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久しぶりにさようなら

明後日、僕はこの部屋を出てゆく。大学入学を機に上京し、4年間ここに暮らした。

神田川に流れる水の音を聞きながら朝の光で目を覚まし、そのたびに何かが起こるような高揚感に浸った。徐々に何も起こらないことも知った。

何も手につかなくさせる春に咲いてはすぐに散って行く、あの桜の物悲しさを

メロンソーダを作るために近所のスーパーを駆けまわり包まれる、生ぬるい風が運ぶ初夏の香りを、初めての恋人と夕暮れを眺めながら聴く、夏の終わりと秋の訪れを告げる鈴虫の声を

指先を冷たくさせるほどの別れと寒さに満ち、そしてどこまでも澄んで行く冬の空気を、きっと僕はいつまでも忘れないと思う。

カーテンの間から射しこむこの5畳半の狭い部屋に満ちていた淡い光に、包まれることはもう二度とないのかもしれない。そして代わりに、僕がこの部屋を出てゆけば、いつかは次の誰かがここに住むのだろう。僕と同じように、代わり映えのない現実を知っては、死ぬほどの幸福に浸り、その淡い光を愛おしむのだとすれば、きっと人生にはそんな時間が必要なのだと思う。

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