青沼静哉

1965年札幌生まれ、帯広と網走育ち。故郷はどこかと聞かれたら住んだ街よりも「道東の川…

青沼静哉

1965年札幌生まれ、帯広と網走育ち。故郷はどこかと聞かれたら住んだ街よりも「道東の川と湖」。小説『ほか♨いど』で第23回早稲田文学新人賞受賞(選考委員は東浩紀さん)https://twitter.com/hokaid

マガジン

  • 短編小説2編

    好きな短編小説を1つ挙げろと言われたら、筒井先生の短編は「鍵」「走る取的」「死にかた」「マグロマル」「メタモルフォセス群島」……いいのがありすぎて一つに絞れないし、安吾の「夜長姫と耳男」も好きだが全人類の宝のような作品でここでわざわざ挙げる必要もない。で、選んだのは山田正紀の初期短編「薫煙肉(ハム)のなかの鉄」。資本主義の暴走の果てに世界が破滅、生き残った人類が草食と肉食に分かれて暮らしている、というディストピア小説。女性の扱いに政治的正しさ的に難があるものの、資本家の復活の芽を摘むというSFプロレタリア文学の趣きがあり、葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」と映画「マッドマックス」の世界観をミックスしたような傑作なのだが知る人は少なく今や読むのも難しい。

  • 」「寄生獣「考」「(前編/後編)「

    SFマンガの金字塔、岩明均の『寄生獣』。実写映画化、アニメ化もされた名作だが、この度、Netflixで韓国版オリジナルの『寄生獣 -ザ・グレイ-』が公開。世界が注目するコンテンツ『寄生獣』の作品世界に秘められた思想を読み解く。

  • 読書日記2011年2月~2011年4月

    普段、日記をつける習慣も、読んだ本の感想をメモすることも皆無の自分だが、真面目に読書日記をつけていた時期がある。それは大手出版社の文芸誌から頂いた仕事であった。原稿料がとても良かったのだが、それ以上に連載中に東日本大震災が起きて、自分にとっては当時の貴重な記録になっている。

  • ライトノベル『暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー』

    投稿サイト「カクヨム」からの転載だが、元は同人誌『ブラック・パスト2』(2012年刊)掲載のある企画(詳細はカクヨム/沼崎ヌマヲ【近況ノート】あとがき「暗黒太陽伝ブラック・ドット・ダイアリー」について を参照)のために書いた短いストーリーを、ライトノベルに改稿したものだ。しかし、これまでに読んだライトノベルといえば『涼宮ハルヒの憂鬱』ただ一作のみ。ちゃんとライトなノベルに仕上がっているかどうかは怪しいところ。 本作品に限らず、noteに発表したどの文章にも言えることだが、私の発想の源には常に経済人類学者・栗本慎一郎がいる。今や話題にもならず、学界からも無視され、存在自体も消えかけているが、やがて世界はこの人とその学説を見直すことになるだろう、いや、彼の思想を発展継承しない限り人類の未来は来ない、と私は信じている。

  • 北海道釣りミステリー『アメマスはどこへ消えた?』

    釣りの小説をいつか書こうと思っていた。それから数十年が過ぎたある日のこと、芥川賞作家F先生とその敏腕マネージャー氏とそーめんを食べていたときだ。釣りに行くと必ず水死体を釣ってしまう探偵なんて面白いかも。それをぜひ書きなさい、という話になった。ミステリーなど書いたことはなかったが、F先生とマネージャー氏の熱血ご指導のもと、この小説は生まれた。最初、タイトルは自分で考えた『風来坊の毛鉤箱(フライボックス)』だったが、もっとわかりやすくというマネージャー氏の意見で『アメマスはどこへ消えた?』に。いくつかのミステリー系のコンテストに応募してみたが、例によって1次選考も通らず、お二人には面目次第もない。現在のタイトル『アメ釣りだから鱒テリー……』は植草甚一の名著『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』から頂戴した。今のところ自分ではこれがベストだと思うが、タイトルには中身とはまた違った難しさもある。

記事一覧

全自動ガンダム起動セズ(1)

 彼は、日本の土俗の霊を以て、アメリカに代表される巨大な機械文明の現代に、或るフワフワした、桃いろの、ポップ・コーンのやうでもあり、ゴム風船のやうでもあり、いづ…

青沼静哉
8日前
2

タマ。コロ。

 午後四時になった。  梶浦は、まだ家事が終わらなかった。  いつも溜まりに溜まってから片付ける質で、今日は天気も良いせいか洗濯と部屋の掃除とゴミ出しを一遍にこな…

