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創作ものがたり

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2021年4月の記事一覧

とある夜、Float

とある夜、Float

『ハイボールに沈めた言葉』
どこかのアーティストがそう歌っていたっけ。
目の前にある酒はハイボールでは無いけれど、
私の濁った気持ちを沈めて隠すには
十分すぎる色味とアルコール度数。

「もし明日どこかに飛んでいけるなら
…どこに飛んでいく?」
行きつけのバーのバーテン、亜樹が私に問う。

「……」
少し悩む。
行きたいところはいっぱいある。
ハワイ、いや、沖縄でもいいな
海に行きたい。海に行って

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泡沫に酔う

泡沫に酔う

今日も一日が終わる。
俺は缶ビール片手にベランダの縁に肘をかける。
今日も何の変哲もない普通の一日だった。
俺の24時間は、果たして有意義な時間なのだろうか。

スーツのネクタイを緩めてビールを空ける。
この瞬間がいつも堪らなく最高だ。
俺の24時間で唯一の幸福を感じる瞬間。
これで彼女の1人でもいれば、最高なんだけど。
マッチングアプリを開いて本日の俺への反応を確認、これが日課。
今日も好みの人

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並べられた靴と女の子

並べられた靴と女の子

今日の服は全体的に白いから、靴も白にしようかなって思って、左上の白い靴に手を伸ばす。

オールホワイトってやつ、なんかおしゃれじゃない?
靴を履いて、白のバケットハット被れば
ほら、何だか……

どこかにいそう。

嫌だ嫌だ。
誰かと被って歩くなんて
私のプライドが許さない。
おしゃれだおしゃれだって思われる言われる服装は、絶対誰かと被るのが宿命。

まぁそんなに被ったことは無いけれどね
念には念

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積みに積まれて主人公

積みに積まれて主人公

積み上がる漫画を眺めながら、
人生について考える。
こんな主人公のような毎日だったらどれだけ刺激的だろう。

毎日毎日普遍な日々を送る私は、
漫画で言うとモブ的な立ち位置なわけで。
主人公のような人達は今日もテレビの中で笑ってる。

人生1度きり、自分だけが主人公だ!
なんて綺麗事を言う人間は何人も見てきた。
そんなことはないと気付いたのは
高校生くらいになってからだろうか。
私も案外夢見がちらし

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2夜限りの夢に浸る

2夜限りの夢に浸る

いつか希望を託した紙切れが出てきた。
それがいつだったか、あまり記憶にないが
あの日の僕は確かに希望を持っていた。
当たったら、何をしようか
あれを買って、これをして
沢山希望が出てくる僕に、
いやいやこれが先でしょ、なんて君が笑う

結果それが叶うことは無かったが、
思い出すと面白いもので。
命運を託した6つの数字。
いや、正式には8つになる数字は、
遠い過去になったいまも僕を見つめている。

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リップクリーム

リップクリーム

今日はすこぶる体調が悪い日なので
短めの文章になりますが
どうかご了承ください

という誰に届くかも分からない前置きを置いて
今日の写真を貼る私
ああすごい、本当に体調が悪いと人間は
何も考えられなくなるようです

今日の写真はリップクリームにしようと思いました
いつでもどんな時でも
身だしなみとして必要なものだと思ったからです
体調が悪い時でさえ
しっかりと唇を潤すために必要だと思ったからからで

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#虫

#虫

よくよく見ると凹凸がある壁。
目を瞑って触ってみても、この形とはわからない。
ソファに寝転がって壁を撫でる。

誰が意図してこの柄にしたのだろうか。
考えても出ない答えを無限に考え続ける深夜2時は、きっとQOLの低い時間に他ならない。

よいしょと声を出して重たい腰をあげれば
畳んでーと強請る洗濯物の山。
気だるさを感じて目を背けても、
1度強請りの視線を感じたら最後、
やらないと気が済まないのが

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君の動画雑炊

君の動画雑炊

雑炊を作ってみたと、君は僕の前にお皿を置く。
へぇ、珍しい。クックパッド?と聞くと
いいえ、これはYouTube。と誇らしげに言う君。
今は動画で雑炊を作る時代か…と
ジロジロその動画雑炊を見ていると、
いらないなら食べなくていいんだけど、と
むくれる君。

いやいや、ごめんいただくよ。と手を伸ばしスプーンを手に取ると
少しツンデレな猫のような目でこちらを見る。
美味しいという言葉をきっと期待して

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言の葉

言の葉

目の前にある花を触る私。
この花、何の花だっけ。
見覚えはある。でも名前が思い出せない。
スマホで写真を撮る。

あの人は花が好きだった。
というより、花が好きな私を好きだった。
この花似合いそうだねと、会う度に違う花をくれた。
けれど、いつしか花は少なくなった。

1番思い出に残っているのは、
あの人がくれた青い百合。
どうやら花言葉は無いらしい。
白い百合以外全て悪い意味を持つ百合の中で
唯一

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背景、しんじょう

背景、しんじょう

上を見上げたら、はためいていた旗。
虚しく見える2020の文字は、誰にも見られることなく掲げられていた。

本来なら昨年、お祭り騒ぎだったはずの日本は
ほぼ昨年と変わらず顔を覆う布が蔓延る。
ひとつ違うとすれば、昨年の今よりも、彩りに溢れているということだ。

間違いなく、3年前の僕は、今の状況を予想出来ていなかっただろう。
逆に3年後の僕は、今をどう思うのだろう。
懐かしいと笑うのだろうか、

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転んで生きる

転んで生きる

目覚めるとそこは、不思議の世界でした。
なんてファンタジーが起きればいいのに。
現実世界は私をいつまでも逃がさない。
転生なんて、出来るものならしてみたい。
きっと誰しも1回は思ったことがあるんじゃないかな。

そんなこと考えながら椅子に持たれて
身体を伸ばしていた私。
ちょっと伸ばしすぎたみたいで、
床に転げ落ちた。
こんな小学生みたいなことある?って
1人で笑うオフィス。
今日も残業は私だけ。

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非情愚痴

非情愚痴

「よい子はマネしないでください」

不意に頭に過ぎったテロップ。
そもそも「よい子」とはなんだろうか。
真似してはいけないことをしている俺は
よい子では無かったということなのか?

毎日あれをやれこれをやれと言われたから
あれもやったしこれもやった。
それでもあいつは
「おう、お疲れ」
しか言わなかった。

お疲れ??????は???
え、お疲れってその一言で片付ける?
これお前がやるはずだった仕

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捨てるなんて簡単なのに

捨てるなんて簡単なのに

彼はゴミを放置する人だった。
私は食べたらすぐゴミ箱に入れてって何回も言ってるのに、全然直らなかった。
そんなにしつこく言ってるつもりもないのに、
「後でやるってばうるさいな」って彼はいつも言った。

後でやらないで今やってよ。
すぐ出来ることを彼は絶対しようとしない。
後で、後で。
全部後にした。

本当に、腹が立った。

捨てる者あれば拾う神ありなんて
よく言ったものだけれど。
私は彼が捨てた

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エスカレーターで昇る

エスカレーターで昇る

誰よりも速く歩きたくなって
不意に右側を歩くエスカレーター。
左側には沢山の人がいて
スマホ片手のお兄さん
ボーッと窓見るおじいさん
そのおじいさんの右にはおばあさんがいて
思わず僕は歩を止めた

昔スマホが無かった時、僕らはどうしていたんだっけ

僕らの右手は常に何かを持っていて
左手は空を切る
人によっては逆かもだけど
僕を主点に置いたらそうなるんだ。

空いた空間に何かがあるんだとしたら

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