見出し画像

#虫

よくよく見ると凹凸がある壁。
目を瞑って触ってみても、この形とはわからない。
ソファに寝転がって壁を撫でる。

誰が意図してこの柄にしたのだろうか。
考えても出ない答えを無限に考え続ける深夜2時は、きっとQOLの低い時間に他ならない。

よいしょと声を出して重たい腰をあげれば
畳んでーと強請る洗濯物の山。
気だるさを感じて目を背けても、
1度強請りの視線を感じたら最後、
やらないと気が済まないのが面倒な私の性分でありまして。

畳み終えるまで好きな配信者の動画でも見ようかと、スマホをスタンドに立てて横にして再生を押す。
小さな画面の中でお決まりのセリフで登場する彼はいつも笑顔で可愛い。
彼も私みたいに洗濯物を畳むのが面倒だ、なんて思うのだろうか。
いや、彼にはそんなのを嫌がらずやってくれる
そんな可愛い彼女がいるに違いない。

洗濯物を畳み終え、1つ1つ棚に戻していると
SNSの更新通知が鳴った。
『洗濯物畳んでよ』
と書かれたその子の投稿の写真には
さっきの配信で彼が着ていたシャツが無造作に置かれているのが写っていて。

おいおいおい
やってくれましたな

私はため息をついて苦笑いで彼のSNSへ飛ぶ。
案の定、大炎上。
投稿した子のSNSへすかさず戻る。
該当の投稿は消されていたがもう遅い。
スクショの嵐が彼女を襲う。
彼女いわく、メッセージアプリの送信と間違えたらしい。
どこまで本当なんだかね。

まぁ私は、分かってましたけどね。
だからこの子のSNS投稿の通知をオンにして
この日をずーっと待っていたんですけどね。

発車オーライ。
私は壁を撫でて、
彼女と彼の写真が入っているフォルダを開く。

まっさらなただの壁なら
何が引っかかることも無く、
かかったものもストンと床に落とすけれど
私の家の壁のような掴まる部分がある壁は、
手に小さな突起を持つ虫は落とせない

捕まえた。もう逃がさない。
SNSで私を待つ人々の
よりスパイスを強請るその視線を感じたからには。

私は、やらないと気が済まないのよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?