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もっと おおきな たいほうを
ウサギはラジオの仕事を終えると、急ぎ足で駅へ向かった。飛び乗った電車の窓からは、夕暮れの景色が、心地よいリズムを刻んで流れていく。やがて小さな駅に到着すると、彼女は静かに図書館へと足を向けた。
閉館間近で慌ただしい窓口を通り過ぎ、児童書コーナーに向かうと、求めていた本を探し始めた。彼女が手にしたのは、二見正直さんの「もっと おおきな たいほうを」という絵本だった。閲覧席に腰を下ろすと、最初のページをそっとめくった。
物語の中には負けず嫌いの王様がいた。その王様は、自分より大きな大砲を持つキツネに対抗すべく、もっと大きな大砲を作るように命じた。キツネが王様よりもさらに大きな大砲を持ってくると、王様はさらに大きな大砲を作るように命じた。このように物語は果てしない競争が続いていく…。
ウサギは一旦顔を上げ、考え込んだ。この王様が本当に求めているものは何なのだろう? 大きな大砲自体なのか、それともただ競争に勝つことだけなのか。いや、もしかすると、もっと別の何かなのか。彼女は窓の外を見つめながら、自らに問いかけた。
「それにしても、どうして人は目に見える競争に心を奪われて、本当に大切にしたいものを見失ってしまうのかしら?」ウサギはそう呟いた。もしかしたら彼女は、この絵本にその答えを求めていたのかもしれない。
再び物語に目を戻すと、王様は新たな策略を練り始めていた。今度は大砲の数や装飾の華やかさでキツネに勝負を挑んだのだ。しかし王様は知らなかった。キツネの大砲は、ただの葉っぱに魔法をかけたものに過ぎないことを。
ウサギは静かに本を閉じた。「望まない競争に巻き込まれると自分を見失ってしまうわ。やっぱり、自分のペースで自分の道を歩むのが一番ね」彼女は心の中でそう呟いた。
夜の静けさが彼女の周りに広がり、月の柔らかな光が足元を照らしていた。静かな夜風がそっと彼女の頬を撫で、まるで彼女の選択を祝福しているかのようだった。
※もっと おおきな たいほうを
二見正直・作/福音館書店