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エッセンシャル𝒁𝒂-𝒔𝒂𝒏 𝒊𝒏 𝒕𝒉𝒆 𝒅𝒂𝒓𝒌

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はじめましてのひや奴はぽん酢になるためにこのリフトから飛ぶべし。誰がためにテクストは読まれぬ。
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記事一覧

イン・ユーテロ [小説]

イン・ユーテロ [小説]

Forever in debt to your priceless advice ―Heart shaped Box/Nirvana
(お前がしてくれるタダの忠告に俺は引き目を永遠に感じなきゃなんねえ
   ―ハートシェイプボックス/ニルヴァーナ)


キルケゴール的ハイパーコミュニケーション
の考察

 市内を南北に横断する有料通路が隣の群地に入りこむか入りこまないか微妙な境あたり、とはいって

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素晴らしい鈴木の鼓動 (note版ディレクターズカット)

素晴らしい鈴木の鼓動 (note版ディレクターズカット)

第一章「おまえは全世界を……」



 永いあいだ、私は自分が世界を産んじゃったときの光景を見たことがあると言い張っていた。それを言い出すたびに君たちは笑い、しまいには自分がからかわれているのかと思って、その血走った赤い、赤子のような子供の泣きじゃくるような酔った顔を、かるく愛しみの満ちた目つきで私を眺めた。三島由紀夫の「金閣寺」は日本文学に屹立する一本の昇天した自己愛の塔だ。だがここで引用し改

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冒涜のマグロ (中編60枚)

1 わたしたち殺人事件

 マグロは三匹目だ。……またか。いい加減にしろ。受け身ばっかりだしなんなん……反撃の意志すらみせない……立派だと思っているのか……服従が?……きっとこいつは受け身でいてくれれば相手は幸せだと思いこんでいやがるんだ……思いあがりもいいとこだ!……世界ってのはこっぴどく……ぼろぼろになりながら……鞭をびんびんひっぱたかれながら必死こいてまわってるのになんだ……てめえらだけ楽

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妄言、妄言、化けよ、あるいはゲンドウでいっぱいの海―(雑文)

*もしかしたら「シン・エヴァンゲリオン」の碇ゲンドウへの指摘があり、要するにネタバレになってしまう可能性があるテクストです。よろ。

 身辺雑記にはなるのだが、シン・エヴァと追いコンを公開した週の火曜と水曜立て続けに立ち向かって私は思った以上に消耗してしまった。同じサークルとゼミに所属し、無事公務員にもなっちゃっうらしい同級生Sくんは午前中にシン・エヴァ午後にサークル追いコンに参加していて、しかも

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読むことに時間の流れる、書くことに時間の流れる____小説論についてと乗代雄介「旅する練習」で考えたこととか

読むことに時間の流れる、書くことに時間の流れる____小説論についてと乗代雄介「旅する練習」で考えたこととか

読むことに時間の流れる

 私はこの3月で大学を卒業する身であり、昨年のうちは就活と卒論(とあといくつかのいらない余計なこと)に奔走していたものだが、どちらも日々の「読むこと」が実らせたものが多い。あまり「読むこと」のない同年代の人間と私は比べていいものかどうか知らんしそんなことする必要も筋合いも偉そうなこともできないが、なんだかんだでただ読んでいたことがどこかでつながったということは不思議なこと

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さよなら 女子高生(note版 58枚)

さよなら 女子高生(note版 58枚)

 軒下から失くしていたヘアピンが突び出した。きらりと眩しげな金属の光沢は油取神子の上目遣いのときに露わになる白目のそれに近いもの、するりとその光景がおつゆだく子の目に飛びこんできてセンセーショナルを巻き起こす。目玉と目玉の肉体的接触のような頭のてっぺんの生え際からかかとまでどーんとくる衝撃がだく子の心を骨抜きにして神子のモノになりました。ちょんぱちょんぱが癖なだく子は自他も認める醜さがあると思いこ

