シャルロッテンブルクの街、アッシュの家。 月夜にベッドですやすや眠るのは、エルルとマリオ。 (急にポータルが開いた時には、驚いたけど) タイムばあやも、安心して孫の寝顔を見守る。 アルゴ号が沈む寸前、避難してきたのか? (きみは、だれ?) マリオは、不思議な夢を見ていた。
「ふぉぉぉぉ〜!来る、来たぁ!!」 「エルル、走ったら危ないよ」 いきなり、騒がしい気配。もしやこれは? まさかと思いつつ、曲がり角をのぞきこむパパさん。 ごっちんこ☆ 「ぐわ〜っ!?」 頭に星が回る。目の前に現れたのは、エルルちゃん。 北欧の薄焼きパンをくわえていた。
ロキがオルルーンとエルルを見比べながら、思案する。 「話を聞いた限りだと、流れ星が落ちた後…この子になった?」 「誰かが、彼女みたいな娘を嫁に欲しいとでも思ったのか?」 戦乙女の一人ヘルヴォルが、推測を述べる。 (対象を複製する漂着物…もし巨人に使えば?) 謎は深まる。
朦朧とする意識の中、流星に頭を打たれたオルルーンが身体を起こす。 「大丈夫か?」 一緒に水浴びしていた、仲間の戦乙女も駆け寄って。 「だいじょぶですかぁ?」 おかしいぞ。三人で来たのに、四人目がいる。 「誰だお前は?」 「エルルちゃんはぁ、エルルちゃんですよぉ♪」
ブリテンはムウの遺産を集め、軍事・民間問わず利用する。 この街の至る所で見かける、走る鉄の箱もそう。 新大陸で先住民の聖地から盗まれた「七海の瓶」を悪用し、ブリテン海軍はイスパニア艦隊を壊滅させた。このまま好き勝手させては危険だ。 秘宝の奪還が、ソルフィンからの頼みだった。
リヴァプールで宿を取る一行。 万一に備えクワンダは隣室へ、シャルロッテとエルルは相部屋。 ベッドに寝ると、今日の疲れが一気に。 「エルルしゃん。ヤスケしゃんのことでも考えてまちたか?」 「シャルさぁん、鋭いですねぇ」 ヒノモトで知り合った、元奴隷の青年。今頃どうしてるだろう。
「順を追って話すよ」 「これは、シチリア島に暮らす男女の悲しき物語」 エリックが事情を話そうとすると、マリスが合いの手を。 どこにあったのか、エルルがフラメンコギターで悲しげな旋律を奏でる。 「キミ、ノリがいいね」 「趣味で吟遊詩人ごっこを少々♪」 「しょうがないな…」
いよいよ、お待ちかねのサウナ。火山の如き熱気に、玉の肌を流れる汗。 「エルル、ヒノモトの彼とはどうなの?」 「ヤスケさぁんは、お友達ですよぉ♪」 女三人集まれば、やっぱり話題はコイバナで。 「シャルさぁんとマリカさぁんは、勇者の花嫁の座を争ったんですかぁ?」 「秘密でち!」
「まずは、シチリア島へ向かうでち」 「お酒と合う、レモンの島ですねぇ♪」 物見遊山に留まらず、船にまで乗り込んでるエルル。 「断って密航されるよりは、ね?」 カレの港での出来事を思い出し、顔を見合わせるマリカとシャルロッテ。 「壊血病予防に、酸っぱい果実は欠かせないの」
「ヨミコさぁんの夢ってぇ、ホントは何ですかぁ?」 飲み友として悲しいと、眠り姫エルルが乱入。 「オレも止めさせてもらう。世話になった義理だ」 「ノブナガの飼い犬か」 黒い肌の巨漢ヤスケも、ヨミコと対峙。 「魔王軍に滅ぼされたヨハネスの街を立て直す前に、ひと仕事やるか」
「だいじょ〜ぶ、エルルちゃんが来た!」 不意に、柔らかいものが。 覗き込んでくる、つぶらな瞳。距離が近い。 「お主は!?」 オルルーンに似た、誰か。 でも彼女は、いきなりハグなどしない。 「彼女は、オルルーンに落ちた流れ星の化身なんだ」 ロキの説明に、呆然とするオグマ。
(招かれずにワルハラへ入った私は、不法侵入なのか) パパさんが自問する。では、赤い糸で結ばれたこの子は? そのとき、脳裏にあの演説が浮かぶ。シャルル総帥の。 「生きることは、戦いだ。長き冬を耐え抜いた同胞のために… 私は、ここに宣言する」 一触即発の状況で、彼は何を!?
