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躁鬱経営統合への道 SOUとUTSU③

SOUさんが走り去った後、しばらく静かな時間が流れた。ノートには、SOUさんの書き殴った「ドリーム!」の文字が、どこか空虚に響いている。やがて、重い足音が近づいてきた。UTSUさんだ。いつものように、眉間に深い皺を寄せ、暗い表情をしている。

UTSUさんは、SOUさんの書き残したノートを一瞥し、深い溜息をついた。

「また…SOUのやつ…全く…」

UTSUさんは、SOUさんの書いた図や矢印を丁寧に消しゴムで消し始めた。そして、几帳面な字で、ノートに書き始めた。

「SOUの楽観的な考えは、状況を全く理解していない証拠だ。確かに、自己投資は重要かもしれない。しかし、今の我々に必要なのは、無計画な投資ではなく、綿密に計算された、リスクの少ない投資だ。SOUは『お金は後からついてくる』と言うが、それは成功した場合の話だ。もし失敗したらどうする?そのリスクを全く考慮していない。それでは、経営者として失格だ。」

UTSUさんは、電卓を取り出し、何やら計算を始めた。

「現在の我々の資金状況は、非常に厳しい。このままでは、3ヶ月後には資金が底をつく可能性が高い。SOUは月収倍増などと言っているが、具体的な根拠は全く示していない。夢物語を語っているだけだ。現実的な目標を立てなければならない。短期目標は、まず無駄な出費を徹底的に削減すること。具体的には、外食の回数を減らし、不要なサブスクリプションを解約する。そして、中期目標は、安定した収入源を確保すること。そのためには、現在取り組んでいるプロジェクトを見直し、収益性の高いものに集中する必要がある。長期目標は、老後も安心して生活できるだけの貯蓄を築くこと。これは、SOUの言う『成功してから考えればいい』などというものではない。今から計画的に積み立てていく必要がある。例えば…」

UTSUさんは、ノートに複雑な表を書き始めた。そこには、月々の収入と支出、貯蓄目標額、運用方法などが細かく記載されている。

「例えば、毎月5万円を積み立て、年利3%で運用すると、30年後には約2600万円になるという計算になる。これくらいの貯蓄があれば、老後も、ある程度落ち着いた生活を送れるかもしれない。SOUは『貯金なんて気にしなくていい』と言っていたけれど、貯金は将来の安心だけでなく、精神的な安定にも繋がる。不安を抱えながら生活するのと、安心感を持って生活するのとでは、人生の質が大きく異なる。SOUには、そのことを理解してほしい。」

UTSUさんは、眼鏡を外し、目を擦った。

「SOUは、新しい服を買いに行こうと言っていたらしいな。確かに、服装は気分に影響するかもしれない。しかし、今の我々に必要なのは、見た目を変えることではなく、根本的な問題を解決することだ。新しい服を買うお金があるなら、その分を貯金に回すべきだ。SOUには、そのことをきちんと伝えなければならない。」

UTSUさんは、ノートを閉じ、深いため息をついた。

「SOUと私は、考え方が全く違う。しかし、『人生を良くしていきたい』『幸せに生きていきたい』という目標は同じだ。だからこそ、互いに理解し、協力していく必要がある。この交換日記が、そのための第一歩となることを願っている。」

UTSUさんは、ノートを丁寧に閉じ、静かに部屋を出て行った。

ノートには、SOUさんの「ドリーム!」の文字と、UTSUさんの几帳面な文字と数字が並んでいる。二人の対話は、まだ始まったばかりだ。

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