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創作ものがたり

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2021年7月の記事一覧

飲み物達は夢を見る

飲み物達は夢を見る

今日も選ばれなかったなぁ

誰かの救世主になりたいと思って生まれた俺だったけど、日の目を見ることなくここでひんやりし続けて早2ヶ月だ。

俺は賞味期限というものが早いわけじゃないからそんなに入れ替えはないらしい。
そもそもそんなに入れ替えられるやつなんていないんだが。

「よぉ新入り」
「……」

とても人気な飲み物には遂に無視されるようになった。
昨日のこいつはめちゃめちゃ話してくれたんだけどな

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何故かその日、私はどうしようもなくあの自転車を欲しいと思ったのですが

何故かその日、私はどうしようもなくあの自転車を欲しいと思ったのですが

あ、自転車欲しい

ふと私はそう思った。
というのも、今日はひたすら歩いたり電車に乗ったりして色々な場所に向かったが、直線距離はどう考えても電車を使わずに移動した方が早かったのだ。

もちろん歩くのも悪くない。
すれ違う度に色々な人の顔や服装が見られる。
人間観察とはとても楽しいもので、
そこからは様々なことを発見できる。

人となり、生活感、性格、死生観。

おっと最後のは少し、独特すぎるか。

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研ぎ澄まされた彼女

研ぎ澄まされた彼女

サキが家に帰ってくると、クッションの上にカミソリが落ちていた。
同居人カナの物だ。

カナ、また片付けてないのか。

サキはカミソリを手に取り、洗面所に持っていく。
カミソリを元の場所に戻し、刃の部分を見てギョッとした。

血が固まっている。

サキはふと思い返してみる。
最近のカナと言えば長袖しか着ていない。
夏なのに、必ず長袖を羽織っている。

そして最近、遠距離で4年続いていた彼氏のマコトと

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ネイルをつけたヒーローの夢

ネイルをつけたヒーローの夢

初めてネイルサロンでネイルをした日の夜、夢を見た。

「助けて!」という悲鳴が聞こえて駆けつける私。
敵と思しき全身黒ずくめの男とそいつに襲われていると思しき女の子の間に立ち、手を天に掲げる。

シャキーンと長く伸びる爪。
ただし親指と人差し指と中指だけ。
薬指と小指の爪は伸びなかった。

「なんだお前は」という名前を聞いてくれる優しい敵の好意に甘え、名乗る私。
「ネイルマンZ!!」
とんでもなく

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何気ない日常

何気ない日常

「ねぇねぇ」
「何?」
「いつもありがと」
「何急に?」
「なんとなく」
「ふーん」
「ふーんって何さ」
「他になんて言ったらいいの」
「他には…どういたしまして、とか?」
「なんで上からなのって怒るでしょ」
「まぁ…うん(笑)」
「ほら(笑)」
「でもふーんはないでしょ」
「だってありがとうもアレだし」
「だからって」
「もうわかったって(笑)」
「まぁ確かに逆の立場だったらなんて言えばいいかわ

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その笑いをどうか僕に

その笑いをどうか僕に

頑張るやつを笑うやつが1番面白いんだぜ

彼は僕を前に立ち、そう言った

全くその通りだと思うと同時に

自分がやってきた過ちを恥じる

頑張るやつの努力を踏みにじる笑いにはしてないが

あいつの躍進がどうも

悔しくて悔しくて悔しくて

こうすることでしか自分を保てなかったんだ

どうしたって僕は俺になれなくて
悔しさ以上に込み上げる切なさ
やるせなさと共に苦汁を舐めて生きてきた

それなのに彼

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立ち入り禁止というルール

立ち入り禁止というルール

いざ!立ち入り禁止の領域へ!
という自分の覚悟とは裏腹に、どうしてもそこには手が出せない。

その立ち入り禁止のルールを破り、自分の知らない世界に足を踏み入れたら最後、何が起こるかわからない不安や勝手にその先の自分に見据えた恐怖に、いつも足止めをされる。

俺は、変わりたい。
自分としても、こんなしがないサラリーマンのまま人生を終えたくない。
そう、思っている。

だけれど、どうしても踏み出せない

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コーヒーカップと見る視点

コーヒーカップと見る視点

そこに残されたコーヒーカップが、私たちの終わりを告げていた。
始まりも終わりも、この喫茶店。
お互い前見て幸せに生きていこうなんて、綺麗事並べて消えたあなたを、私は今でも追いかけている。

