マガジンのカバー画像

弱おじの本棚

199
読んだ本の記録です。
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

「しをかくうま」を読んで感じた「言葉を研ぎ澄ませていくことの美しさと楽しさ」

「しをかくうま」を読んで感じた「言葉を研ぎ澄ませていくことの美しさと楽しさ」

九段理江さんの「しをかくうま」を読んだ。

まさに純文学。
研ぎ澄ました言葉で遊ぶ様に、読んでいてなんだか笑えてきてしまう。
物語の概要とかは、私の能力不足で半分も理解できてない気がします。
それでも、読んだ後の高揚感とワクワク感が素晴らしいです。

言葉と人間という壮大なテーマを扱っている本書。
最近、言葉の持つ力であり、可能性であり、どこか神がかっているものを感じていて、そんな中で本書と出会え

もっとみる
「つまらない住宅地のすべての家」を読んで、「みんな色々あるよなという救い」を得た話。

「つまらない住宅地のすべての家」を読んで、「みんな色々あるよなという救い」を得た話。

津村記久子さんの「つまらない住宅地のすべての家」を読んだ。

ある住宅地に、逃亡犯が近づいているという情報が入る。
団結して対策する過程を描く中で、住人たちのそれぞれの生活や人生が少しずつあらわになっていく。

「みんな色々あるよな」と、思った。
そして、なぜだか救われた気持ちになった。

きっと、自分だけじゃないって安心できたからだと思う。
よかった。みんな真っ当に生きているフリして、実はちゃん

もっとみる
「イルカも泳ぐわい。」を読んで加納さんのセンスに脱帽した話。

「イルカも泳ぐわい。」を読んで加納さんのセンスに脱帽した話。

お笑い芸人 Aマッソ 加納愛子さんのエッセイ「イルカも泳ぐわい。」を読んだ。

偉そうなことを言うつもりはないけど、加納さんの言葉はすごく上質だ。品がある。
関西弁で一見強い言葉もあるのだけれど、その一つ一つが繊細で意味があって、すごく感受性が高い方なんだなと思った。

良い意味でぶっ飛んでもいるし、良い意味で人間的でもある。
自分が経験したこと、感じたことをこんなにも巧みに言葉にできたなら、人生

もっとみる
「木洩れ日に泳ぐ魚」を読んでなんかエモくなった話。

「木洩れ日に泳ぐ魚」を読んでなんかエモくなった話。

恩田陸さんの「木洩れ日に泳ぐ魚」を読んだ。

エモい。
アパートの一室で別れを控えた男女の会話が繰り広げられるのだけど、その言葉がいちいちエモい。おしゃれ。

木漏れ日のように、文学を燦々と浴びた気分。
心地よい。なんだか自分が崇高な人物になれた気になる。

その上、本書にはミステリー要素も含まれていて最後まで飽きさせない。
読者の腕が凄すぎる。単なる純文学で終わってもいいのに、そこに一味加えてく

もっとみる
「変な家」を読んで「正攻法で戦わないことの大切さ」について考えた話。

「変な家」を読んで「正攻法で戦わないことの大切さ」について考えた話。

雨穴さんの「変な家」を読んだ。

映画化もされて話題となっている作品。
面白い。
間取り図と文章で読ませる新感覚のミステリー。そこに小説特有の人間の心情が折り重なって深みが増す。

インタビュー記事で作者の雨穴さんは「正攻法で小説を書いてもプロに勝てるはずがない」と思って本作を書いたと言っていた。

発想の転換。
敵の少ない領域を選ぶ賢さ。

もちろん、人生において自分がやりたいことをぶらすべきで

もっとみる
「正欲」を読んで「自分が生きたいように生きること」について考えた話。

「正欲」を読んで「自分が生きたいように生きること」について考えた話。

朝井リョウさんの「正欲」を読んだ。

人生ってしんどいよなって思った。
社外のレールから外れるのが怖くてみんな必死に普通を目指して躍起になる。
しんどいし、人生ってマジで意味ないよなって思えてしまう。

