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読書のお部屋

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スースーとネルネル

スースーとネルネル

その夜、ウサギはベッドの中でじっと天井を見つめていた。窓から差し込む月明かりが、部屋全体を柔らかく包み込むように照らしている。彼女の瞳はいつの間にか暗闇に慣れ、静かに夜の静寂を見つめていた。

今日も一日、精一杯やり遂げたはずなのに、なぜか今夜はまぶたが重くならない。体は疲れているはずなのに、頭の中は何かを探し続けているようだった。

彼女は深く息をついて、そっとベッドを滑り降りた。足音を立てない

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おすしが ふくを かいにきた

おすしが ふくを かいにきた

夕陽が差し込む窓際の閲覧席でカメが静かに物語を読んでいると、笑顔のウサギが息を弾ませてやってきた。

「やっと借りられたわ!」
ウサギが胸に抱えていたのは、「おすしが ふくを かいにきた」という絵本だった。彼女はカメの横にちょこんと座ると、そっとページをめくり始めた。

「このお話、『おすし』さんが服を選びにお店にいくのよね。『思い切ってトロにしようかな』って言ってたと思ったら、『やっぱりいつもの

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ふしぎな500のぼうし

ふしぎな500のぼうし

ウサギは部屋の窓越しに、ぼんやり空を見上げていた。空は灰色の雲で覆われ、風に乗って細い雨が線を描くように降り注いでいる。「今日は雨なのね…」彼女はそっとつぶやきながら、長い髪を指先で掬い上げた。

「こんな日は、心が動かされる不思議な物語が読みたいわ」彼女はそうつぶやくと、部屋の隅にある小さな本棚から一冊の絵本を手に取った。

古びた帽子をかぶった少年、バーソロミューが「つるこけもも」を売りに町に

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ぼくを探しに

ぼくを探しに

薄い雲が広がり、気持ちが少ししっとりしている昼下がり、ウサギは本棚から一冊の絵本を取り出した。久しぶりに手にした感触に微笑みながら、表紙を細い指でなぞりつつ、ゆっくりとページをめくり始めた。

絵本といっても、それは、白いページに黒い線で「まる」が描かれているだけのシンプルなものだった。

しかし、よく見ると、その「まる」には目があり、体には隙間が空いている。「まる」である「ぼく」は、その隙間を埋

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仮面舞踏会

仮面舞踏会

その日、カメが図書館に足を踏み入れると、ふと目に留まったのは、書架の陰で真剣な表情で本のページをめくるウサギの姿だった。

カメは足音を立てないようにそっと近づき、静かに声をかけた。「ウサギさん、分類番号798の書架で何を読んでいるの?」

ウサギは顔を上げ、少し驚いたようにカメを見つめた。「あ、今度、謎解き検定を受けようと思ってね。それで、その問題集を探していたところなの」

カメは少し迷った表

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100かいだてのいえ

100かいだてのいえ

図書館の一角で、ウサギはじっと大きな絵本を見つめていた。それは特に目を引く、縦が116センチもある長い一冊だった。

「この『100かいだてのいえ』、大きなサイズで読むと迫力がすごいの」彼女は両手に力を込めて、その本を持ち上げた。

そのとき、カメが偶然近くを通りかかった。 「その100かいだての世界に行ってみない?」カメは微笑みながら彼女に声をかけた。

ウサギが頷くと、二人は図書館を後にして駅

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夢にめざめる世界

夢にめざめる世界

静かな図書館の一角で、ウサギは返却された本をなんとなく眺めていた。しばらく視線を滑らせていると、一冊の絵本がふと目に飛び込み、導かれるように手に取っていた。

「夢にめざめる世界…どこか謎めいた響きね」ウサギはその本をそっと胸に抱き、静かに閲覧席へと歩み寄った。

ページをめくると、不思議な違和感が彼女を包み込んだ。左のページに広がる海底が、まるで自然に続いているかのように、右のページの青空とつな

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おしゃべりな たまごやき

おしゃべりな たまごやき

暑さにうなされて早く目が覚めた朝、ウサギはぼんやりと天井を見つめた。
「こんなに暑いと眠るのも一苦労ね。朝ごはんにはまだ早いし、何か読もうかしら」シャワーを浴びて少しだけ涼しさを取り戻すと、一冊の本に手を伸ばした。

彼女が選んだのは、「おしゃべりなたまごやき」という絵本だった。
「王様って、最高指導者のことよね。一国を束ねる人。でも、この王様、ちょっと変わっているのよね」と、ウサギは静かにページ

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おうさまがかえってくる100びょうまえ!

