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在野研究一歩前(52)「読書論の系譜(第三十四回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑮」
今回も前回に引き続き、内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』内で紹介されている、「偉人」の「読書」論を見ていきたいと思う。
●エマーソン(ラルフ・ワルド・エマーソン)
「善き文章の創作者に次ぐ者は最初に之を引用する者なり、書を讀む人は多くして其一節を引用し得る者は尠し。一人の之を爲すや否や之を引用する者は東西に起るべし。
書籍の與ふる利益は讀者の識別力如何に依りて異なり、深遠なる思想と感情とは例へば金鑛の如し、同等の思想と感情とを有する人が之を發見し之を公にするまでは、永く地中に眠るものなり」(P67)
⇒ラルフ・ウォルドー・エマーソンは、アメリカの思想家、哲学者で、無教会主義の先導者として知られる。ワーズワースやカーライル、ソローとの交流をもった。著作に『代表偉人論』『自然論』などがある。
エマーソンは語る。
優れた文章を生み出した人物の次に、評価されるのは「引用者」である。書籍を読む人の多くは、その一節であっても引用する者は少ない。一人がある書籍から文章を引用することによって、各地で他に引用する者が現れてくる。
書籍の与える利益は、読者の能力によって異なり、深い内容をもった思想や感情というのは、例えば「金鉱」のようなものであると言うことができる。「金鉱」に眠る価値は、それを掘り進める技量をもった者が現われて、はじめて現出する。
―一人の人間が「ある一冊」の本から文章を引用することが、他の人が「ある一冊」の本を手にとるきっかけになるかもしれない。「引用者」の重要性を説いたエマーソンの言葉には、強く頷ける。
●リッチッード・コブデン(リチャード・コブデン)
「余は社會の種々なる状態を目擊せり、職業上又快樂を得んために、余の心思を奮興せしむる多くの方法を試みたり、然れども余は正直に又良心の許可を得て汝等に告ぐるを得べし、即ち余の曾て知りし最も清き快樂は汝等何人と雖も、之に接するを得るものにして、吾人の爐邊に於て書籍を透して聰明の人と語り過去の偉人と親交を結ぶ事是なるを」(P67~69)
⇒リチャード・コブデンは、イギリスの政治家、実業家。マンチェスターの実業家として成功し、熱心な自由貿易主義者となり、ジョン・ブライトとともに反穀物法同盟の中心人物となった。業績としては、穀物法の廃止や、クリミア戦争・アロー戦争に対する反戦運動があげられる。
コブデンは述べる。
私は快楽を得るために、多くの方法を試みてきたが、その中で最も優れたものを正直にあげるとすれば、書籍を通じて過去の偉人たちと親交を結ぶことである。
●サミユエル・パルマ―(サミュエル・パーマー)
「世に書籍の如きものあるなし、鬻がるヽ凡てのものヽ中に比較外に廉價なるものにして、凡ての快樂の中に精神に疲勞を感ぜしむる事の最も尠きものなり、彼等は場所を塞ぐこと至りて少く、使用せられざる時は沈默を守る、然れども吾人一度之を手にすれば、彼等は曾て地上に住せし最も勝れたる人を、其最も勝れたる時に於て吾人に紹介するなり」(P69)
⇒サミュエル・パーマーは、イギリス・ロマン主義の風景/肖像画家。アルブレヒト・デューラー作品の研究やウィリアム・ブレークへの傾倒を通して独自の画風を確立。「エインシャツ」(古代人たち)という芸術家グループを結成したことでも知られる。作品に『ショラムの庭で』『夕べの礼拝からの帰り』などがある。
パーマーは語る。
この世には「書籍」というものがある。世に売られているものの中でも、比較的安価なもので、その上、「快楽」をえる手段としては、最も精神的な疲労が少なく済ませられるものである。書籍は「物質」としてあまり場所をとらずに、私たちが使用しないときには沈黙を守る。一方、私たちが一度手にとれば、彼等(書籍)はかつて私たちと同じ地上で生きていた優れた人物たちを、最もエネルギーに溢れていた時代の姿で、私たちに紹介してくれる。
以上で、「在野研究一歩前(52)「読書論の系譜(第三十四回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑮」」を終ります。お読み頂きありがとうございました。