エルルを心配したロキが、曲がり角を曲がると。 見知らぬ服のおっさんが、彼女の下敷きに。 「これは!?」 数多の魔術に通じるロキには、見えていた。 エルルと彼を結ぶ、絆の糸。 それは、戦乙女が自ら選んだ戦死者との間に結ぶつながりに似て。 「知らないよ、こんな魔術…!」
「私の代わりに、オグマの世話を頼めるか?」 「エルルちゃんにぃ、おまかせですぅ!」 地上に残るオルルーン。 (素性も知れぬ娘に、こんなことを頼むとは。 不思議なものだが…運命に縛られない彼女なら) 「彼女は僕が、ワルハラまで送り届けるよ」 ロキに抱えられ、飛び立つエルル。
年が明けて、エインSAGAの配信も再開。 パパさんが楽しげに、再生をクリックすると。 (あれ、オルルーンに妹いたっけ?) 森の中、三人の戦乙女が困惑した様子でロキと話している。 そして、後ろで見ているエルルちゃん。 間違いない。彼女は夢で見た…! どうして、夢とアニメが。
止まらない終末へのループ、終わりなき戦乱の冬 一筋の流星は、誰の願いを映したか 悪戯の神ロキが盗み出した、世界を滅ぼす巨人の秘密 異世界の勇者たちは、輝ける殿堂に集う 新番組「輝堂勇者エインSAGA」 立ち上がれ、ニホンの勇者! …あれ?
翌朝、リヴァプールの宿。食堂に漂う、スパイスの香り。 「バーラトの香辛料を使った、流行りの煮込み料理でございます」 食欲をそそる、鮮やかな黄色。 「黒胡椒以外にも、色々あるんでちね」 「いいことした後はぁ、食事が美味しいですねぇ!」 女子二人、満面の笑みでカレーを頬張る。
「やっぱり、ヤスケさぁんだ!」 「まさかとは思ったけど」 エルルとヤスケは、ウルルの大岩以来1年ぶりの再会。 「ヒノモト仕込みの銃の腕で、サムライの義侠心でちゅね」 ヒデヨシも奴隷制に怒ってたと、シャルロッテも語る。 「あんたも、魂だけで実体あるのか?」 「修行したでち」
「奴が来たぞ!」 「闇森の黒猿だ」 恐慌に陥るブリテン兵。無闇に発砲するも、何者かの狙撃で次々と倒れてゆく。物陰から様子を見るエルルとシャルロッテ。 「俺たちの英雄だ!」 黒人たちは熱狂し、踊りに似た独特の格闘技で抵抗する。 「ヤスケさぁん!」 思わず、エルルが叫んだ。
「アリさんがぁ! 甘いのないですよぉ?」 押し寄せる兵隊アリに、フライパンで応戦するエルル。 「マリオしゃんには、指一本触れさせないでち!」 シャルロッテも、氷の魔銃でアリを撃退する。 「待って、マリオが…?」 マリカの脳裏に、迸る直感。 「こっちよ!」
今夜はスイートルームに一泊。 三人娘がパジャマパーティで作戦会議。 「ロバニエミの時みたいに、島全体を一つの夢で覆うでち」 「行き先は、ゼンタの夢ね。あたしはマリオのお世話もあるから」 「エルルちゃんも、手伝いますよぉ!」 夢見の宝珠で、真相究明タイムの始まりだ。
「ぎゃ〜すぅ! おば、おばけぇ?」 不気味な軋み音と共に、霧の中から現れた幽霊船。 事情を知らないエルルはおったまげ、笑うシャルロッテ。 「お〜い!」 「おばあちゃん!」 マリスとマリカが手を振り合う。さらに混乱するエルル。 「ウルルの大岩でのことは、ボクも夢で見たよ」
