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善意から生まれる経済効果! サミュエル・ボウルズ 『モラル・エコノミー』

 こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!

 突然ですが、

「人間は本当に自分のためだけに動くの?」

 そんな疑問を抱いたことはありませんか?

 私たちは、ボランティア活動に参加したり、環境に配慮した商品を選んだり……

 時には自分の利益を犠牲にしてでも、誰かのために何かをしたりします。

 そんな私たちの行動は、従来の経済学では説明できないかもしれません。

 経済学者のサミュエル・ボウルズは、いまから紹介する『モラル・エコノミー』で、この疑問に挑みます。


従来の経済学への挑戦 人間は本当に自己利益のみを追求するのか?

 経済学は長らく、「人間は合理的な経済主体であり、常に自己利益を最大化しようとする」という前提に基づいてきました。

 しかし、ボウルズはこの考え方に疑問を投げかけます。

 彼は、人間は経済的インセンティブだけでなく、道徳心、倫理観、そして他者への配慮に基づいて行動することも多いと主張します。

 人間は、協力や互恵性によって進化してきた生物です。ボウルズは、進化生物学の知見を取り入れ、人間が利他的な行動を取る傾向があることを説明します。ここで面白い実験が紹介されていたので紹介します。

最後通牒ゲームとは?

最後通牒ゲーム(Ultimatum Game)は、実験経済学や行動経済学でよく用いられるゲームです。2人のプレイヤーがいて、提案者と応答者に分かれます。

  1. 提案者は、一定額のお金をどのように分配するかを提案

  2. 応答者は、その提案を受け入れるか拒否するかを選択

  3. 提案が受け入れられれば、提案通りの分配が行われる

  4. 提案が拒否されれば、両者とも何も得られない

ゲームのポイント

  • 合理的な選択 従来の経済学では、応答者はどんな少額の提案でも受け入れることが合理的だと考えられてきた。なぜなら、少しでもお金を得られる方が、何も得られないよりは良いから

  • 現実の行動 しかし、実際の実験では、あまりにも不公平な提案(例えば、提案者が99%、応答者が1%など)は、応答者によって拒否されることが多かった。これは、人間が公平性や正義を重視する傾向があることを示すデータである

インセンティブの落とし穴 善意を損なう報酬

ボウルズは、金銭的報酬などのインセンティブが、時に人々の内発的動機を弱め、かえって逆効果になる場合があることを指摘します。たとえば……

  • 保育所の遅刻罰金 イスラエルのある保育所では、親の遅刻に対して罰金を導入したところ、かえって遅刻が増加したという。罰金によって、遅刻が金銭で解決できる問題と捉えられ、親の道徳的責任感が薄れてしまったためと考えられる

  • 血液提供の有償化 血液提供に金銭的報酬を支払うと、人々の善意に基づく献血意欲が低下し、血液の安全性も低下する可能性があるという。これも興味深い。

モラル・エコノミーの重要性 社会を支える道徳心

 ボウルズは、経済活動において、道徳や倫理に基づく「モラル・エコノミー」が重要な役割を果たすと主張します。モラル・エコノミーは、人々の協調や信頼関係を促進し、社会全体の幸福に貢献する経済理論です。

 例えば、地域社会における助け合いや、企業内でのチームワークなどは、モラル・エコノミーの現れと言えるでしょう。また、日本人の美徳として高く評価されている誠実さや勤勉さも、モラル・エコノミーに基づく行動と言えるでしょうか?

モラル・エコノミーのデザイン:より良い社会を築くために

 モラル・エコノミーを促進するための政策デザインの重要性を訴えかけています。社会規範や道徳心を尊重し、人々の協調や信頼関係を促進する政策を設計する必要があると述べます。また、インセンティブは、人々の内発的動機を損なわないように注意深く設計するようにと指摘しています。

 さらに、市民が積極的に社会問題に関与できるような仕組みを構築することを提案していました。市民参加は、モラル・エコノミーを強化し、より良い社会を築くために不可欠な要素だからです。

日本の場合はどうだろう?

 私は『モラル・エコノミー』は、日本社会に対しても多くのヒントを与えてくれる本だと思っています。

  • 企業経営 従業員のモチベーションを高めるために、金銭的報酬だけでなく、やりがいや貢献感などの内発的動機を重視すべきでは?

  • 教育 道徳教育や倫理教育を通じて、子どもたちにモラル・エコノミーの重要性を伝える必要があるのでは?

  • 社会政策 社会保障制度や環境政策など、様々な政策において、モラル・エコノミーの視点を組み込む必要があるのでは?

感想など

 私自身、経済学の本をたくさん読んできましたが、本書を読んで、経済学が依拠してきた「人間は自己利益のみを追求する」という前提に疑問を抱くようになりました。

 ボウルズが提示する、人間は道徳心や倫理観、そして他者への配慮に基づいて行動するという視点は、経済学を超えて、人間行動の複雑さや社会の多様性を理解する上で非常に重要だと感じました。

 特に、インセンティブの逆効果に関する議論は印象的でした。保育所の遅刻罰金や血液提供の有償化の例は、インセンティブが必ずしも人々の行動を望ましい方向に変えるとは限らないことを示しており、政策立案においても慎重な検討が必要だと考えさせられました。

 また、モラル・エコノミーのデザインに関する議論も興味深く、社会規範や道徳心を尊重し、人々の協調や信頼関係を促進する政策の重要性を再認識しました。

 日本においても、地域社会における助け合いや、企業内でのチームワークなど、モラル・エコノミーの重要性を感じることが多々あります。

 この本で得た視点は、これらの活動をより深く理解し、地域社会をより良くしていくためにも役立つと感じています。

 この本、経済学だけでなく、心理学、社会学、哲学など、様々な分野の知見を融合させた、非常に刺激的な内容です。

 経済活動と社会の在り方について、深く考えさせられる一冊であり、多くの方に読んでいただきたいと感じています。

利他主義が経済を救う
道徳が生み出す経済効果を、この本に学びましょう!

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