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23歳の地図
23歳になった。東京に出てきて4年が経った。
1年大学進学に遅れた僕は、この年で学生生活を終える。この街に出てくれば何かが変わると思っていた、というセリフを大学4年間で何度吐いたか知れない。
23歳になれば、ちゃんと朝ご飯を食べられると思っていた。もしくは、だれかとちゃんと朝を過ごしていると思っていた。相変わらず朝に弱いし、珈琲マシンを購入する勇気は出なかった。
23歳になれば、ちゃんとした大人になれると思っていた。経済新聞も読むし、満員電車にも慣れて、日本の将来を憂う一員になっていると思っていた。
23歳になれば、自分の言動にもっと責任が持てると思っていた。自分の気持ちはうまく言えないし、伝えたい想いも、伝えるべき相手もよくわからない。反省することは多いし、色々な人に対して申し訳ないとばかり思っている。
23歳になれば、働くことに決心がつき、幸せにすべき人との将来も考えているのだろうと思っていた。未だに海辺の静かな町で素朴な喫茶店を経営する夢を見てしまうし、相変わらず誰かと居るよりも一人で居ることを望んでしまう。
ただ、23歳になっても、人間関係は変わらないと思っていた。
生きる場所すら変わって行くだなんて思いもしなかった。
結婚を目前に控えた友人や、全く違う方向で就職を決めた友人に対して、少し、ほんの少しだけ負い目を感じるようになった。
変わることができると思っていた僕と、変わらないでいてくれると思っていた人たち。
僕たちは初めから違う生き方だったのだ。ただ生まれ育った場所が同じだったとか、選んだ大学が同じだったとか、入ったサークルが同じだったとか、平行線がなにかのキッカケで一瞬交じり合った、ただそれだけの話で、生き方の違いがこの齢で初めて現れただけなのかもしれない。
変わることは良いことだと思う。いや、変わって行かなくてはいけないのかもしれない。けれども、どれだけ生きる世界が違っても、どれだけ時間が経っても、それでも変わらない関係があるとしたら、変わることができない僕にはそれが、どうしようもなく愛おしい。
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