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記憶に止めるストーリー

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記事一覧

生駒山軽井沢町のおもいで

生駒山軽井沢町のおもいで

写真はJR八尾駅から見える生駒に連なる西陽の当たる山並である。
この風景を見ると時々、以前大変世話になった上司を思い出す。
私が三十、その上司は定年前であった。

関西にも軽井沢があるのをご存じない方は少なくないと思う。

上司はもともと建築屋、会社の創成期に大変ご苦労をされて土木主体の会社を建築でも名の売れる会社にした。定年前の営業部長のポストに就き悠々と定年を迎える予定であっただろう。そこに紆

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2012年 ニューヨークの出来事

2012年 ニューヨークの出来事

「ニューヨークで最後の公衆電話が取り除かれました・・・」
ふと耳にしたニュースの声に、私の中で
記憶の連鎖が始まった。それは2012年。
あの惨劇から11年が経過したニューヨークで起きた不思議な体験だ。

大好きな映画のロケ地を見たくて、旅費を貯め、英会話を習い、遂に夢を叶えた私は、先ず電車の駅グランドセントラルターミナルに行った。

主役が使った公衆電話や、地球儀みたいな時計を見つけて写真を撮っ

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英語は苦手!だけどKindleで英語版フォトブック出版できました!

英語は苦手!だけどKindleで英語版フォトブック出版できました!

カナダ生活11年目のWakei です。

私は海外歴11年ですが未だに英語は苦手です。
そんな私でも英語のフォトブックをキンドルで出版できました。
出版ホヤホヤです。

  

このフォトブックは、コロナの自粛期間中に癒しになった
「抹茶の楽しみとカナダの自然」を月ごとに写真で紹介したものです。

実際には昨年5月に出版した日本語版のフォトブック「抹茶楽生記」に英語の解説ページ数を加えたバージョン

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ひぐらしの音色と夕立

ひぐらしの音色と夕立

帰宅してカバンを置いたとき、
ふと、手が止まった。

ひぐらしが聞こえる。
…今年初

あの夏の
矛盾した断片が息吹いていく。

日焼けた畳の匂い
雨上がりの黒いアスファルト
まぶしい照り返し
ミョウガの香り。

昔の私は、普通に暮らすことを
許せない人間だった。
思えばバカみたいだけど。

囚人じゃあるまいし、
家賃をちゃんと払っている空間を、
心地よい場所にすることが
なぜできないのか。自分で

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『田中先輩の話』プロローグ

『田中先輩の話』プロローグ

こんな暑い夏の夕方だった。
会社の田中先輩が同郷の人間だと知ったのは太郎が大阪支店に転勤して五日目の金曜日だった。

不思議な出会いだった。
太郎はゼネコンの営業部に転属となったのだが、当時の営業部には若い人間はほとんどいなかった。高度成長期にはインフラ整備の大型土木工事が天から降って来てそれをゼネコン各社は上手に分け合って皆がメシを食っていた。営業部員は大型土木現場の元所長や官庁からの天下りのO

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精度にこだわりますか?

精度にこだわりますか?

文化を測る目安の一つに、どのくらい精度の高さを求めるかがあります。日本は常に完璧を求める国ですが、世界は広く同じ価値観ばかりではありません。

写真は、オーストラリアでセミナーをしたときのもので、プロジェクターから投影したスライドが曲がっています。10年前の機種なのかなと思うほど年季が入った機械で、台形補正の機能がついておらず、雑誌や本を挟んでなんとか補正しようと、開始前あたふたしていました。

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看護と新茶の物語〜紳士の優しいお返し〜

看護と新茶の物語〜紳士の優しいお返し〜

今日はナイチンゲールの誕生日にちなんで「看護の日」です。看護師を退職して20年経ちますが、未だに新人期の想い出は色濃く残っています。
新茶が出始めるこの時期、今でも忘れられない、新人ナースとしての大切な体験がありました。



新卒で実習先の病院に就職した際、外科病棟に配属されました。
新人が続かない激務の病棟として知られ、前年も、前々年も新人が全員退職した病棟でした。

新人が担当する急性期の

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巨樹の旅(NHK番組より)