ちゃんと仕事をして、大切な異性を作り、サックスをして、子供を作り、育てる。
そんな社会に敷かれた当たり前というルールでありレール。
はみ出そうものなら、「大丈夫?」「なんで?」と変わり者を見る目で

もっとみる
意味のないこの人生で、いかに意味を感じて幸せに生きるか。 〜「どう生きるかつらかったときの話をしよう」を読んで〜

意味のないこの人生で、いかに意味を感じて幸せに生きるか。 〜「どう生きるかつらかったときの話をしよう」を読んで〜

野口聡一さんの「どう生きるかつらかったときの話をしよう」を読んだ。

めちゃくちゃくらった。
そして人生について深く考える素晴らしい機会を与えてもらった。

この本を手にしたってことは、私はどう生きるかわからず辛かったのだろう。
本書を読み終えた今だって、悩みは尽きない。
だけど、目の前に少しだけ、光が差している。
こうすれば今より幸せに生きられるんじゃない?みたいな手応えが、今微かに掴めそうな気

もっとみる
人生なんて曖昧でいい。虚構だもの。〜「夜果つるところ」を読みました〜

人生なんて曖昧でいい。虚構だもの。〜「夜果つるところ」を読みました〜

恩田陸さんの「夜果つるところ」を読んだ。

「鈍色幻視行」の物語に出てくるいわば作中作品で、まずその仕組みが面白いなと感じた。

虚構の中に存在する虚構の物語が、こうして現実には存在する。
なんだか訳がわからなくなるが、人生とはそんな曖昧なものなのかもしれない。

著者がインタビューで「曖昧な状況に耐えるのが人生」という言葉を残していた。
そして「真実は虚構にしかない」とも。

白黒つけられない人

もっとみる
幸せになるコツは自分にとって幸せとは何か明確にしておくこと。〜「サイコロジー・オブ・マネー」を読んで〜

幸せになるコツは自分にとって幸せとは何か明確にしておくこと。〜「サイコロジー・オブ・マネー」を読んで〜

モーガン・ハウセルさんの「サイコロジー・オブ・マネー」を読んだ。

お金に対する考え方はもちろんだけど、一歩踏み込んで、人生というものに対して深く向かう素晴らしい機会を与えてくれた。

結論。
万人に共通するお金との向き合い方の正解なんて存在しない。
なぜなら、何に幸せを感じるかなんて、人それぞれだから。

私にとってお金とは何かを考える。

お金持ちになりたいか?と問われれば、まぁそれなりにと答

もっとみる
脇役の一言が生きる勇気をくれるという小説の醍醐味 〜「木挽町のあだ討ち」を読んで〜

脇役の一言が生きる勇気をくれるという小説の醍醐味 〜「木挽町のあだ討ち」を読んで〜

永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」を読んだ。

面白い。
ミステリーとして素晴らしいし、タイトル回収の美しさに清々しい読後感を味わえた。

時代小説はちょっとなぁ‥と言う人も、騙されたと思って最後まで読んで欲しい。
実際私も、読み始めこそ時代小説特有の文章なら馴染めなかったが、今は本当に最後まで良かったなと思えている。

物語は「あだ討ち」の謎を巡って目撃者にインタビューをする形で進む。
それぞ

もっとみる
言葉を読んで言葉について感じたことを言葉にしてみる 〜「東京都同情塔」を読んで〜

言葉を読んで言葉について感じたことを言葉にしてみる 〜「東京都同情塔」を読んで〜

九段理江さんの「東京都同情塔」を読んだ。

私たちの身近にある「言葉」というものについて、改めて深く考えさせられた。

本作は生成AIを利用しながら書かれたとのこと。
人が紡ぐ言葉とAIが生み出す言葉。
その差異を、一目で見分けられる人はいるのだろうか?
そして、それぞれの言葉には何か違いがあるのだろうか?

改めて、言葉とは不思議なものだ。
「あ」は「あ」だけど、そこに「い」が加わればそこに「あ

もっとみる