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もう会えない人ほど
もう会えない人ほど会いたい。もう会えないから、会いたい。なんとかすれば会えるのだろうけど、会っても何の話をすればいいのかがわからない。どんな顔して、どんな態度で。徐々に高まる心臓の鼓動を、僕は隠し通す自信が無い。
だからきっと、会えないということにしたいのだろう。
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就活なんてものをもう一度始めてしまった。今回は真面目に自己分析などということをしている。初めは主体性が無く、ドエム寄りの、くだらない連中のための方法論だと思っていたけれど、これは僕が完全に間違っていた。自己分析は、すごい。くだらないのは僕の方だった。
部屋にこもって自分のことを考えていたら頭がおかしくなりそうになったので、色々な社会人に当たって面談をしてもらった。アウトプットを繰り返し、過去の苦い記憶を掘り起こしながら、今現在の僕を知る。要するに、過去の点と現在の点を強引に繋げる作業である。どうやら「一貫性」という辻褄は、自分をプロモーションするうえでとても重要らしい。
ある面談。「どうして君は人と壁を作ってしまうのか、何が起因なのか」ここまで来ると心理カウンセリングの域なのかもしれないが、面談相手の彼は熱心に僕の話を聞いてくれた。
そう、あれは中学のバスケ部時代のこと。恐ろしく性格の悪いキャプテンが、チームを支配していた。僕はそんな彼が大嫌いだったけれど、彼がいたからこそ僕らのチームはまさに最強だった。本当に僕らは強かった。
恐ろしく性格の悪いキャプテンが本当に嫌いで、あの狭っ苦しい空気は今考えても異常だった。キャプテンができないことを俺はやろう。彼がチームを抑圧するならば、俺はチームを労い、楽しませよう。それが当時の僕の、キャプテンに対する精一杯の反抗だった。
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「そういった過去が、もしかしたら今の貴方に影響を与えているのかもしれないね」彼が言った。
「今その時に戻ったらどうしますか?」
「誰よりもうまくなって僕がキャプテンをやります」
「誰よりもうまい人がリーダーでなくてはいけない、という観念を抱いているんだね」
こんな会話をした。確かに、リーダーは誰よりもうまく、賢くなくてはいけない。何故ならば、成果を出し続けなくてはいけないからだ。果たして、僕にとってのリーダー像、その原型はどこにあるのだろうか…。
そんなことを考えている夜、夢を見た…随分深く、果てしなく透明な記憶だった。
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憧れの先輩との再会。彼はバスケ部の一つ上のキャプテンだった。頭が良すぎて扱いずらい、それが第一印象だったことをよく覚えている。運動神経も成績も秀でていて、とても優しかった。なぜか彼は僕のことを気に入ってくれていた。まさに理想のリーダーだった。
中学を卒業した彼は、県で一番の進学校に入学した。彼の後を追うため、その高校を志望した僕は、試験に落ちて、入学できなかった。それから彼とは、徐々に疎遠になっていった。
そんな記憶を掘り起こす様に、透明で、鮮やかな夢を見た。彼のことなどしばらく思い出していなかったが、自己分析なんてヤツのせいで、おもいがけない再会を果たしたのだ。僕は彼にとてつもなく会いたくなった。
今僕は、彼にとてつもなく会いたい。
なんだかやるせない想いで朝を迎えた。
僕は、高校も落ち、大学も落ち、浪人をし、彼に合わせる顔が無いと思っていた。そんなことでぐずぐずしているうちに、彼の連絡先など無くなっていた。何度かフェイスブックで彼の名前を検索した。もちろん、出てこなかった。
そんなことをしているうちに、就職もできなくなって、ますます彼に合わす顔が無い。連絡先も知らない。共通の知人もいない。
心から、心から会いたいと思う時ほど、もう戻れないところまで来てしまっている。
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