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捨てるなんて簡単なのに

彼はゴミを放置する人だった。
私は食べたらすぐゴミ箱に入れてって何回も言ってるのに、全然直らなかった。
そんなにしつこく言ってるつもりもないのに、
「後でやるってばうるさいな」って彼はいつも言った。

後でやらないで今やってよ。
すぐ出来ることを彼は絶対しようとしない。
後で、後で。
全部後にした。

本当に、腹が立った。

捨てる者あれば拾う神ありなんて
よく言ったものだけれど。
私は彼が捨てたゴミを拾う。
彼も私も好きだったチョコレートの包み紙。

「これ丸めたら指輪みたいになるじゃん」
自分の指に嵌めて彼は喜んだ。
「次の金曜、面倒じゃなかったら」
そう言って彼は私に包み紙の指輪を渡して約束をした。
どうせ面倒になって、また後にされるだろう。
当てにしてなかったんだけどな。

それでも、これだけは後にしようとしなかったんだね。
これこそ後にして欲しかったのに。

今日は金曜日、彼が冷たい。
これも後にして欲しかったよ。
何で、今日なのかなぁ。
私、何かしたかな。
後悔しても、もう遅い。
小言しか言わなくてごめんね。
こんな風になるなら、後にしても良かったよ。

家のテーブルのチョコレートのゴミは、今もまだ残ったまま。
もう暫くは、誰も拾わないでこのままで。

今日は金曜日、私たちの記念日。
彼の手の中の金の指輪をそっと私の指に嵌めた。

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