青沼静哉
1か月前
2

真説・半蔵門外の変

 日本経済没落の立役者、〝橘ポンド之介〟こと橘蔵之介が刺されたのは、梅雨の晴れ間、蒸し暑い日曜の午後のことだった。  この日、橘は、東京都千代田区にあるイベント…

青沼静哉
2か月前
2

」「寄生獣「考」「(後編)「

『寄生獣』から考える人類と文明 闘争から共生へ、そして新たなる生命システムの誕生 岩明均の原作マンガ『寄生獣』の連載(月刊アフタヌーン)が佳境に入った頃、ある週…

青沼静哉
4か月前
3

」「寄生獣「考」「(前編)「

『寄生獣』から考える人類と文明 闘争から共生へ、そして新たなる生命システムの誕生 Netflixで公開中の「寄生獣 ーザ・グレイー」は、韓国人のクリエイターが中心となっ…

青沼静哉
4か月前
6

読書日記 2011年4月

読書日録 2011年4月号 (月刊『すばる』2011年6月号掲載)  父方の祖父は宮城県の出身で、東京で学んだ後、昭和の初期に親類を頼って北海道へ渡った。  私が…

青沼静哉
5か月前
3

読書日記 2011年3月

読書日録2011年3月  (月刊『すばる』2011年5月号掲載)  テーブルの上の植木鉢を押さえているのが精一杯だった。         激しい横揺れが三分以上は…

青沼静哉
5か月前
10

読書日記 2011年2月

読書日録2011年2月  (月刊『すばる』2011年4月号掲載)  父は本を読むのが私の四倍速い。  正月に帰省した際、ソファーの端と端に座り、よーいどん!で読…

青沼静哉
5か月前
5

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(17)最終話

Black Dot Diary Paperback Documents(ブラック・ドット・ダイアリー・ペーパーバック文書) BDDPD 二●二四年六月三日(月)  今朝、校庭で全校集会があった…

青沼静哉
6か月前
6

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(15)(16)

第15話 ただ英国のためでなく……  マクスウェルの話を、菅原が和訳してくれたところによると────。  加賀見台中学校が建っている土地は元々は「鏡台」と呼ばれる…

青沼静哉
6か月前
3

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(12)(13)(14)

第12話 奇書『BDD』の謎  ツキモト先輩から借りた、黒い小冊子。  BDD────。  読む前と読んだあとで、世界が違って見えるとか、そういうことにはならなかっ…

青沼静哉
6か月前
4

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(11)

第11話 赫奕たる東端 ブラック・ドット・ダイアリー BDD 二●一三年六月二十二日(土)  赫奕たる東端  (光り輝く、東の端) ポイント●  加賀見台中学、2年C…

青沼静哉
6か月前
1

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(10)

第10話 日の本のレイライン ブラック・ドット・ダイアリー BDD 二●一三年六月二十一日(金)  日の本のレイライン────→ ポイント① 鹿島神宮(茨城県鹿嶋…

青沼静哉
6か月前
3

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(9)

第9話 エリカエデ カエデリカ ブラック・ドット・ダイアリー BDD 二●一三年六月二十日(木)  計画は秘密裏に進められた。  赤神晴海の黒点呪術を突き破るには…

青沼静哉
6か月前
1

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(8)

第8話 ALTM(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー・マクスウェル) ブラック・ドット・ダイアリー BDD 二●一三年六月十八日(火)  国際レイライン協会─…

青沼静哉
6か月前
3

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(7)

第7話 黒点と光線 ブラック・ドット・ダイアリー BDD 二●一三年六月三日(月)  フランス革命(1789)  明治維新(1868)  日露戦争(1904)  ロ…

青沼静哉
6か月前
3
全自動ガンダム起動セズ(1)

全自動ガンダム起動セズ(1)

 彼は、日本の土俗の霊を以て、アメリカに代表される巨大な機械文明の現代に、或るフワフワした、桃いろの、ポップ・コーンのやうでもあり、ゴム風船のやうでもあり、いづれにしても、パンと割られたらおしまいの、合成樹脂製の人魂を喚起したのだった。(……)
 そこに「英雄」が立ち現はれる。
 英雄は、正にこのやうな交霊によって喚起され、土俗の中から、土でつくられた巨人ゴーレムのやうに立上らなければならない。