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おとしものたち

おとしものたち

ゆすり
だされた
わすれた
かんじょう

ほ つ れ       糸、針、糸
針、糸、針、糸、針、糸、針、  糸、
                針、

わたし
を地平
に置いて、
     置きます、
やさしく、
     置きます、
     置き忘れました、
     忘れました、

白雪の、
そこを左折です、
無味
の味わい、

の言葉、
に意味は、ありません、ありません、

  他

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数(アイドル)

数(アイドル)

第一章 永遠の詩           一九八九年九月九日に産まれた窮(キュー)は二十一歳の時に浮かぶ夏空の雲を食べた。
 雨の前日の風に似た舌触りの悪い味わいは、以後の彼の人生に根強く残った。彼の後任にあたる一九九九年生まれの窮はそれを運ばれてきたばかりのスープで舌を火傷して味がいつまでも残るのに似たものなのだ、と彼の話を聞いて感じた。永いあいだあの晩の紫色になった雲の味が染みついた。彼は誰にもこ

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原液ちゃん、故郷へかえる。

原液ちゃん、故郷へかえる。

原液ちゃん、故郷へかえる。

_________部屋を散らかすと恍惚感が現れることから原理的な社会性を植え付けられた自我は崩壊し著しい幼児退行が……

ませたガキのほうがまだマシ
主観を滅多刺しにしちまおう
がこりゃ、こっぴどくのこる
ませたガキが笑ってこう言う
いい歳こいて駄々をこねるな
おまえが持ち得る信頼なんて
この社会には転がってないよ
頭を通る幻想になぜ乗れない

原液ちゃん

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蒼麗天然美少女金魚ちゃん

蒼麗天然美少女金魚ちゃん

 あれはこんがりな夏のことでした。四方木町の中池のほとりで夏休みに滝沼れる子と待ち合わせていましたの。私いちごみる子は猛暑の極みにヘロヘロで木陰に身を隠していました。けれど滝みたいに流れ続ける汗の止め方がわからなかったし帽子を忘れるというみる子のおてんば属性を発揮してしまったものだから頭はガンガンくらくらでとてもこれじゃ遊戯なんてできっ子ない。いっこうに滝沼れる子ちゃんが集合時間になっても現れない

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星間飛行の詩

星間飛行の詩

生者たちのまひるほど墓まみれ

天井をにらみつづけると床に沈着

軒下に潜るとそこは畜生ども

なんもねえ なんもねえ なんもねえ

あたらしい土をふくみましょう

天井裏と畳の下はおおむかしにつながっていた

白昼の星間飛行をぬくぬくすすめば

営みも生活もどれもしょうもねえ角砂糖

ねえ、ねえ、嵐がくるんだ

ここらいったいぐちゃぐちゃ

マッチでつくられた家々に火を灯そう

きっと心が安らか

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「百鬼姫」

「百鬼姫」

 __姉よ一体全体、どこで眠っているの? もう300回目の「お天とうさんのウェイク」だよ。世にそびえたち大地のシワの群れ、されど真っ赤な糸で縫い合わせる、この山ガールさちこは実家にハメこまれた姉貴のりこの部屋、そこに転がる一台のパイプベッド、その下から広がる〈霊峰いちごみるこ山〉に当の姉を探しにゆき十月が過ぎた。いまだにこの幽霊山でのりこのモノと思われる肉体や分泌液も発言も目にしてないし見つけるこ

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業後

業後

雨は、只、降るばかり。梅雨の曇り空はもう二週間も晴れず、硬く渋る夏の兆しを籠らせ続けている。
晴美との下校時の競争は、宏久がいつからか勝手に行っていることで、晴美自身そんな事に巻き込まれていることは知る由も無い。晴美に宏久はいつも追いつけずにいた。彼女よりも早く廊下へ飛び出し、まだ帰宅する生徒の足が少ない空の階段を駆け下り、下駄箱で素早く靴を履き、校庭を抜け、自転車置き場へ向かい、全校生徒で

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