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#図書館司書
「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介
ホストに貢ぐために体を売ることを厭わない。
そんな女性たちが新宿の大久保公園に、立ちんぼとして集まっているという。
中には、月に百万円以上稼ぐ人もいるという。
日本では、売買春が売春防止法という法律で禁じられているので、捕まれば罰金もあるし懲役もあるし前科も付く。
でも、そういった方面に疎い自分でさえ知ることになったというのだから、もはや公然と売買春が行われているといっても過言ではないと
「木乃伊」中島敦著(ちくま文庫『中島敦全集1』所収):図書館司書の短編小説紹介
波斯王が埃及に侵攻した時、武将の一人であるパリスカスの様子に異常が見えた。
「見慣れぬ周囲の風物を特別不思議そうな眼付で眺めては、何か落着かぬ不安げな表情で考え込んでい」たという。
彼は、「今迄に一度も埃及に足を踏入れたこともなく、埃及人と交際を持ったことも」ないのに、埃及軍の捕虜たちが話す言葉の意味を分かるような気がするのだった。
波斯王は侵略を決定的なものとするために、埃及の先王ア
「地獄変」芥川龍之介著(新潮文庫『地獄変・偸盗』所収):図書館司書の短編小説紹介
地獄とはさもこのようであろうかと、そこに堕とされた罪人たちの責め苦と彼らを苛む奈落の獄卒たちの残忍さ、そして何よりも牛車ごと紅蓮の業火に包まれる女房の悶え苦しみを写し取った一隻の屏風。
本作は、絵師良秀がその屏風「地獄変」を完成させるまでの経緯を描いている。
見せ場は、良秀が屏風のあらましは出来上がったものの、「唯一つ、今以て私には描けぬ所がございまする」と、絵の注文者である大殿に上申したた
「人形」小林秀雄著(文春文庫『考えるヒント』所収):図書館司書の短編小説紹介
本作は、ほんの三ページの小随筆に過ぎないのだけれど、もっとずっと長い、上質の小説を読んだ時のように、余韻がいつまでも胸にこだまし続ける作品だ。
著者が、急行の食堂車で遅い夕食を食べていた時のことだ。四人掛けのテーブルの前の空席に、「六十恰好の、上品な老人夫婦が腰をおろした」。
その夫人は食事の間、垢染みた顔の人形を横抱きにし、「はこばれたスープを一匙すくっては、まず人形の口元に持って行き
『海がきこえる』氷室冴子著(徳間書店):図書館司書の読書随想
この本は、今まで何度読み返したことか。爽やかな青春を追体験でき、読了したそばから、また再読できる日を心待ちにするほど好きな本だ。
はじめて読んだのは、私が高校三年の時。物語は主人公が大学に進学し、それからの一年と高校二年の時に転校して来たヒロインとの関わり合いを思い出す形で進んでいくので、まさに自分と同年代の話と言えた。
ただ、私が通っていた学校は男子校だったので、同じクラスに女子がいるとい
「おしゃれ童子」(新潮文庫『きりぎりす』)太宰治著 :図書館司書の短編小説紹介
自意識過剰で自己陶酔的で独善的な一時期というのは、誰にでもあると思う。
その頃に突飛な言動をとり、数年後に当時を振り返って恥ずかしさで顔を覆いたくなる、きっと誰にでもそういう経験はあるに違いない。あって欲しい。
太宰治の「おしゃれ童子」を読んで、まず感じたのは、自分も同じようなことをしたなぁ、との恥じらいへの同調だ。
周囲から浮いた「あわれに珍妙な」恰好をしても、天上天下唯我独尊状態にあ
「たきび」(新潮文庫『ふなうた』所収)三浦哲郎著 :図書館司書の短編小説紹介
竈の火。囲炉裏の火。仏壇の火。盆の迎え火。野焼きの火。そして、不謹慎ながら、盛大に燃える火事までが好きだったと言う男性。
わかる気がする。私も、火の揺らめきを見るのが好きだった。どんな火でもよかった。
ろうそくの火でも、ライターの火でも、花火の火でも。
本文にも書かれているように、「人間は誰でも火が好き」なのだろうと思う。
気を抜いて扱うと、危険と紙一重の特性を持ちながら、形を一
「夏のアルバム」(講談社文庫『随筆集春の夜航』所収)三浦哲郎著 :図書館司書の短編小説紹介
本作は短編小説ではなく随筆なので、短編小説案内としては番外編となるのだけれど、一読してふと思い出されることがあった。
この小文の中で著者は、幼い時に祖母が亡くなった折、棺桶の中に向かって笑顔を送った、と書いている。
こちらが笑い掛ければ、白い花の中の祖母も目を覚ますだろうと考えたのだ。
幼さのために時宜を得ず、場違いな行動をとってしまったことは、おそらく誰にも経験があると思う。
そし
「胡桃割り」永井龍男著(講談社文芸文庫『朝霧・青電車その他』所収):図書館司書の短編小説紹介
初読は小学生高学年の時だったと思う。国語の授業でこの作品を読み、いい話だなと感じたのを覚えている。
いつかの教科書に掲載された作品らしいのだけれど、調べてみたところ私の学校で使っていたものには載っていなかった。
ということは、教師が特別に教材としてこの短編を読ませてくれたのだろう。
確かに、いかにも教科書的な道徳も引き出せる内容であるし、文章も名文のお手本のように見事で、先へ先へと読ませる
「ランゲルハンス島の午後」村上春樹著(新潮文庫『ランゲルハンス島の午後』所収):図書館司書の短編小説紹介
ダッフルコートにしろ、革ベルトの腕時計にしろ、リュックサックにしろ、かれこれ十五年以上は同じものを使い続けている。
元々それらに格別な思い入れはなかった。その時々で、「あ、これいいな」と思ったものを、価格以外はそこまで念入りに調べることなく財布をはたいて手に入れてきた。
布がほつれたり、型が古くなったり、壊れたりしたら、仕方なく買い替えることになるのだろう、と思いながら。
けれど、数少ない