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僕だって、ドクター・マーチンが履きたかった

僕だって、ドクター・マーチンが履きたかった。

カジュアルかつスマートなデザインの、正直格好いいヤツ。ソールも高く、履けば立ち姿がなかなか様になるヤツ。そんなマーチンが履きたかった。

でも、履けない。みんなが履いているからだ。ドクター・マーチンを履いて街を歩けば、人は僕のことを「ドクター・マーチンを履いている人のなかの1人」として認識するだろう。それが堪らなく嫌だった。

履きたいものを履けば良いじゃん。誰にどう思われるかを一番気にしているお前はダサいよ。人は僕にそう言うかもしれない。だけど、これだけは譲れない。僕は、マーチンを履かない。

好きなバンドを訊かれれば、あいみょんも、東京事変も挙げない。凡庸だと思われたくないからだ。その思考こそ凡庸だよ、と言われても、挙げない。結構好きなんだけど、絶対に挙げたりしない。

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「人と同じことをしたくない」と、きっとほとんどの人が思っているのだろう。だけど、「人と同じことをしたくない」と思いつつも、人と同じことをしなければ、生きていけない。

あるいは、「人と同じことがしたくない」から「人と同じことをしない」と言う人がいれば、きっと彼は価値の基準を他者に委ねているのだろう。主体性もなにもあったもんじゃない。これは何という皮肉だろうか。

好きな物は好き。嫌いな物は嫌い。死ぬほど気に食わない人は、どこまでいけども気に食わない。それは「人と同じことをしない」のではなく「自分の価値観に従う」ということ。一部の趣向が他の大多数と被ることもあるし、そうじゃないこともあるはずだ。

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僕はドクター・マーチンを履かない。履きたいけど履かない。絶対に、履かない。人と同じことをしたくないから、なのかもしれない。マーチンを履かないのは僕の信念であり、いや、実際のところ、そんなに履きたいわけでもない。

だけど、僕だってマーチンが履きたかった。
何も考えずに、履いてみたかった。

僕はとてつもなく自分勝手なのだ。

だって、ニューバランスは履いているから。履き心地が最高で、一生付き合っていきたいとすら思っている。僕の履くニューバランスは色味が最高に格好いいんだ。

人類全員がニューバランスを履いていたとしても、僕はニューバランスを履き続ける。逆に、誰もニューバランスを履かなくなっても、僕は履き続ける。

「生きてて息苦しくないの?」と言われることも多い。

でも意外と悪くないよ。

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井出崎・イン・ザ・スープ
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