もっとみる
タマ。コロ。

タマ。コロ。

 午後四時になった。
 梶浦は、まだ家事が終わらなかった。
 いつも溜まりに溜まってから片付ける質で、今日は天気も良いせいか洗濯と部屋の掃除とゴミ出しを一遍にこなしていた。

 調子に乗ってキッチンのシンクにうず高く積み上がっていた皿や茶碗に取り掛かったはいいが、三十分過ぎても四十五分経っても洗い物は終わらない。
 スポンジの泡を胸まで飛ばしと水しぶきを顔に浴びながら時計の針と競争していたのだが、

もっとみる
真説・半蔵門外の変

真説・半蔵門外の変

 日本経済没落の立役者、〝橘ポンド之介〟こと橘蔵之介が刺されたのは、梅雨の晴れ間、蒸し暑い日曜の午後のことだった。

 この日、橘は、東京都千代田区にあるイベントホールで大手証券会社主催のシンポジウムに登壇、基調講演を行った。
 ホールは、ほぼ満席。
 約500人の聴衆を前に、世界経済の現状を説き、日本経済のダメな点を突く、講演は橘のいつもの名調子で始まった。

 橘、曰く────。
 日本の会社

もっとみる
」「寄生獣「考」「(後編)「

」「寄生獣「考」「(後編)「

『寄生獣』から考える人類と文明 闘争から共生へ、そして新たなる生命システムの誕生

岩明均の原作マンガ『寄生獣』の連載(月刊アフタヌーン)が佳境に入った頃、ある週刊誌(確か「週刊SPA!」だったと思う)で特集が組まれた。
作品についてコメントを寄せた識者の中に経済人類学者、栗本慎一郎の顔もあった。

コメントで栗本はマンガ「寄生獣」の内容を高く評価しつつも、この先物語が宇宙へ飛び出すような展開を危

もっとみる
」「寄生獣「考」「(前編)「

」「寄生獣「考」「(前編)「

『寄生獣』から考える人類と文明 闘争から共生へ、そして新たなる生命システムの誕生
Netflixで公開中の「寄生獣 ーザ・グレイー」は、韓国人のクリエイターが中心となって製作されたことから、わが国の原作マンガやアニメ作品との間に非常に興味深い「差異」が現れたと思う。(日本版実写映画は未見)

ネトフリ韓国版の主人公が悲惨な過去を持つ女性・スイン、マンガ・アニメ日本版は中流家庭の平凡な男子高校生・泉

もっとみる
読書日記 2011年4月

読書日記 2011年4月

読書日録 2011年4月号
(月刊『すばる』2011年6月号掲載)

 父方の祖父は宮城県の出身で、東京で学んだ後、昭和の初期に親類を頼って北海道へ渡った。
 私が物心ついたころにはすでに隠居の身だったが、囲碁も将棋も滅法強く、詩吟は師範の腕前、渓流釣りの名人で、園芸の知識も豊富、ばんえい競馬など賭け事も大いに愉しんだ。
 平成七年に九十二歳の天寿を全うしたが、遺品の中から宝籤の外れ券が数千枚も見

もっとみる
読書日記 2011年3月

読書日記 2011年3月

読書日録2011年3月 
(月刊『すばる』2011年5月号掲載)

 テーブルの上の植木鉢を押さえているのが精一杯だった。       
 激しい横揺れが三分以上は続いたような気がする。
 揺れが静まり、壁や天井を見上げ、ひび割れが起きていないことを確認。
 一まず安堵し椅子に腰かけたが、あっと思い振り向くと隣の部屋の本箱が崩れて書籍が床一面に投げ出されている。
 三月十一日午後二時四十六分、東北

もっとみる
読書日記 2011年2月

読書日記 2011年2月

読書日録2011年2月 
(月刊『すばる』2011年4月号掲載)

 父は本を読むのが私の四倍速い。
 正月に帰省した際、ソファーの端と端に座り、よーいどん!で読み始めて確かめたので間違いない。
 以前から速いとは思っていたが、目の前でページをひらひらめくりパタッと閉じて次の本へ手を伸ばされると唖然としてしまう。
 本当に内容までわかっているのだろうかと疑って訊いてみると、この本のどこがどう面白

