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背景、しんじょう

上を見上げたら、はためいていた旗。
虚しく見える2020の文字は、誰にも見られることなく掲げられていた。

本来なら昨年、お祭り騒ぎだったはずの日本は
ほぼ昨年と変わらず顔を覆う布が蔓延る。
ひとつ違うとすれば、昨年の今よりも、彩りに溢れているということだ。

間違いなく、3年前の僕は、今の状況を予想出来ていなかっただろう。
逆に3年後の僕は、今をどう思うのだろう。
懐かしいと笑うのだろうか、
それとも、羨ましいと泣くのだろうか。
いずれにせよ、今は何も変えられない
広い世界のちっぽけな自分。

旗がはためく下で僕は揺れる。
何も出来ない虚しさと、文字の虚しさが重なって思えるから。
今の僕は、昨日の僕とも何も変わっていない。

足元に視線を落とすと、吸われた紙タバコが1つ。
虚しくはためく旗の下で、役目を果たし捨てられたタバコが1つ。
世間に取り残されたような、僕がひとつ。

子どもは言う。
「オリンピックはいつやるの」と
大人は言う。
「コロナが無くなったらよ」と
答えにならない曖昧な答えを、
僕らはいつまで続けるのだろう。

いつまで、いつまで続けるのだろう。

空でも見ようかと思って顔を上げる。
さっきと同じ景色なはずなのに
何も変わっていないはずなのに、
旗は虚しく見えなかった。

むしろ、とても凛として見えた。

そうか、お前は延期になった今も、
オリンピックの開催を信じてそこにいるんだよな。
僕らが勝手に、不安になって思いを語ってる中で、
誰よりも高い位置でお前は、その開催を信じて、その場所を守っているのだよな。

心の中でごめん、と呟いて、僕はまた歩く。
しばらく続く旗を眺めて、僕は思う。

何にも揺れずに、はためく自分でありたいと。

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