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よろしく愛して

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実りがない人生ならば、 長期展望にどんな意味があるのでしょうか。 どんな時でも、しょうがない人でありたい、 そんなしょうがない人を愛していたい。
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#大学生

久しぶりにさようなら

久しぶりにさようなら

明後日、僕はこの部屋を出てゆく。大学入学を機に上京し、4年間ここに暮らした。

神田川に流れる水の音を聞きながら朝の光で目を覚まし、そのたびに何かが起こるような高揚感に浸った。徐々に何も起こらないことも知った。

何も手につかなくさせる春に咲いてはすぐに散って行く、あの桜の物悲しさを

メロンソーダを作るために近所のスーパーを駆けまわり包まれる、生ぬるい風が運ぶ初夏の香りを、初めての恋人と夕暮れを

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もう会えない人ほど

もう会えない人ほど

 もう会えない人ほど会いたい。もう会えないから、会いたい。なんとかすれば会えるのだろうけど、会っても何の話をすればいいのかがわからない。どんな顔して、どんな態度で。徐々に高まる心臓の鼓動を、僕は隠し通す自信が無い。

 だからきっと、会えないということにしたいのだろう。

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 就活なんてものをもう一度始めてしまった。今回は真面目に自己分析などということをしている。初めは主体性が無く、ドエム

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僕だって、ドクター・マーチンが履きたかった

僕だって、ドクター・マーチンが履きたかった

僕だって、ドクター・マーチンが履きたかった。

カジュアルかつスマートなデザインの、正直格好いいヤツ。ソールも高く、履けば立ち姿がなかなか様になるヤツ。そんなマーチンが履きたかった。

でも、履けない。みんなが履いているからだ。ドクター・マーチンを履いて街を歩けば、人は僕のことを「ドクター・マーチンを履いている人のなかの1人」として認識するだろう。それが堪らなく嫌だった。

履きたいものを履けば良

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東京、大学、魔法

東京、大学、魔法

僕は4年前に東京に出てきた。それまで田舎の浪人生だった僕は、上京したての頃、この大都会に突然、ぽん、と投げ出されたかのような心細さを抱えていた。地に足がつかないまま日々を慌ただしく過ごし、自分がどこにもいないような、そんな寂しさの中にいた。

あの頃、大学の同級生たちは、誰もが必死に自分の居場所を探していたのかもしれない。とにかく皆、どれだけ大学生活を楽しめるかに固執していた。あたりまえだ。それが

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23歳の地図

23歳の地図

23歳になった。東京に出てきて4年が経った。

1年大学進学に遅れた僕は、この年で学生生活を終える。この街に出てくれば何かが変わると思っていた、というセリフを大学4年間で何度吐いたか知れない。

23歳になれば、ちゃんと朝ご飯を食べられると思っていた。もしくは、だれかとちゃんと朝を過ごしていると思っていた。相変わらず朝に弱いし、珈琲マシンを購入する勇気は出なかった。

23歳になれば、ちゃんとした

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愛をもらった日

愛をもらった日

「愛」と僕は答えた。

それは普段行き会うことができない友人からの「今から訪ねるけど何か欲しいか」という連絡に対してだ。

大学一年生の頃から付き合いのある彼は、演劇の道で食っていくと言い残し、大学4年生で早稲田大学を去った。その頃から、彼とは多忙につき中々会うことができなくなっていった。そんな矢先のことだ。

特に欲しいものは無く、どうせ彼は万年金欠なのだからろくなものは期待できなかったために吐

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君は異邦人だった

君は異邦人だった

君は異邦人だった。孤独だった。染まり切れない周りの空気感が歯がゆかった。人と同じが羨ましかった。きっと、自分の居場所がどこにもないような気がしていただろう。

僕は、地方特有の「こうでなくてはいけない」という同調圧力に嫌気が刺して地元を飛び出してきた口だ。つまり、生まれ育った土地に居てもどこか、異邦人である様な疎外感を抱いていた。

東京は良い。まるでみんながみんな異邦人であるようだ。むしろ、この

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「夢語らざるモノ食うべからず」なラーメン屋

ハーバード大学のそばにある【yume wo katare】というラーメン屋では、食事の後、誰でも【夢を語る機会】が与えられるらしい。また、次に夢を語る人のためにラーメンの代金を店に託すことができる、という制度もあるみたいだ。

このお店、いまアメリカでとてつもなく繁盛しているのだと、ある授業で教授が言っていた。

また「今早稲田大学にこのラーメン屋ができても、誰も来ないですよね」とも教授は言った。

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だから、君は辛くていい

だから、君は辛くていい

先日一緒に飲んだ女の子が言っていた。

自己肯定度と承認欲求の乖離が、私を辛くさせているのだ、と。自分はこの程度の人間だけど、もっと認められたい、もっと見て欲しい。その満たされない想いが私を辛くさせている、と。

言い換えれば、自認と理想のギャップ、ということになると思うんだけど、その構図ってどんな感情にも由来しているんじゃないかな。

例えば寂しさ。

例えば悲しみ。

嬉しい時だって、楽しい時

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僕が旅に出る理由は

僕が旅に出る理由は

都市を離れ、西へ、西へと向かった。
長い間電車に揺られながら、変わりゆく景色を眺め、ふと随分遠くに来たことを実感した。
それと同時に、自分が今までに失くしてきた物や人を想った。

知らない町に降りると、人がまばらになる。
彼らは散り散りになり、それぞれの場所に向かう。

地元の人間が好みそうな居酒屋に入る。
寡黙な店主と些細な会話を交わし、店内を舐めるように見回した後、生ぬるくなり始めたビールを飲

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旅と人生は似ているか

ずいぶん遠くまで来てしまった気がする。

中国地方の奥、懇意にしていた女の子の家に泊めていただいた。帰りが本当に寂しくて、この景色を、この部屋の色を、この人の肌の温度を、忘れたくないと車窓から月が水面に映る様子を観ながら考えていたが、これが旅の魔力なのかもしれない。

旅と人生は似ている、と誰かが言っていた。

果たして本当だろうか?

僕の過ごしたこの一日は、山のような曲線を辿って気持ちの高ぶり

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蛍が飛び交う頃、きみは

蛍が飛び交う頃、きみは

僕は蛍をみたことがない。理由は二つある。まず、単純に蛍をみる機会に巡り合わなかったこと。そして、大学生のうちに一緒に蛍をわざわざ見たいと思える人に巡り合えなかったことだ。

毎年この季節になると、早稲田大学の近くにある椿山荘というホテルが、庭園に蛍を放つ「蛍の夕べ」という催しを行う。大都会の中心にそんな催しがあるなんてとても素敵だ。曇りがちな都会の夜にこそ、孤独な人々を照らす星が必要であるように、

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夏の魔物が消えてくれない

夏の魔物が消えてくれない

古いアパートのベランダ。

生ぬるい風にたなびくシーツ。

魚もいないどぶ川。

6畳のワンルームの窓を開けると、初夏の香りが舞い込み、僕をどこか遠いところに漂っているかのような気持ちにさせる。

夏には、不思議な力がある。

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五月下旬になると気温も上がり、夏らしい気候が訪れる一方で、梅雨の気配を同時に迎える。世間が5月病だなんて無理やり自分の無気力さを解釈し始める時期だ。

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