僕が千年生きるのを条件に妻の寿命を神様に伸ばしてもらった。 そして、妻は80歳で亡くなり、僕は一人になった。 最初妻の温もりを忘れた。 次に声を忘れた。 その次に頭の中の妻が写真の様に動かなくなった。 そして、今日僕は千歳になって妻に会いにいく。 今からまた僕は妻に恋をする。
クロノスタシスってあると思うんだ。 その日、僕は3秒が3000文字になる程の一目惚れをした。 朝日に照らされる洗面台。 寄り添う2本の歯ブラシ。 君は未来をも見せてくれた。 そして、僕らは明日夫婦になる。 彼女から奥さんになる前に3000文字の一目惚れを君に読んでほしい。
「泣いてるの?」 「泣いてない。さっきまでは泣いてたけど」 そう言って少女は、彼の後頭部に手を当てる。 「血が出てる。痛くないの?」 「痛くない」 少女はその頭を抱き抱える。 一人で頑張っている君の頭を撫でたかった。抱きしめたかった。 思いが、最後、彼に届きますように。
通勤電車で「このままどこか遠くへ行きたい」と思うことは誰にでもあるだろう。 今日、私はそれを実行する。 どこか適当な駅で電車を降り、駅前の不動産屋で安いアパートを借りる。近所で当面のアルバイトを探し、喫茶店で職場宛の退職届を書いて、ポストに投函する。これで終りだ。 今までの私は。
「いつか小説家になって、綺麗な家に住ませるからな」 彼は私を連れやって来た公園で、キラキラした高級マンションを見上げ夢を語った。 10年後。 私は彼を連れその公園にやって来た。 「ごめんな」彼は俯いていた。 「ねぇ。もっと貴方の世界を教えて」 ずっと昔から私の夢は叶っていた。
『車両ナンバー』 希望ナンバーが出てからどのくらい経つのかしら? エンジェルナンバー見つけると嬉しい エンジェルナンバーは意図してやってるのかな? よく見るのは「385」とか「1717」「8008」 でもいちばんいいのはね、 数字を全部足して「16」になるやつなんだってさ
「がんばろう」と、声をかけられるのも、励まされるのも、自分を気にかけてくれているようで、嬉しい。 でも、自分、今まで結構がんばってきたと思うんだよね。 いつまで、がんばればいいんだろう? それよりは、この頑張りを認めてくれない? 結局、どこまで行っても、自分は一人。
君は白球を追いかけた。 「野球じゃなくて、サッカーなんだけど」 「ボールは白い面が多いし、遠くから見たら白球でしょ?」 延長の末、2対1で試合に勝利した。 「シュートは1回も打ってないけど」 「センターバック!俺、守り!」 「良かったね」 「明日も早起き、弁当よろしく!」
タバコの煙に自分の魂を少しだけ乗せ、今日、何処かで登る命にそっと寄り添って欲しいと願う。 白煙は濃度を失うと空気に溶け込み、知らない誰かの見えない実態と僕の一片が何処かで混ざり絡まり消えている。 最後は1人。絶対1人。 自然の摂理に反抗した僕の思想と行動。 僕が禁煙できない理由。
同窓会で20年ぶりにアメリカ国籍の親友に出会った。 昔と変わらない彼と僕はすぐに笑顔を交わし、時間を埋めた。 その時、ドンと花火が上がって綺麗だった。 でも、彼は机の下に縮こまり震えていた。 彼は軍人だった。 平和が当たり前の僕とそうじゃない彼とでは見てる世界が変わっていた。
僕が何で秋が好きか知ってる? うーん。分かんない。 あっ!焼き芋がおいしいから? 違うよ! じゃー、秋刀魚がおいしいから? それも違う!てか食べ物ばかりじゃん! じゃー何!ヒント! 君の名前が春だったら、春が好きで、夏だったら夏が好き。雪だったら冬が好きかな。 それ答えじゃん。
夢を叶えバリスタになった彼。 色んなブレンドでコーヒーを淹れてくれ、美味しいだろ?っとコーヒーを私に何杯も飲ませてくれた。 コーヒーが好きになった。 でも、彼は話をしながらコクリコクリと眠そうにしている。 カフェインで目が覚めた私はもっと話がしたいのにっと少し拗ねた同棲の初夜。
日の当たる土手を歩いていたら急に「そうか、私は一生、このままで生きていくんだ」という実感が降ってきた。涙が出そうだった。 それはこの状況が辛いとか悲しいとかよりも、今の自分を受入れたという安堵のような気がした。 道端で泣くわけにもいかないので堪えたら、鼻水がたくさん出てしまった。
足早に行くビジネスマンの重い鞄が、追抜きざまに腰にぶつかった。男はこちらを振り返るが、視線は着古したセーターの私を透過する。 だらしない格好で街を歩くのは道端に残されて風に転がる空缶のような気分だ。 強い北風が吹いて道行く人が皆、肩を竦める。私も、同じ寒さに肩を竦めている。
毎朝の冷え込みがつらくなってきた頃、窓のそばでヒヨドリがキーキーと騒ぐようになった。 何をそんなに必死で鳴いているの? 耳を澄ますと、遠くからこだまのように他のヒヨドリが応えているのが聞こえる。 なんだ、仲間がいるんじゃないの。 なぜかつまらない気分になって、毛布をかぶり直した。
『パッシング』 今でこそ道を譲る時にちゃかっと 出来るようにはなったけどね 運転するようになって15年くらいは やり方さえ知らなかった そもそも教習所で教えるの? 最初はさ、やってみたくて、 普通にライトつけてたからモタモタしちゃってね かっこ悪いやら、運転に支障が出るやら
失恋砂浜に落ちている貝殻を持ち耳を当てる。 「絶対幸せになってね」 誰かの別れの言葉が風の音に混じり切なく聞こえる。 僕は何も聞こえない貝殻を探すと最後の想いを込め、波打ち際に置いた。 この貝殻が砂浜の一部になる頃、僕は、未来を歩けていますか?そして、誰かの心を癒せてますか?
『律儀』 片側三車線の、割と広い国道で 先頭で止まっていた時のこと 左手の料理屋から人が飛び出し 目の前を勢いよく横切っていく 何事かと眺めていたら、 反対側の自動販売機のゴミ箱に缶を捨てていた そして再び横断歩道を走り抜け 料理屋に戻って行った ちょっとした寸劇みたい
心がスッキリしない時は、空を眺める事にしてる。 「今日は、どんよりとした曇り空だけど、意味ある?」 「……少なくとも、広いなとは思う」 「確かに?」 「だから、こんな小さな事で悩んでても仕方ないなって」 「自分を無理矢理納得させてるだけじゃ」 「ほら、あそこだけ青空」