音楽ニュース:セクハラ事件の続き、オーストリアのクラシック音楽界におけるセクハラ疑惑、グスタフ・クーンの場合
昨日、プラシド・ドミンゴのセクハラ事件につき触れましたが、MeToo運動の高まりで、様々な分野におけるセクハラ事件が明るみに出ています。
近年、オーストリアのクラシック音楽界で最も大きなスキャンダルとなっているのは、グスタフ・クーン (Gustav Kuhn) のセクハラ事件とウィーン国立バレエ学校の児童虐待事件でしょう。
ここではグスタフ・クーン事件を簡単にまとめたいと思います。
グスタフ・クーンは1945年8月28日、オーストリアのシュタイヤ―マルク生まれ、ザルツブルク育ちの指揮者・演出家です。作曲と執筆も行っています。ウィーンとザルツブルクでヴァイオリンとピアノを学びました。
ザルツブルク大学では博士号も取得しています。
その経歴は華々しく、24歳でオーストリア放送国際指揮者コンクールで優勝後、オーストリア、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ各国で重要なポストに就任、ウィーン国立オペラ、ロンドン・コヴェントガーデン、バイエルン州立オペラ(ミュンヘン)、ザクセン州立オペラ(ドレスデン・ゼンパー・オペラ)でのオペラ指揮、ウィーン・フィルやベルリン・フィルを客演指揮しました。ヘルベルト・フォン・カラヤンにもその才能を認められています。
日本ではN響にも客演、また1993年サントリー・ホールでのホール・オペラにも大きく関わっています。
教育機関や新しいオーケストラも創立、その活動と貢献の広さは枚挙に暇がありません。
最も注目を集めたのは『エルル・チロル・フェスティヴァル』の創設です(1997年)。
https://www.tiroler-festspiele.at/
クーンはヨーロッパ最大の建築会社のひとつ、シュトラーバーク(STRABAG、本社ウィーン)の援助を受けて、このフェスティヴァルを創設しました。
シュトラーバークの代表、ハンス・ペーター・ハーゼルシュタイナー(Hans Peter Haselsteiner)は政治家でもあり、このフェスティヴァルの理事長を務め、フェスティヴァルのために劇場と関連施設を建設しました。
下がFestspielhaus (メイン劇場)です。
Foto: ©Kishi
下はPassionsspielhaus
Foto:©Kishi
クーンはここでワーグナーの10のオペラを演出・指揮するなど大きな注目を集めていました。
ところが2018年、チロルのジャーナリスト、マルクス・ヴィルヘルムがエルル・チロル・フェスティヴァルの劣悪な労働条件、クーンの態度(セクハラなど)と博士論文の盗用疑惑を発表しました。
クーンはハーゼルシュタイナーの援助を受け、このスキャンダルに対し、法的手段をとりましたが、まだ決着はついていません。
なかでもセクハラ疑惑については、2018年7月、エルル関連の5人の女性アーティストが公開書状を発表しています。
これを受けて、2018年秋、クーンはエルル関係のすべての職を辞しました(僧院に入るという話もありました)。
2018年10月、責任者不在となったエルル・チロル・フェスティヴァルの新責任者にベルント・レーベ(Bernd Loebe)が2019年9月1日付で就任することが発表されました。
レーベは現フランクフルト・オペラ支配人です。
昨年夏、このエルル・チロル・フェスティヴァルでのオペラ《鳥》(ブラウンフェルツ作曲)のプレミエに出かけました。その時の様子はあらためて書きたいと思います。