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Bon voyage

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旅の途中で出会ったかけがえのないものたち。 いつもの見慣れた場所に留まっているとしても、そこではないどこかを歩いているとしても、いつだって旅。終わることのない旅の途中。
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#小説

辻仁成さんの言葉に癒される

辻仁成さんの言葉に癒される

https://www.designstoriesinc.com/

ご紹介するまでもなく、辻仁成さんはパリに息子くんと2人で暮らしている作家、ミュージシャンです。
辻さんが主宰するDesign Stories では、辻さんの日常の出来事や心境を綴った日記、ヨーロッパの最前線、フランスの今、注目する人物を紹介したり、「地球カレッジ」という名前で、人はどこにいても学ぶことができるをコンセプトに多種多

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#7 落ち着かない心とともに

#7 落ち着かない心とともに

マシュー

今 僕は病気が見つかって
治療中なんだ

マシュー

ときどき 
堪らなく 胸に大きな重石が置かれて
ずっと僕の心を苦しませる

今はゆっくり治療に専念すればいい
何も考えずにのんびりしていればいい
ただ、ゆったり構えて
神さまがくれた休暇だと思って過ごせばいい

そう思うようにしたりするけど
重石は居座って動かなかったりする

これを乗り越えた先には
素晴らしい人生が待っている
絶対

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#6 大丈夫だと信じていくよ

#6 大丈夫だと信じていくよ

マシュー

たまらなく会いたいよ

僕は
何者かになりたかったんだ
僕はしっかりと
自分自身として生きて
何者かになって
大地を力強く踏みしめながら
この人生という旅を
楽しみたいと思っていたんだ

だけど
僕は
まだ何者にも成れていない

何者って何だ?って
きっとマシューに問い詰められそうだ

何だ?ってことさえ
なんにも見えないまま
なんにも成れてないんだ

マシューは以前
自分の魂を感じろ

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#2 人生にタラレバは無いんだって

#2 人生にタラレバは無いんだって

そういえば、
マシューが行ってしまうしばらく前に言ってたことがある。

「人生にタラレバは無いんだぜ。」

あの時こうしていたら、今と違う人生だっただろうか〜
みたいなこと。
そんなことは無いんだって。

マシューは昔、ハワイで不思議な女性に魂を読んでもらったことがあるらしい。

「あなたとあなたの母親とはとても深い縁があるわ。何度も一緒に生きて、今回も一緒にいようって決めて、約束して来てるの。し

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#1 僕らはいつか自分のなかに何かを見つける

#1 僕らはいつか自分のなかに何かを見つける

「そうさ、もう、何かのためになんか働かないんだ。」

そう言って、マシューは仕事を辞めた。電話1本で。

あんなに将来を不安がっていたのに。いきなり。

「まだ何にも、本当に何にもやってないことに気づいたんだよ。でもさ、感動したいっていうのは、まだこの地球を楽しみたいってことになっちゃうのかな。地球というか、一応、目に見えるところの世界ってことだけど。」

感動したいって・・・

「ああ、そうだね

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されど昭和 ある一つの魂の記録 1

されど昭和 ある一つの魂の記録 1

 昭和二十一年頃、特攻隊から生還して来て、○○に再就職して丁度一年の頃、母と弟(二人)と妹(三人)と、毎日の生活に生きる望みを失ひかけしとき、ある本にあった各言葉を見て感じるものがあり、写したものを今更に書き改めた。

 その頃の生活との斗ひを思ひ出しながら。

誰の言葉か知らず

笑へ

笑へ 高らかに 悲しめる人よ 希望を失へる人よ 何故泣くのだ

何故空を見ないのだ 空を仰いで笑はないのだ

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手紙 1

手紙 1

ぼくは今もあの旅を思い出す

きみは元気にしていますか?

いつものように、自信たっぷりに

初めての街を地図も持たずに歩いて

結局迷ったぼくを

駅の見える通りまで案内してくれた

たったそれだけの

ほんの20分くらいの出会いだけど

10月になれば人道支援活動に参加すると言って

学生のころテレビで見たニュースに心を痛めて決めた夢だと

笑ったきみの笑顔が今も

忘れられない

元気でいま

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影

父親が死んだ。あっけなかった。

責任感が強かったし、自分は強いと信じていた。

先に病気になっていた母を自分が看病しないとー

そう思っていた。

だから無理をした。手術後に。

秋だった。

イチョウの葉が半分、黄色を纏っていた。

後を追うように母親も。

冬だった。

モノクロの風景に寒さが増していた。

ひとりで住む家は寒すぎると初めて知った。

自分の部屋から廊下でたとき影が見えた。

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ひとり旅でもひとりじゃない

ひとり旅でもひとりじゃない

「クロッカスが咲いちゃったよ」と言って、母はこっそり涙をぬぐった。

な、な、何? 今、旅から帰っただけなのに。

大学生の時、どうしても流氷が見たくなった。

初めての北海道、しかも真冬の。スキーをするでもなく、ただただ流氷を見に行く。節約の旅だから宿泊はユースホステルの予定だし、大まかなスケジュールしかたてず、気分と状況次第で決めようと、初日の宿泊しか予約していなかった。

そんな適当な旅を母

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ヘルマン・ヘッセが精神安定剤だった  けど、今は「旅する鈴木」からも元気をもらってる

ヘルマン・ヘッセが精神安定剤だった  けど、今は「旅する鈴木」からも元気をもらってる

子どもの頃、

本を読む面白さにハマったきっかけはSFだった。

特に時間旅行をする物語。

たぶん、自分の現在が悲しかったから、

未来へ行ったり過去へ行ったりすることに憧れたんだと思う。

逃避という意味で。

それからは本屋さんが逃避場所になった。

たくさんある本をひとつひとつ眺めて、

欲しい本を探して見ていた。

見るだけ。買わない。子供だったから。

それから漫画。

漫画にもハマり

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ヘルマン・ヘッセの「詩人」     たったの10ページで浸れる幻想

ヘルマン・ヘッセの「詩人」     たったの10ページで浸れる幻想

ヘルマン・ヘッセの作品で一番有名なのは「車輪の下」だろう。

個人的にどれが一番好きかと聞かれたら絞るのは難しい。好きなヘッセの作品を選び始めたら「知と愛」「デミアン」「湖畔のアトリエ」「ペーターカーメンチント」「シッダールタ」・・・といくつもある。

でも、今回推薦するのは「詩人」という短編。文庫だと「メルヒェン」の中に収録されている5分とかからずに読めてしまう作品だ。

ある灯籠祭りの夜、「完

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