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【秘密基地】緑のフェンスに破れた画伯ちゃん!【前編】

2020年夏。
何のアバンチュールも起きなかった。

この1ヶ月間はバンド練習も無かったため、ほとんど外出することさえなかった。

ずっとクーラー。
ずっとオートミール。

妙に冷えた身体に
溜まっていく欲望。


何かをはみ出させるしかなかった。
ダイエットをストイックに続けられなかった。

2年間のダイエットの果ては
ポテトチップスとホイップクリームに埋もれる日々。

2020年の夏は
ポテトチップス!ホイップクリーム!ダイエットコーラ!


40kg痩せた姿を保ちたくて、半年前から途切れていた筋トレを本格的にやり直し始めた。

どうか体重よ、保っていてくれ。
どうか脂肪よ、筋肉と割合を変わってくれ。

長編まとめマガジン↓↓↓


秘密基地を作っていた小学生時代

"みなさんは秘密基地を作ったことがあるだろうか?"

1994夏。

近所に広大な『空き地』があった。
小学校のグラウンドより広いくらいの。

画伯ちゃんの小学生時代の夏は、ずっとそこの空き地。
朝から日が暮れるまで、そこで過ごしていた。

バッタを取ったり、ツチノコみたいなものを見かけたり、イタチが誰よりも早く通り過ぎたり。


俺は、1人じゃなかった。
仲間がいた。

お兄ちゃん的な存在の、2個上の人や
弟的な存在の、4個下の子。

近所に住むその2人とともに、空き地で過ごしていた。
汗や、言葉や、太陽を交わしながら。

そしてその夏、俺たちは計画を練っていた。

計画実行日。

空き地を囲む"緑のフェンス"を乗り越え、スコップやブルーシートを持ち込んで入っていく。

穴を掘って、ブルーシートを敷いて、寝っ転がってみる。

「もう少し深い方がいいよなぁ」

「そうやなぁ」

数時間後。

『もうすぐ日が暮れる。続きは明日にしよう』

そんなことを言いながら、片付けて退散。

作業終わりには、ちゃんと穴の上にブルーシートを被せていた。
雨が降っても大丈夫なように。

わかっていない。学業も、友達の作り方も、人生も、社会も、自分のことすらも。
何もわかっていないまま、目の前の時間だけを過ごしていた。

"俺"って何なんだろう?


数日…
いや、おそらく2週間ほどで

"俺たちの秘密基地"

は完成した。

なんの考えもない画伯ちゃん。

みんながしたいようにやっているのを見守りつつ、"自分の意識"を持たずに手伝っていた。

それでも完成したものを見たら
"うおおおお"って思えたね。

初めて自分で、自分のことを認識できた日だったのかもしれない。

広大な敷地の空き地に、
縦横2メートル、深さも2メートルほどの秘密基地ができあがった。


何もわかっていない、生きていることすらわかっていない画伯ちゃんにとって、目で捉えることのできる

"初めて自分の生み出したもの"だった。

数年前から再開発が始まり、空き地は無くなってしまった。悲しい。
全部一軒家に変わってしまった。時は過ぎていく。


緑のフェンス

他のみんなは出来上がったことで満足したのか、あまり秘密基地に近づかなくなっていった。

1人で行動するのが苦手な画伯ちゃんにとって、秘密基地には強い思い入れができていたんだろうな。

夕方の時間は、よくそこで過ごしていた。

枯れ草を敷き詰めて、フカフカのベッドを作って寝っ転がる。
そばにはコミックボンボン炭酸ジュース


夜でもないのに見えている月を見たり、
少しずつ夜になるのをボーッと見つめていたり。

完全な夜を待ってからの星空を見たい気持ちを抑えて、
ちゃんと家に帰る真面目さも持っていたり。

おばけが怖いだけ。


1人で行くのにも慣れてきたころ、緑のフェンスに異変があった。
足をかけるための穴が、ワイヤー(針金?)で塞がれている。

自然に開いていたのか、過去に誰かが開けたのか、ちょうどいい位置に穴が開いていた。
そもそも画伯ちゃんはフェンスを乗り越えることが苦手だったので、大きく破れたような地面スレスレにできていた穴をくぐり抜けることが多かった。

そこを塞がれ、目線あたりにある足をかけるこの穴も塞がれていた状態。


「どないしよ...登んの怖いな...」

緑のフェンスに独り言を呟く。
音はフェンスに当たって耳に返ってくる。

(やっぱり怖いよね...)

でも年下の子も登ってたし。あいつ5歳とかやしなぁ。
さすがに大丈夫か。画伯ちゃんでもできるか。

緑のフェンスのてっぺんを睨みつけた。

2~3メートルある姿。
画伯ちゃんは右手の人差し指を突きつけた。

「登ったんでぇ!覚悟せぇよ!」

フェンスに右手を添える。
そしてはっきりと掴む。

ガシガシと前後に揺らして確認する。

「どや!負けそうな気してビビっとるやろ!」

揺れが落ち着いたのを見計らうと一気に仕掛けた。
使ったことのない筋肉が強ばる。

右手、左足。
左手、右足。

上へ上へ。

てっぺんが画伯ちゃんを見てる。
画伯ちゃんもてっぺんを見てる。

(やったんねん!!!俺はやったんねんでぇ!!!!)

疲れ始めた腕。
100メートル走すら完走できない身体。
自分がなんなのかわからないという自問。

セミの抜け殻のような体勢で止まった画伯ちゃん。

あと、もうちょっと...

というところで

足が滑った。


ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!!!!!!!

ガシャン、グゥンッ

ダンッ


頭を打ち付けた。
手のひらは擦りむけて血まみれ。

アスファルトに赤が染みていく。
全身土砂だらけ。

緑のフェンスは嘲笑うかのように、まだ揺れていた。
そして誰よりも早くイタチが通り過ぎていった。


この日から脳の感触が変わった。

何もわからなかったはずなのに、全てがわかり始めるようになった。
そして見えなかったものが見え、聞こえなかった音が聞こえ出す。

緑のフェンスは俺に狂気を与えた。

この10年後。

2004年夏。
画伯ちゃんは新たな秘密基地を手に入れることになった。

そこで、狂気を手に入れた『1994年の夏』を思い出したんだ。
あの匂いを、あの味を、あの見えないイタチのスピードを。


新しい狂気に触れたことによって、
鮮明に思い出したんだ...


つづく

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