嘉島唯

ニュースの編成をしながら、BuzzFeedやcakesで書かせてもらってます。noteでは100%個人の見解を書いています。📧yuuuuuiiiiikashima(@)gmail.com

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マガジン

  • cakes連載「匿名の街、東京」アーカイブ

    cakesで連載させてもらったエッセイのアーカイブです。

最近の記事

母の遺品から出てきた、見知らぬ男からの手紙

20年もの間、家族の誰も整理しなかった母の遺品を整理していると、ある手紙が出てきた。丸みを帯びた整った筆跡で、海外旅行の感想が書かれている。「こんな景色を見た、きみはどう思うだろうか」「次はきみと行きたい」。 何気ない言葉から好意が溢れ出ている。結びには「古城の騎士より」と書かれていた。送り主は私の知らない男だ。 「騎士」と書いて「きし」と読むのか、「ナイト」と読むのか……と、一瞬悩んだ。いやいや、そんなことよりも砂糖を煮詰めたようなペンネームにうろたえた。 遺品整理は

    • オタクをこじらせて

      中学1年生になった春。私の世界は突然広くなった。電車通学を始めたからというのも大きかったが、後ろの席に座ったFが、私と同じで『HUNTER×HUNTER』のクラピカが好きだったからだ。 彼女が通学バッグに付けているクラピカのキーホルダーが視界に入った。 「Fちゃんもクラピカ好きなの……?」 手探りで質問をすると、彼女の顔はパッと明るくなり、私たちはすぐに仲良くなった。 心底安心した。一人で電車に揺られて見知らぬ土地にある学校に通うことは、期待もありつつ、心細かったから

      • 立ち見の学生が溢れる授業「サブカルチャー論」

        先生が他界してから1年が経った。訃報は、ネットだけでもなくテレビのニュースでも流れていた。 私が在学していた頃から先生は入退院を繰り返していたけれど、まさかこんなにも早く逝ってしまうとは思わなかった。最期のツイートは「それにしても眠い。さよなら。宮沢章夫」だった。 80年代にコント集団「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」として活躍の後、90年代に劇団「遊園地事業再生団」を主宰した宮沢章夫先生。私は大学で先生の「サブカルチャー論」という授業をとっていた。 「サブカルチャ

        • 「自分が普通の女子高校生だったら、って思うことはないですか?」との質問に対するセーラーウラヌスの解答の秀逸さ

          先日「なぜ『セーラームーン』は、世界中の少女たちの胸を熱く燃やし続けるのか。大人になった今わかったこと」という記事を書いた。その際、原作を改めて読み直し、旧アニメを見返すことにした。あまりに膨大なので、ところどころながら視聴やら倍速で見ていたのだが、途中でかなりヒヤッとするセリフがあった。 美奈子(セーラーヴィーナス)が、はるか(セーラーウラヌス)に向かってこんなことを言うのだ。 思わず耳を疑った。 知っている人も多いが、はるかは原作の設定によると「男でもあり女でもある

        • 母の遺品から出てきた、見知らぬ男からの手紙

        • オタクをこじらせて

        • 立ち見の学生が溢れる授業「サブカルチャー論」

        • 「自分が普通の女子高校生だったら、って思うことはないですか?」との質問に対するセーラーウラヌスの解答の秀逸さ

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        • cakes連載「匿名の街、東京」アーカイブ
          2本

        記事

          あの頃のTwitterの夢と希望

          ハイボールを飲みながら、アニメ『チェンソーマン』を何気なく見ている時だった。あまりに懐かしいメロデイに耳を疑った。ドラムにベース……聴いたことがないはずなのに、私はこの曲を知っている。え、何これ。 思わず右手に持ったiPhoneですぐに検索する。作詞作曲のクレジットを見た瞬間、私は遥か遠くにタイムスリップした。 ここ、ここ、ここはどこ、宇宙—— ではなく、高円寺にあるマンションの一室だ。私は大学の授業終わりに中央線に乗ってここまでやってきた。四方を本棚に囲まれた1Kの「

          あの頃のTwitterの夢と希望

          「恋人未満」が決まった夜

          日が沈んで夜風が心地いい。遠くで音楽が鳴っている。フジロックは夜が一番楽しい。 プラスチックカップに入ったビールの泡はもう消えていた。現地で合流した男友達Kと芝生の上に腰をおろして、遠くのステージを見ている時だった。 「俺さぁ…」 「ん?」 「…Mに告白された……ぽいんだよねぇ」 「は?」 突拍子もなく言われたので、思わずフリーズした。 「いや……直接『好きです』とか『付き合ってほしい』みたいな文言じゃないんだけど…」と言いながらiPhoneを触っている。 「こうい

          「恋人未満」が決まった夜

          100万円が貯まったら、引っ越す

          「学生のうちにやっておくべきことは、旅に出ること。社会人になるとそんなことできなくなっちゃうからね」 社会人になったサークルの先輩がそんなことを居酒屋で話していた。周りのみんなが「やっぱそうなんすかぁ」とありがたそうに話を聞いているのを見て、私も一生懸命頷いたような気がする。 27歳。私がわかったのは、そんなのは嘘だということだ。 社会人5年目になった私の目の前に広がるのは、茜色に染まった宍道湖。学生の頃、アジアを中心に安旅を楽しんだことこそあったものの、国内旅行は片手

          100万円が貯まったら、引っ越す

          魔法の言葉を書き換える

          Twitterの方が自然で飾らない関係が築けるのは、私だけではないと思う。口下手なのに、直接顔を合わせると無駄に「相手を楽しませなきゃ」と肩に力が入ってしまい、余計なことを口走っては相手に不快な思いをさせて、自己嫌悪に陥る。 だから、Twitterが流行り始めた直後なんて、その場所にこそ真実があると思っていた。リアルな人間関係はとにかく窮屈で、嘘にまみれているような気がしていた。 燃え殻さんに出会ったのは、私が「社会なんてつまらない人間の墓場」だと考えていた学生の頃だった

