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東京、大学、魔法

僕は4年前に東京に出てきた。それまで田舎の浪人生だった僕は、上京したての頃、この大都会に突然、ぽん、と投げ出されたかのような心細さを抱えていた。地に足がつかないまま日々を慌ただしく過ごし、自分がどこにもいないような、そんな寂しさの中にいた。

あの頃、大学の同級生たちは、誰もが必死に自分の居場所を探していたのかもしれない。とにかく皆、どれだけ大学生活を楽しめるかに固執していた。あたりまえだ。それがあたりまえなのだけど、周りの友人のように、見え透いたお世辞も言えない、道化を演じることもできない。さぞかし先輩にとって扱いずらい存在であっただろう僕は、そんな同級生たちに温度差を感じ、なんだかやりきれなかった。

受験戦争を終えた直後のノイローゼだった。予備校では、毎日に目標があった。一緒に励む仲間もいた。志望大学に受かれば、楽しい日々が待っている、そう思い込んでいた。

蓋を開けてみれば、大学生活など本当に大したことがなかった。いや、自分からアクションを起こさなければ、誰も干渉してこない、何も起こらない。大学生活とはそんな期間だ。翻すと、自分次第で何でもできる、そんな時間だったということに僕はまだ気づいていなかった。

何も楽しくない。何もしたいことがない。何にも混じわりたくない。それでも、理解されたかった、認められたかった。それなのに、誰とも会いたくなかった。

僕は傲慢だった。居場所を見つけようともせず、作ろうともしなかった。

大学生活とは、全ての人を無条件で幸せにする魔法などではない。
やっとのことでそれに気づいた僕は、好きな人と好きな場所で気ままに過ごすようになった。好きな読書や映画に時間を費やすようになった。とりあえず色々なことに手を出すようになって、身を削った無茶を笑い話にした。

唐突に空しくなることも、寂しくなることも、今では少なくなった。それは、誰かに人生の舵取りを任せなくなったからなのかもしれない。好きなモノや人は、僕が決める。どんな人生を、どんな人と過ごしたいか、これから僕が決めればいい。それでいいじゃないか。

時々、何にも手が着かない無気力な日を迎えると、あの頃の自分に再会したような気持になる。あの頃の自分に何か一言あげるとしたら、東京とはそういう場所だ、と僕は言うはずだ。

大人になったのかどうかはわからない。少なくとも、この大都会との付き合い方は、あの頃よりも分かってきた。

#エッセイ #東京 #大学 #大学生 #大人になったものだ

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井出崎・イン・ザ・スープ
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