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「ここからは、俺が聞き込みで集めた噂だ」 その後のシチリアについて、クワンダが話す。 「エリックの死を聞かされたゼンタは後を追い海に身投げ、娘を失ったルチアノは精神を病んで引退、レオネが今のボスらしい」 島の連中は皆、油断ならない。 「隙を見せれば、寝込みを襲われるぞ」

長靴半島の危機が去った後。 戦力不足を感じたシャルロッテは、1年の間にどこかで銃を入手し、訓練していたらしい。大気中の水分を雹弾に変え、撃ち出す魔銃。おそらくは、ムウの遺産。 出所は明らかでないが、アッシュがアンロックした「勇者の武器庫」から護身用に贈られたのかもしれない。

周囲の景色が変わる。コルシカ島から出る船の上で、振り返る少年。 士官学校に入学した彼は、戦場で華々しく出世していく。 「あれは、別の人生を歩んだあなたです」 「オレがか?」 驚くレオネに、警告するクワンダ。 「エウロパは、もう平和だ。これ以上の戦争は」 「必要ないでち!」

「ボスのおかげで農園経営は軌道に乗り、島民の暮らしは良くなった」 すると、地中海に浮かぶ近くの島からシチリアでの生活を羨む者が集まる。 「ガラの悪い連中も多かった。移民のレオネは瞬く間に頭角を現し、組織のナンバー2になり、俺に濡れ衣を着せやがった。ゼンタに言い寄るためにな」

「順を追って話すよ」 「これは、シチリア島に暮らす男女の悲しき物語」 エリックが事情を話そうとすると、マリスが合いの手を。 どこにあったのか、エルルがフラメンコギターで悲しげな旋律を奏でる。 「キミ、ノリがいいね」 「趣味で吟遊詩人ごっこを少々♪」 「しょうがないな…」

「葡萄の島に着いたソルフィンしゃんたちは、拠点作りを始めたでち」 夜、その拠点へ忍び寄る人影。槍と弓で武装した先住民だ。 「こらぁ、何するでちかぁ!」 ちょうど夢渡りで来てた霊体のシャルロッテが、お化けに扮し追い払う。 「助かったよ」 「ちょっと、様子を見てくるでち」

「アッシュ、これは何なの?」 「ビリヤードですね。チェスのように戦略が問われます」 見守るマリカは、赤子のマリオを抱いていた。敵地で大した度胸だ。 (長靴半島の人はみんな、家族を大事にするわ。それにどんな悪党でも、赤ちゃんを見れば和むでしょう) 周囲の反応は、狙い通り。

「ようこそ、シチリアへ」 組織の者が迎えに来た。 「積み込み作業の間、ささやかな宴を用意させて頂きました」 「ご苦労でちゅ」 島内を案内される一行。名目上は、お得意様の接待。だが値踏みされているのは間違いなく。警護のクワンダは意図的にいかつい演技で、周囲に目を光らせた。

「まずは、シチリア島へ向かうでち」 「お酒と合う、レモンの島ですねぇ♪」 物見遊山に留まらず、船にまで乗り込んでるエルル。 「断って密航されるよりは、ね?」 カレの港での出来事を思い出し、顔を見合わせるマリカとシャルロッテ。 「壊血病予防に、酸っぱい果実は欠かせないの」

いよいよ、お待ちかねのサウナ。火山の如き熱気に、玉の肌を流れる汗。 「エルル、ヒノモトの彼とはどうなの?」 「ヤスケさぁんは、お友達ですよぉ♪」 女三人集まれば、やっぱり話題はコイバナで。 「シャルさぁんとマリカさぁんは、勇者の花嫁の座を争ったんですかぁ?」 「秘密でち!」

「孤児の俺は、ある人に拾われシチリアへ渡った。レモン農家の手伝いさ」 「噂では、固い結束と血の掟で知られる互助組織があると聞いた」 島へ渡る際、警護の必要性からクワンダも下調べをしたらしい。 「ボスの娘、ゼンタは外から来た俺を珍しがり、すぐに仲良くなったよ」

