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転んで生きる

目覚めるとそこは、不思議の世界でした。
なんてファンタジーが起きればいいのに。
現実世界は私をいつまでも逃がさない。
転生なんて、出来るものならしてみたい。
きっと誰しも1回は思ったことがあるんじゃないかな。

そんなこと考えながら椅子に持たれて
身体を伸ばしていた私。
ちょっと伸ばしすぎたみたいで、
床に転げ落ちた。
こんな小学生みたいなことある?って
1人で笑うオフィス。
今日も残業は私だけ。

落ちたまま床を眺めれば
延々と続くキャスター達。
これに乗ったままあの窓を破れば、
私転生出来るんじゃないかな

よくあるもんね、社畜転生。
そして、割とチートキャラになるものだよね。

私はキャスターを1個1個触る。
どれが1番私と合うか、丁寧に見極める。
もし転生できるキャスターなら、きっと何かを感じるはず。

ピタッと手が止まる。
このキャスター…強い。
ビビッときた。絶対これだ。
誰の椅子か確認して、余計分かった。
私はこれに乗るべきだと。
その椅子は私の気になる阿部さんのもの。

私は阿部さんの椅子を窓から1番遠い直線距離まで持っていく。
ガラガラガラガラ
椅子は音を立てて窓から離れる。

よっしゃ、行くぞ!

私は勢いをつけて椅子に飛乗る。
近づいてくる窓、聞こえる鼓動。
自分の高揚をしっかりと感じて
椅子と共に私は転生するんだ!!



ガッシャン


空を飛んでいるような、
清々しいこの気持ち。
やって良かった。
本当にそう思えるくらい清々しい。

私は振り返って、延々と続くキャスターを眺めている。
そうですよね、社畜が転生なんて、ね。
漫画の話よね。
さながら私は会社に転がる畜生ですわね。

バカなことをしたものだ。
でもこの痛みすら愛おしい。
高揚を感じながらも私はしっかり、
何かを恐いと感じていたようだ。

立ち上がって椅子を戻そうとしたら、
キャスターが1つ外れていた。
我に返った私はキャスターを持って接着剤を探す。

ドア付近に人の気配を感じる。
待って、こんな時間に人がいるなんて。
恐る恐る見るとそこには、
阿部さんがコーヒーを持って立っていて。

いや、こういうところだけ漫画なのかい、と
自分の人生を笑う私。
私を見ながら笑う阿部さん。

何をやっていたのか話すのは、
コーヒーを頂いてからでもいいかな。

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