巨樹の旅(NHK番組より)

「にっぽん巨樹の旅」という番組を見ました。
次々登場する、巨樹たちの堂々たるたたずまい、木たちの見てきた世界を思い、心が動かされました。一部を紹介したいと思います。

1. あがりこ大王(ブナ)
秋田県にかわ市
雪で伐採された幹から萌芽したと思われる。幹が上がったところで別れているため、あがりこ大王、と名付けられた。アニメに出てきそうな愛嬌のある名前ですね。

2. 山高神代桜
山梨県北杜市
大武

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ニートが10万円で映画を作ったら、全国上映が決まった話

ニートが10万円で映画を作ったら、全国上映が決まった話

現在、映画監督・脚本家の村上リ子です。

この度、私が初監督・脚本を務めた短編映画が、イオンシネマを中心に全国50館以上の映画館で上映されることになりました!

実は、私は去年の10月まで映画と無関係な人生を送っていました。

そして、映画学校に通ったことも制作会社で働いたこともない、完全未経験で制作資金も人脈もない状態で映画を作り始めました。

結果的に、かかったお金はたった約10万円。
巻き込

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【企画小説】moonlight

【企画小説】moonlight

見慣れたはずの商店街。街から灯りが消えたあとのその場所には、静けさと冷たい空気だけが広がっていた。アーケードを抜けてすぐ、月明かりに導かれるようにして右手に進むと、不自然に光る青色のネオンが目をひいた。

arcana -アルカナ-

ジジジッと、時に不気味な音を立てながら光を放つ看板の側には、店の入り口へと続く階段が設けられている。こんな店があっただろうか。一瞬そんな考えが頭をよぎったが、次の瞬

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平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

この文章は、ツムラ#OneMoreChoiceがnoteで開催する「 #我慢に代わる私の選択肢 」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

数年前にできたのであろう、白を基調とした清潔感たっぷりのトイレで、私は泣いていた。なるべく息が漏れないように、歯を食いしばり、顔を手で覆いながら涙が止むまでじっと耐える。めんどくさいヤツだと思われるだろうが、小学生の時からたまにトイレに閉

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ダブルコスモス 【ピリカ文庫(2021) ショートショート】

ダブルコスモス 【ピリカ文庫(2021) ショートショート】

 納屋を片付けていたら、手金庫が出てきた。
 金庫とは、ちと大仰かもしれない。両手で包み込めるほどの箱に、南京錠がちんまりとしている。
 おそるおそる、四桁の数字をあわせてみる。
 おいそれと、カチリ、とはいわないのであった。

 祖母の手にかかると、あっけなく開いた。
「ばあちゃん、じいちゃん、父さん、母さん、私、誕生日は全部やったけど」
 ふふふふ、と祖母は声を立てずに笑う。
「宝の地図?」

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同棲【私小説的掌篇・エッセイ ニ四〇〇字】

同棲【私小説的掌篇・エッセイ ニ四〇〇字】

 「吾輩は、トラ猫である」? ん? 誰かがすでに使っているので、ボツ。一応、トラ猫(♀)と、2度目の東京五輪の年に古稀をむかえた男との、40年前の物語である。

 20代の二度の転職を経て翻訳教育会社に入った。英語は苦手だったが異文化間コミュニケーションには興味があり、経理担当として潜り込んだ。2年目途中から、後に天職となる広報企画に移つるのだから、経理は、適所の部署ではなかったのだろう。そんな日

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【雑記】亡き義父の想い出

【雑記】亡き義父の想い出

歌人だった義父の短歌集が、実家で見つかった。
ずっと探していたものだ。
歌集の著者近影で、息子は初めておじいちゃんの顔を知る。
「へえ、ボクのおじいちゃんって、こんな人だったんだねえ」
としみじみ呟く。

私は義父の短歌を見ると、糸魚川のことを思い出す。

・海くらき果てより冬の牙かぎりなし涛は悲痛に息まざるなり

初めて見た北陸の冬の海は、まさにこんな感じだった。

・冬海の涛がみがきし翡翠一顆

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