そして、夜が開けた。 レオネは遺体で発見された。災いの種に呑まれた者の末路。 手下の何名かは、館から逃げていた。 「ボス!」 「しばらくは、現役復帰せねばならんな」 ルチアノは元気を取り戻し、一家にこう語った。 「夢から覚める間際、私は抱き合うエリックとゼンタを見たよ」

「見えた!」 青い光が一閃。アッシュの草薙の剣が、レオネの核を両断。 「バカな!?」 クワンダの槍も、道化人形の核を貫く。 「やったでちか?」 シャルロッテたちも合流。 「オレは…皇帝…」 「哀れだな」 エリックが対峙する中、仰向けに倒れるレオネ。 野望の終わりだ。

「アリさんがぁ! 甘いのないですよぉ?」 押し寄せる兵隊アリに、フライパンで応戦するエルル。 「マリオしゃんには、指一本触れさせないでち!」 シャルロッテも、氷の魔銃でアリを撃退する。 「待って、マリオが…?」 マリカの脳裏に、迸る直感。 「こっちよ!」

魔物化したレオネは、アリの兵隊を率いて悪夢を操る。 すると景色が不気味な森に。高さはそれほどない。 「これは!」 「シャルロッテ! 無事か?」 アッシュとクワンダを残し、分断される一行。 エリックも単独で森を彷徨っていると。 「こいつはコルシカの灌木林、マキだ」 「ボス!」

「レオネ! 悪魔に魂を売ったか」 「あの怪物は!?」 動揺するエリック。勇者アッシュも、ただならぬ気配を感じて。 「アッシュ、奴には核がある。ピサロやヨミコも同じだ」 突然、解説を始めるクワンダ。 「なぜそれを?」 「俺たちの専門だからだ。災いの種を絶たぬ限り、奴は蘇る」

「当代のカルカス領主、ジョセフィーヌは賢君ですが」 足りないものがある、と道化の語り。 「彼のようにギラギラした野心こそ、歴史を動かす!」 ライオンの頭に王冠、しかし身体はアリ。 「アントライオンか」 あきれるクワンダ。その姿は、皮肉にもレオネの本質を表していた。

「いい加減にしろ、そこの道化」 闇の中、憤怒の形相で立ちはだかるのはエリック。 「ゼンタを苦しめてるのはお前か。落とし前を付ける」 銃声一閃。だが道化の前には、鉛玉を手で止めたレオネ。 「ダメだなエリック、お前は海に沈んでなきゃなあ!」 怪物に変わる、レオネの身体。

「失礼、私は王に仕える道化」 暗闇の舞台にスポットライト。現れたのは、細い手足の奇怪な操り人形。 「またでちか!」 以前シャルロッテの過去の夢に乱入してきた、宿敵ガーデナーの道化人形。 「皇帝レオネ。あなたはマフィアのボスで終わる人ではありません」 「惑わされるな!」

「何だ、この夢は!」 狼狽えるレオネ。生きてたエリックとゼンタ、繰り返し暴かれる悪事。 「お前の企みを見抜けぬとは、私も老いぼれたな」 精神を病んでいた先代ボス、ルチアノまでがレオネをにらむ。 「残念でしたねぇ、あなたはこの世界の『ナポレオン』になれなかった」 「誰だ!」

「ふぇぇぇ!!」 マリオが泣いた。赤子の彼も、この夢を共有している。 「やっぱり、タイムしゃんに預けて」 「いいえ。マリオは、あたしとアッシュの子だから」 悪夢との戦いは、避け得ぬ宿命。だから、今のうちから慣れさせる。 「なら、みんなで守りましょお!」 「そうでちね!」

「ああ、エリック!」 うつろな瞳。悪夢にうなされるうわ言。 「ゼンタ! 俺だ、エリックだ!!」 同時刻、ダッチマン号からエリックも夢渡りでゼンタの夢に入ったが。 愛しい人には、届かぬ声。 「まるで、悪夢の牢獄ね」 解呪の専門家ベナンダンティのマリカが見ても、病状は深刻。