          魔法の言葉を書き換える

          ライター目線で見る編集者の仕事(と、連載アーカイブのお知らせ)

          cakesが8月末に終了することに伴って、2018年から細々と書いてきた「匿名の街、東京」も一緒に幕を下ろすことになりました。 思い起こせば「cakesクリエイターズコンテスト」に軽い気持ちで応募して連載が決まったという完全なるラッキー案件でした。コンテストに応募したくせに「エッセイは書きたくないんです」と申し出て、編集者を困らせたのも懐かしい思い出です。 *** せっかくなので、編集者について自分の考えを書いてみようと思います。 「ライターと編集者」と聞くと、原稿を

          ライター目線で見る編集者の仕事(と、連載アーカイブのお知らせ)

          匿名性をくれる街、東京

          「地元」とは、どういう場所を指すのだろう? 生まれ育った街、長く住んだ都市、帰る場所……どれもいまいちピンと来ない。 埋立地で生まれ育った私にとって、地元の街は工業製品のようだ。 起伏のないコンクリートの地盤に、コピー&ペーストみたいに似通ったデザインのマンションが立つ。駅前にはイオンがでかでかと座り、その周りにコンビニが散りばめられる。見たい映画は近所のシネコンで上映しているし、TSUTAYAは深夜まであいていた。 この場所でしか味わえないものは、ひとつもなかった。

          匿名性をくれる街、東京

          平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

          この文章は、ツムラ#OneMoreChoiceがnoteで開催する「 #我慢に代わる私の選択肢 」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。 数年前にできたのであろう、白を基調とした清潔感たっぷりのトイレで、私は泣いていた。なるべく息が漏れないように、歯を食いしばり、顔を手で覆いながら涙が止むまでじっと耐える。めんどくさいヤツだと思われるだろうが、小学生の時からたまにトイレに閉じこもって泣いてきた。公の場で突然目頭がカッと熱くなったとき、私は我慢ができない

          平日の夕方、役所のトイレで泣いてしまった

          「ふるえるほどのしあわせ」ってどこにあるんだろう

          「理想のプロポーズについてエッセイを書いてください」 このオーダーが来た時「難しいぞ」と思った。あまり自分の恋愛について考えたことがなかったからだ。 思えば昔からそうだった。幼い頃から異能力でバトルするマンガに熱狂し「私は戦いに行くんだ」と使命感に燃えていた。10代のときは生きること自体に疑問を持つ痛い子だったし、20代になってからは仕事一色でここまできてしまった。労働の世界でプレイヤーとして戦っていると思えば、使命を全うできているのかもしれない。 冒頭のオーダーをもら

          「ふるえるほどのしあわせ」ってどこにあるんだろう

          「モテそう」どまりの自分。決定的に足りない何か

          生活に空白があるのが怖い。だから、いつも予定をいっぱい入れて空白を埋めてきた。飲みに誘われると安心してしまうのは、カレンダーがひとつ埋まるからだろう。 でも、リモートワークが始まってから家を出る機会は激減した。下手をしたら、一言も発していない日もある。 コロナウイルスは思った以上に生活を大きく変えてしまった。最初はニュースを見てもピンと来なかったけど、有名人の訃報を聞いたときは、さすがに怖くなった。とはいえ、人類ってこれまでも疫病を克服してきたから、数か月も経てば特効薬が

          「モテそう」どまりの自分。決定的に足りない何か

          14歳、サブカルへの目覚め

          スカウターでも備えているかのように相手の戦闘能力を計る。同時に自分も同じまなざしにさらされていることを感じる。同じ柄の制服を来て、同じ教科書を開き、多分昨日の夜は同じテレビ番組を見ている。それなのに、教室の中には確実に序列があった。 男子だったらサッカー部にバスケ部、女子だったらバトン部が上位にあり、存在感と比例するようにカーストができている。華やかさも部活マジックも持っていない平民は、いつ貧民に落とされてもおかしくない。昨日まで仲良く話していたのに、今日から冷ややかな対応

          14歳、サブカルへの目覚め

          “クリエイティブ勢”の傲慢と失敗

          同じ言葉でも「誰が言ったか」で印象が格段に変わることがある。重みが違うのだ。 例えば、「音楽に力はない」という意見は、一流の音楽家と私が発したものだと説得力がまるで違う。一流の人が発する本質を目の前に、素人はうなずくことしかできない。 東浩紀さんの最新作『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』は、まさに「この人に言われてしまったら、もう反論できない」と思わされる一冊だった。 "クリエイティブ勢"本書は、哲学者として第一線を走ってきた東浩紀さんが、2010年に自身の会社「ゲ

          “クリエイティブ勢”の傲慢と失敗

          嘘をついた日のこと

          人間は4時間に1回、嘘をつくらしい。実際、僕は無意味な嘘をつく。 六本木通りを一本入った雑居ビル。一等地にもかかわらず、平日はビール1杯180円という破格の安さがウリの大衆居酒屋で、僕は小さな嘘をついた。 ビールケースにベニヤ板をのせたようなテーブルの上に、氷の入ったハイボールが運ばれてきた。まるで決まっているかのように、ジョッキを軽くぶつけて液体を喉に流し込む。 初めて飲んだハイボールは消毒液みたいで全然美味しくなかった。 「ハイボールよく飲むの?」 「うん」 *

          嘘をついた日のこと