「この子はマリオ。目元がアッシュ似でしょ?」 「可愛いですねぇ♪」 一行は親子の新居へ。赤子がエルルに手を伸ばす。 「でもぉ、冒険には連れてけませんよねぇ?」 「大丈夫。あたしの母さんも、船の上で育ったから」 この親にして、この子あり。 「クワンダさん、いいですか?」
馬車の上で雑談が始まった。 「君のように素敵な女性を妻にしたいが、自由な渡り鳥を縛りたくない」 ホランド王に言われたと、胸を張るシャルロッテ。 「シャルさぁん、やるぅ♪」 「社交辞令だろうな」 そこでエルルが思い出す。 「ソルフィンさぁんとはぁ、その後どうですかぁ?」
広大な緑地に大テント。楽団の演奏に、乾杯の声。 エウロパ中央の都市バイエルは、今年も秋のビール祭りで賑わう。 幻の銘酒、酒蔵ヘイズルーン。 テントの下で忙しく応対する金髪娘の青い瞳に映る、見覚えある姿。 「シャルロッテさぁん?」 「エルルしゃん!」 1年ぶりの再会だった。
手を振るソルフィンのバイキング船が、みるみる小さくなる中。一緒に来ていたエルルがシャルロッテに耳打ち。クワンダが不思議そうに見る。 「シャルロッテちゃんの新しい恋、応援してますよぉ♪」 ソルフィンへの恋心を自覚した少女は、顔を赤くしつつも拳を握る。 今度こそは、いい男ゲット。
同じ頃、ロバニエミ村の酒蔵で目を覚ますエルル。 「ふぁ…よく寝ましたぁ」 どれだけの間、寝てたのやら。 しばらくぼんやりしていたが、急に用を思い出す。 「ああっ、バイエルのお祭りに出すエールはぁ!?」 ヒノモトの米酒も素晴らしいと思いつつ、街の様子を見て回った。
「エルル。世話になったが、俺は故郷へ帰る」 「ヤスケさぁん?」 城下町の屋敷で、酒蔵の娘と黒い肌の巨漢が話している。 「復活したヨミコがノブナガ様から魔王の座を奪って以来、ヒノモトは…」 ヒデヨシと大陸へ渡るが、それが最後の奉公。 かつて魔王に仕えた男は、寂しげに呟いた。
「ヨミコさぁん、ナイス飲みっぷりぃ!」 酒蔵の娘がお酌する酒を、ぐびぐび飲み干すヨミコ。なぜか仲良し。 しばし後、気が晴れたのか。またなと言われて娘は退出。 「さっきの子ね」 「魂だけで実体があるじゃと?」 霊体で偵察中のマリカとおばば。天守閣での会話も、全て聞いていた。
酒蔵の娘から膨大な夢のチカラが漏れ、渦巻く二つのポータルを形作る。 「すごい…この子」 中に見えるはロバニエミ近郊の森、もう片方はヒノモトのお城か。 「民家のベッドを借りて、魂だけで行くのが無難ね」 マリカの助言で、夢渡りを試みる一行。 「シャルロッテ! 勝手に行くな」
「途方もない、夢のチカラが渦巻いてるな」 「酒蔵はもっとヤバい。危険だから近寄ってないが」 暴走する夢は、村周辺を現実から切り離したのか。 「手伝いに来たわ」 夢渡りでリモート参加のマリカも加わり、一行が酒蔵で見たのは。 「んんぅ…ヒノモトぉ…おしゃけぇ…」