その夜、シチリアはオーロラに包まれた。 夢見の宝珠が、島にいる者全員にゼンタの見る夢を共有させた。 彼女は泣いていた。 意識は闇に閉ざされ、愛する人の温もりを求め、歌声は呪いと化す。 「この感じは…」 アッシュは、ピラミッドで悪夢の呪いを受けた時を思い出していた。

今夜はスイートルームに一泊。 三人娘がパジャマパーティで作戦会議。 「ロバニエミの時みたいに、島全体を一つの夢で覆うでち」 「行き先は、ゼンタの夢ね。あたしはマリオのお世話もあるから」 「エルルちゃんも、手伝いますよぉ!」 夢見の宝珠で、真相究明タイムの始まりだ。

シャルロッテたちは迎賓館へ。 宴で出されたのは、レモンの薄切りを添えた海の幸のカルパッチョやサングリア、レモンクリームのパスタ、レモネードと地中海料理の数々。 「レモン尽くしですねぇ♪」 (あれが長靴半島を救った勇者一行か…) レオネの知る情報には、かなり尾鰭が付いていた。

シラクサに入港するアルゴ号。 バーラト行きに備え大量のレモンを積み込む名目で、支払いは済んでいる。 「ふふ、みんな驚いてまちゅね」 甲板上に樹木が生えた船など、前代未聞だ。島の者が驚くのも当然だろう。 「あの木にレモンの枝を挿し木したら、いつでも取り放題か?」

「死んだはずのゼンタしゃんが人魚って、ど〜ゆ〜ことでちか?」 「その件は、ボクが話すよ」 シャルロッテの疑問に、海賊少女マリスが答える。 「人魚たちの多くは、事情があって陸を捨てた元人間でね」 ゼンタは先輩の人魚から術を教わり、姿を変えて恋人を探し続けてる…?

エリックは、コルシカから送り込まれたスパイだったと。 組織の構成員たちが口々に噂する。 「追放された俺は、縛られて船で沖へ沈められたよ」 捨てる神あれば、拾う神あり。 海中から現れたダッチマン号が、彼を救う。 「ボクも、同じように助けられたんだ」 海賊少女マリスが語った。

エリックは語る。 「シチリアは歴史的に、中央の権力が及ばない島だ」 故に無法者の巣窟で、航海に不可欠なレモンは何度も盗難の被害にあった。 農民たちは貧しく、生活は苦しかった。 「そんなとき、村人をまとめあげレモン泥棒に対抗できる組織を作ったのが村長ルチアノ。俺の恩人さ」

【告知】#ドラクエ3 HD-2D版の発売日まで、1ヶ月を切りました。同作の発表に触発されて書き始めた「大航海ファンタジー」の物語。11/14までの完結は無理でしたが、後編は「広げた風呂敷を畳む」段階に入ってるので淡々と進めていけそうです。 赤子を抱く海賊少女マリス。後半の伏線?

「改めて、マリカさんには大変お世話になってます」 「まさか、ひ孫を抱けるなんてね」 嫁の祖母である少女海賊にあいさつするアッシュと、赤子のマリオを抱いて感動するマリス。そこへ、操舵士のエリックも来て。 「よく来てくれたね。海峡の封鎖を解くのに、夢見の宝珠が必要なんだ」

「ぎゃ〜すぅ! おば、おばけぇ?」 不気味な軋み音と共に、霧の中から現れた幽霊船。 事情を知らないエルルはおったまげ、笑うシャルロッテ。 「お〜い!」 「おばあちゃん!」 マリスとマリカが手を振り合う。さらに混乱するエルル。 「ウルルの大岩でのことは、ボクも夢で見たよ」

「あれがシラクサ。古の帝国の時代から栄えた港町と聞きます」 地中海を滑るように進む船。アッシュが対岸を指差す。 しかし船は交易船のルートを外れ、おまけに濃い霧まで出始めた。 「あ、あれぇ!?」 驚くエルル。 「大丈夫、ぜんぶ予定通りでち」 「ここで待ち合わせするの」

翌日、街で盛大なお祭りが催された。外洋航海船の進水式だ。 マリカが呪文で修復した際に生えた木は、そのまま活用。 「後は、お主ら次第じゃ」 大役を終えたアントニオと職人たちに見送られ、出港する船。 「この子はぁ、何て言うんですかぁ?」 「アルゴ号よ。神話に出てくる、勇者の船」

