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読書のお部屋

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本の世界から始まる物語
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#図書館

ふしぎなえ

ふしぎなえ

その日、ウサギとカメは銀杏並木の下を歩いていた。足元に広がる枯葉は、二人の歩みに合わせて静かに音を立てる。その柔らかな音色に、ずっと耳を傾けていたくなるような午後だった。

ふと顔を上げると、視線の先にルネサンス様式の洋館が現れた。長い時を重ねたその優美な佇まいは、まるで物語の扉を開くように、優しく二人を迎え入れた。

「この図書館には、国内だけでなく、世界中の子どもの本が集められているんだよ」

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りんごかもしれない

りんごかもしれない

その日、ウサギは紅茶専門店のテラス席で、アールグレイを片手に絵本のページを楽しげにめくっていた。陽射しが優しく肩を撫でる心地よい午後だった。

ところが、ウサギの顔から次第に笑顔が消えていった。店内には楽しげな笑い声が響いているのに、彼女だけが、まるで別の世界に迷い込んだような、不思議な表情を浮かべていた。

その絵本は、「りんごの秘密」をそっとウサギにだけ囁いていた。
「りんごは大きなサクランボ

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おすしが ふくを かいにきた

おすしが ふくを かいにきた

夕陽が差し込む窓際の閲覧席でカメが静かに物語を読んでいると、笑顔のウサギが息を弾ませてやってきた。

「やっと借りられたわ!」
ウサギが胸に抱えていたのは、「おすしが ふくを かいにきた」という絵本だった。彼女はカメの横にちょこんと座ると、そっとページをめくり始めた。

「このお話、『おすし』さんが服を選びにお店にいくのよね。『思い切ってトロにしようかな』って言ってたと思ったら、『やっぱりいつもの

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仮面舞踏会

仮面舞踏会

その日、カメが図書館に足を踏み入れると、ふと目に留まったのは、書架の陰で真剣な表情で本のページをめくるウサギの姿だった。

カメは足音を立てないようにそっと近づき、静かに声をかけた。「ウサギさん、分類番号798の書架で何を読んでいるの?」

ウサギは顔を上げ、少し驚いたようにカメを見つめた。「あ、今度、謎解き検定を受けようと思ってね。それで、その問題集を探していたところなの」

カメは少し迷った表

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100かいだてのいえ

100かいだてのいえ

図書館の一角で、ウサギはじっと大きな絵本を見つめていた。それは特に目を引く、縦が116センチもある長い一冊だった。

「この『100かいだてのいえ』、大きなサイズで読むと迫力がすごいの」彼女は両手に力を込めて、その本を持ち上げた。

そのとき、カメが偶然近くを通りかかった。 「その100かいだての世界に行ってみない?」カメは微笑みながら彼女に声をかけた。

ウサギが頷くと、二人は図書館を後にして駅

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夢にめざめる世界

夢にめざめる世界

静かな図書館の一角で、ウサギは返却された本をなんとなく眺めていた。しばらく視線を滑らせていると、一冊の絵本がふと目に飛び込み、導かれるように手に取っていた。

「夢にめざめる世界…どこか謎めいた響きね」ウサギはその本をそっと胸に抱き、静かに閲覧席へと歩み寄った。

ページをめくると、不思議な違和感が彼女を包み込んだ。左のページに広がる海底が、まるで自然に続いているかのように、右のページの青空とつな

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旅するわたしたち

旅するわたしたち

図書館の閲覧席で、ウサギは旅行特集の雑誌を手に取り、ぼんやりと呟いた。
「夏休みだし、どこか旅に行きたいな」

隣のカメに視線を送ると、「暑いこの時期は、涼しい図書館で本を読んでいるのが一番かな」と、彼は本から目を離さず静かに答えた。

「例えば、行ってみたい図書館とかないの?」ウサギが問いかけると、カメは読んでいた本から顔を上げ、ふと考え込んだ。そして、彼女の目の前にその本をそっと差し出し、小さ