おうさまがかえってくる100びょうまえ!

夏の夕暮れ時、ウサギはベランダで風鈴の音を聞きながら、心の中でつぶやいた。
「この暑さを少しでも忘れられるような、心が躍るような本が読みたいわ」

彼女は部屋に戻ると、冷蔵庫から取り出したアールグレイをグラスに注ぎ、小さな氷をひとつ、そっと浮かべた。

窓際の椅子に腰を落ち着けると、一冊の本を引き寄せた。ウサギが選んだのは「おうさまがかえってくる100びょうまえ!」という絵本だった。

「王様って

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旅するわたしたち

旅するわたしたち

図書館の閲覧席で、ウサギは旅行特集の雑誌を手に取り、ぼんやりと呟いた。
「夏休みだし、どこか旅に行きたいな」

隣のカメに視線を送ると、「暑いこの時期は、涼しい図書館で本を読んでいるのが一番かな」と、彼は本から目を離さず静かに答えた。

「例えば、行ってみたい図書館とかないの?」ウサギが問いかけると、カメは読んでいた本から顔を上げ、ふと考え込んだ。そして、彼女の目の前にその本をそっと差し出し、小さ

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ちいさいおうち

ちいさいおうち

夕立が降り始めた午後、窓を叩く雨音を聞きながら、ウサギの心は幼い頃の思い出へと誘われていた。野山を駆け回ることが何よりも好きだった彼女は、いつの間にかお洒落な街に憧れるようになっていた。

思いにふけりながら、彼女は部屋の隅にある小さな本棚から一冊の本を取り出した。それは、子どもの頃からずっとお気に入りの絵本だった。

物語の中で、ちいさいおうちは静かな田園地帯の小高い丘の上に建ち、四季の移ろいを

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はくぶつかんのよる

はくぶつかんのよる

図書館の閲覧席で静かに物語の世界に浸っていたカメの隣に、ウサギがふわりと座った。彼女は、興味津々にカメに問いかけた。
「ねえ、博物館ってどんなところなの?」

「それなら、分類番号069の書架に博物館の本が並んでるよ」と、カメは物語に夢中になったまま、上の空で答えた。

ウサギが本を探しに立ち上がろうとすると、カメは本に目を落としたまま、彼女の腕をそっと掴んだ。「ちょっと待って」と言うと、手探りで

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手を伸ばせば きっと届く

手を伸ばせば きっと届く

夏の強い陽射しが窓際の席を照らす図書館で、ウサギは一人、本に夢中になっていた。彼女の視線はページから離れず、本の世界に引き込まれていくその姿は、まるでその物語の一部のようだった。

その絵本は、どうしても月と遊びたいモニカのために、長いハシゴを持ったパパが、お月さまを取りにいくというお話だった。

「いいなあ。私もお月さまが欲しいわ」と、ウサギが思わず口にすると、偶然近くを歩いていたカメが静かに振

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かとりせんこう

かとりせんこう

暑い季節がやってきた。ウサギは部屋の隅に置かれた箱を引っ張り出すと、浮世絵の団扇を取り出しそっと眺めた。
「これで少しは涼しくなるかしら」

彼女は箱の底に埋もれていた蚊遣豚に気づいた。ふと手に取って眺めていると、彼女の視線は小さな本棚に向かった。

細い指先が本の背表紙を一冊ずつ優しくなぞり、ある一冊の本に止まった。そっとその本を取り出し、窓辺の椅子に静かに腰を下ろすと、ゆっくりとページをめくり

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