仕事帰りに止まっていた横断歩道で、あなたの履いていたスニーカーを履いている人を見つけて思わず青信号を無視した。
その場で眺めていないと、追いかけてその腕を掴んでしまいそうだったから。
よく良く見たら違ったの。逆

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夏の思い出

夏の思い出

ぼくのなつやすみは

ちゃんと夏にくるんでしょうか

庭にいたカブトムシはもう来なくなりました

いつからか

お家のサンデッキに家族が出なくなりました

ぼくのなつやすみはいつも

お父さんが連れてってくれる海から始まりましたが

今年の夏はお父さんが帰ってきませんでした

お母さんに聞いてもわかりません

お姉ちゃんは仕方ないことだよと言いました

おかしいな去年の今頃は

みんなで海の話をし

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夏、大人になった俺たちは

夏、大人になった俺たちは

茹だるような暑さの日。
俺はノートを持って外に出た。

34歳、俺。現在無職。
いや、漫画家志望の夢見る少年。
いや、実家暮らしのくそニート。

室内でも少し熱くなった小銭を握って、コンビニに入る。
氷入りのカフェラテと、ソフトクリームを持って、レジに小銭を置く。
無人でもガラガラと音を立てて収納される小銭を眺め、レシートを取らず外に出た。

外に出て、公園のベンチに座った。
もちろん日陰。ただそ

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かなのカレンダー

かなのカレンダー

「かなちゃんは可愛いからいいよね」
「いつもモテモテだもんね」
「いいなぁ、ゲーノージン」

物心ついた時から、私はそう言われてきた。

母からの歪んだ愛を受け、子役事務所に入り芸能活動を続けてきた。

母は、女優崩れの43歳。
父は、売れっ子俳優の48歳。
父、と言っても元父であるのだけれど。

母はずっとトップモデルになりたくて10代から芸能活動をしてきた。
20代まではとても調子が良く、24

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宇宙人

宇宙人

あなたの目の前に突如宇宙人が現れたとしたら

驚きますか?

目の前に突如宇宙人が現れたとしたら

私は驚きます。

でも彼らにとっても私たちは宇宙人

惑星外生命体になるんです

外国人

とはまた違いますが

コミュニケーションを取ろうとして近づくのは

悪いことだったのでしょうか

横たわり息をしない彼の背中に被さり、
私は1つの夢を見る

いつかきっとこの世界が

この宇宙が

ひとつにな

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私に不足した栄養分

私に不足した栄養分

「お疲れ様です」
そう言って彼は私が出した栄養ドリンクを袋に入れた。

お疲れだなんて、久しぶりに言われたな。

袋の中でカチカチと鳴るおそろいのドリンクの瓶
ドキドキと速く打つ私の脈

こんな感情、久しぶりだな。
笑顔を見た瞬間身体が熱くなった気がした。

これからあのコンビニに通っちゃおうかな。
なんか毎日のワクワクができてとても嬉しい。

家に着いて、ドリンクの瓶をテーブルに置く。
久々に恋

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私は幸せよ

私は幸せよ

美味しいものを食べた日は幸せ。
でも不味いものを食べた日も、何だかおかしくて幸せ。
地面が滑って転んだ日も、痛みを感じることが出来て幸せ。
大好きだった人が亡くなった日も、もうあなたは苦しまなくていいんだねって幸せ。

不謹慎だ。
お前は馬鹿だ。
そう言われる日も、違う考えを持つ人の意見が聞けて、幸せ。

だって
不幸だって思ったら全てが不幸になる気がするから。

私は彼の分まで生きる今、一瞬一秒

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