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言の葉

目の前にある花を触る私。
この花、何の花だっけ。
見覚えはある。でも名前が思い出せない。
スマホで写真を撮る。

あの人は花が好きだった。
というより、花が好きな私を好きだった。
この花似合いそうだねと、会う度に違う花をくれた。
けれど、いつしか花は少なくなった。

1番思い出に残っているのは、
あの人がくれた青い百合。
どうやら花言葉は無いらしい。
白い百合以外全て悪い意味を持つ百合の中で
唯一この花はまだ花言葉が存在しないのだと
笑いながらあの人は私にそう言った。

「付けるとしたら、純粋かな。」
「馬鹿ね、それは白の胡蝶蘭よ。」

思い出し笑いをしながら
名を忘れた花の花弁を撫でたら、
それが造花であることに気がついた。

造られた花に終わりはない。
家にある枯れた花々ももし造花であったなら
あの人の純粋な笑顔もそのままに
永遠に取って置けたかもしれないのに。

その造花が胡蝶蘭であることを、
私はもう少し後で思い出す。
数ある造花の中で何故か惹かれたその意味を、
思い出すのは外に降る雨が上がる32分後。

言葉の無き花の最後の1輪が枯れる。
私は記憶の中のあの人に別れを告げる。

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