巨大浴場の維持と運営は、この街に多大な雇用を生む。 元盗賊から更生したおばばとゲニンは、はぐれ者たちの希望だ。 「二人は、勇者にもできない偉業を達成したと思います」 ロビーの賑わいを目にし、感慨深げにつぶやくアッシュ。 「ではみなさん、また後で」 男性陣は、男湯へ。

大浴場の入口広場には、よく手入れされたチューリップの庭園が。 手入れしているのは、おばばとゲニン。 「あ、ゆるしてくれの人ぉ!」 「眠り姫の嬢ちゃんか」 一応、夢の中で面識はあったエルルとゲニン。 「どうだい、この花は二人で咲かせたんだよ」 「おばばさぁん、素敵ですぅ♪」

一通り汗をかいたところで、アッシュの母タイムが様子を見に来た。 「マリオは私が見ていますから、みなさんでテルマエに行かれては?」 「街の名所でちゅよ!」 古の皇帝が築かせた大浴場の再現と、観光客の誘致が当初の計画だ。 「北欧式のサウナもあるわよ」 「ホントですかぁ!?」

帰ってきたクワンダに、中庭で手合わせを申し込むアッシュ。 「僕が、シモンさんを解放してあげなくては」 火山の噴火を止める時、火口で会った骸骨の剣士。張り詰めた勇者の剣を、冷静に受け流す歴戦の傭兵。 「お前には、重荷を分かつ仲間がいる。忘れるなよ」 仲間あっての勇者だ。

「この子はマリオ。目元がアッシュ似でしょ?」 「可愛いですねぇ♪」 一行は親子の新居へ。赤子がエルルに手を伸ばす。 「でもぉ、冒険には連れてけませんよねぇ?」 「大丈夫。あたしの母さんも、船の上で育ったから」 この親にして、この子あり。 「クワンダさん、いいですか?」

かつて、古の帝都の一部だったカラカラ遺跡。 帝国の崩壊以降、無人の廃墟だったが…今や、昔の繁栄を取り戻した。 復興会議の成果だ。 「シャル! お帰りなさい」 道端で聞こえたのは、マリカの声。 「マリカさぁん、お久しぶりぃ♪」 振り返ったエルルが、驚きのあまり固まった。

140字の文章が、なぜ本格RPGなのか? 選択肢を選ぶのではなく、つくる。 物語を見るのではなく、表現する。 他人任せではない、自分の手で。 RPGは、創作そのものだ。 想像力で、プログラムの呪縛を打ち破ろう。 最も手軽な本格RPG、それが140字RPG。

「奴らは夢見の宝珠を恐れ、現実の世界で俺達を亡き者にせんとした」 「大変だったんですねぇ」 長靴半島を襲った、魔王軍の脅威。話を聞くエルル。 「大砲の弾が飛んできたとき、シャルロッテちゃんがみんなの願いを束ねて街を守ったんでちゅよ!」 その結果、発展した街が見えてきた。

馬車の旅は、峠越えの道を行く。日も暮れてきた。 「キャンプしましょお!」 クワンダも手伝い山の石を組み、手際良く即席のかまどを。 エルルとシャルロッテは堅パンとスープを煮込み、仕上げは。 「おいしいでち!」 「揚げ玉ねぎがあればぁ、獅子にもなれるぅ!」 楽しい高原の夜。

先住民の集落から、シャルロッテの霊体が帰ってくる。 「ソルフィンしゃんたち、ブリテンの仲間と思われてるみたいでちゅ」 以前、彼らは先住民の聖地であるムウの遺跡に入り、秘宝を盗んだ。 ムウの遺産、七海の瓶。 「もう夜明けでちね」 「貴重な時間をすまない。埋め合わせはするよ」

最も手軽な本格RPG。それが140字RPG。 ワンシーンが140字小説のスタイルで、AI生成の挿絵をつける。 俳句の如く絞り込んだ表現で、あなたのキャラクターの人生を描こう。 大作よりも、ファストカジュアルなRPGを。

おて商126〜130話/「1年後」編