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ちいさいおうち

ちいさいおうち

夕立が降り始めた午後、窓を叩く雨音を聞きながら、ウサギの心は幼い頃の思い出へと誘われていた。野山を駆け回ることが何よりも好きだった彼女は、いつの間にかお洒落な街に憧れるようになっていた。

思いにふけりながら、彼女は部屋の隅にある小さな本棚から一冊の本を取り出した。それは、子どもの頃からずっとお気に入りの絵本だった。

物語の中で、ちいさいおうちは静かな田園地帯の小高い丘の上に建ち、四季の移ろいを

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はくぶつかんのよる

はくぶつかんのよる

図書館の閲覧席で静かに物語の世界に浸っていたカメの隣に、ウサギがふわりと座った。彼女は、興味津々にカメに問いかけた。
「ねえ、博物館ってどんなところなの?」

「それなら、分類番号069の書架に博物館の本が並んでるよ」と、カメは物語に夢中になったまま、上の空で答えた。

ウサギが本を探しに立ち上がろうとすると、カメは本に目を落としたまま、彼女の腕をそっと掴んだ。「ちょっと待って」と言うと、手探りで

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わゴムは どのくらい のびるかしら?

わゴムは どのくらい のびるかしら?

きのうの夜、図書館でその本を読んでいたカメくんが私に言ったの、「輪ゴムってどれくらい伸びると思う?」って。そう聞かれた時、私は何も考えずに答えてしまった。「そうね、20センチくらいじゃないかしら?」と。

その時よ、自分がつまらない大人になってしまったのではないかと思ったのは。だから、その本を受け取り一人で図書館を後にした。少し混乱していた私は、直ぐにはその本を読めなかったわ。

朝が来て、読み始

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もっと おおきな たいほうを

もっと おおきな たいほうを

ウサギはラジオの仕事を終えると、急ぎ足で駅へ向かった。飛び乗った電車の窓からは、夕暮れの景色が、心地よいリズムを刻んで流れていく。やがて小さな駅に到着すると、彼女は静かに図書館へと足を向けた。

閉館間近で慌ただしい窓口を通り過ぎ、児童書コーナーに向かうと、求めていた本を探し始めた。彼女が手にしたのは、二見正直さんの「もっと おおきな たいほうを」という絵本だった。閲覧席に腰を下ろすと、最初のペー

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よかったね ネッドくん

よかったね ネッドくん

その日、カメが図書館の静けさの中で本の海に潜っていると、肩を落としてトボトボと歩くウサギが現れた。彼女の表情は曇りガラスのように霞がかかっており、どこか彼女の不運を物語っていた。

彼女は細い身体を、力なく閲覧席の椅子にあずけると、小さな声で話し始めた。「長い列に並んだのに、買いたかったスイーツが目の前で売り切れてしまったの。私はこの星の中で一番の不幸な人なの」

カメはそんな彼女に、「ウサギさん

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1つぶのおこめ

1つぶのおこめ

その日、図書館に辿り着いたウサギは、窓際の閲覧席でページをめくっていたカメのもとへ急いだ。彼女は静かにカメに問いかけた。「心を澄ませるような本が読みたいんだけど」カメは一瞬考えをめぐらせた後、彼女の意図を尋ねることなく、黙って手元の絵本を差し出した。

絵本を受け取ったウサギは、彼の隣にふわりと腰をおろすと、ページをぱらりと開いた。そして魔法に掛かったように、夢中でページをめくり続けた。最後のペー

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ふしぎなたけのこ

ふしぎなたけのこ

その日、ウサギは駅へと続くいつもの道を軽やかに歩いていた。道の両側には若葉がきらめく木々が立ち並び、風が穏やかに吹いていた。彼女はその風に長い髪を揺らしながら、こんもりと繁る竹林に差し掛かった。

ウサギはふと足を止めて、竹林を見つめた。彼女の目の前のたけのこは、数日前に見た時よりもずっと大きくなっていた。「こんなに早く大きくなるものだったかしら?」と彼女は心の中で問いかけた。その小さな疑問は、静

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