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(17)最終話

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(17)最終話

Black Dot Diary Paperback Documents(ブラック・ドット・ダイアリー・ペーパーバック文書)

BDDPD 二●二四年六月三日(月)
 今朝、校庭で全校集会があった。
 加賀見台中学に教育実習生がやって来たのだ。
 今年は三名。
 男が一人に、女が二人。
 別に珍しいことではない。
 今の時代、教師は人気の商売ではないが教員免許は持っていて損はない。
 教頭がそれぞれ

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(15)(16)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(15)(16)

第15話 ただ英国のためでなく……

 マクスウェルの話を、菅原が和訳してくれたところによると────。

 加賀見台中学校が建っている土地は元々は「鏡台」と呼ばれる小さな丘になっていた。
 そこは古代、祭祀が行われていた聖なる場所で、土地造成時に青銅器の鏡も出土している。
 丘の頂点はちょうど2ーCの教室があった場所で、そこは日本列島を横断するレイラインの重要なポイントだったという。
 国際レイ

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(12)(13)(14)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(12)(13)(14)

第12話 奇書『BDD』の謎

 ツキモト先輩から借りた、黒い小冊子。
 BDD────。
 読む前と読んだあとで、世界が違って見えるとか、そういうことにはならなかった。
 ここに書かれているようなオカルト的な現象が実際にあるのかないのか、今さら問うても仕方がない。
 人類が何千年も考えて答えが出ていない問題に挑むほど、ぼくも暇じゃない。
 ただ、無視していいものではないことも理解している。
 古

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(11)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(11)

第11話 赫奕たる東端

ブラック・ドット・ダイアリー
BDD 二●一三年六月二十二日(土)

 赫奕たる東端
 (光り輝く、東の端)

ポイント●
 加賀見台中学、2年C組────。
 午前二時。
 真夜中にも関わらず、2ーCでは赤神晴海に召集された生徒たちが、彼女の駒として働かされていた。
 生徒の親たちには、新しく始まった「宿泊研修授業」のモデルクラスに2ーCが選ばれたことになっている。
 

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(10)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(10)

第10話 日の本のレイライン

ブラック・ドット・ダイアリー
BDD 二●一三年六月二十一日(金)

 日の本のレイライン────→

ポイント① 鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
ポイント● 二年C組(加賀見台中学校)
ポイント② 皇居正門前
ポイント③ 明治神宮(東京都渋谷区)
ポイント④ 富士山頂
ポイント⑤ 豊川稲荷(愛知県豊川市)
ポイント⑥ 伊勢神宮(三重県伊勢市)
ポイント⑦ 室戸岬(高知県

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(9)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(9)

第9話 エリカエデ カエデリカ

ブラック・ドット・ダイアリー
BDD 二●一三年六月二十日(木)

 計画は秘密裏に進められた。
 赤神晴海の黒点呪術を突き破るには、出来るだけ長い〝光の矢〟が必要となる。
 マクスウェル卿は協会の会員に呼びかけ、日本列島の要所要所に180名以上を配置する強力な布陣を敷いた。
 山開き前の富士山頂や伊勢神宮、皇居前広場といった重要ポイントだけではなく、家の屋根や雑

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(8)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(8)

第8話 ALTM(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー・マクスウェル)

ブラック・ドット・ダイアリー
BDD 二●一三年六月十八日(火)

 国際レイライン協会────。
 本部は英国スコットランド・エジンバラ。
 世界六十五カ国に約12万人の会員を持つNGO団体で、設立の趣意は「古代人の知恵を用いて現代の諸問題を解決する」ことだという。
 また日本は英国と並ぶレイライン大国であり、神道、山岳

もっとみる
暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(7)

暗黒太陽伝 ブラック・ドット・ダイアリー(7)

第7話 黒点と光線

ブラック・ドット・ダイアリー
BDD 二●一三年六月三日(月)

 フランス革命(1789)
 明治維新(1868)
 日露戦争(1904)
 ロシア革命(1917)
 世界大恐慌(1929)
 二・二六事件(1936)
 キング牧師暗殺(1968)
 イラン革命(1979)
 バブル崩壊(1991)

 世界史の年表に載っている、誰でも知っているこれらに、共通するものとは何

もっとみる