気味

朝、目が覚めて
ごちゃごちゃになった前髪を整えて
また今日の始まりに憂鬱になる

一日の終わりに、明日も頑張ろうと
青い貰い物のハーブティーを飲んだ夜。
私は夢を見た。

遠い過去に戻る夢。
それがいつの過去かはわからなかったが
それは確かに過去の夢。

タイムマシンに乗って、何時間も何年も遡る。
それがたまらなく楽しくて。
戻れない過去、戻らない夜。

小さい頃に眺めてた夕暮れの
青とオレンジに

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