2021年12月の記事一覧
ハードボイルド書店員日記【68】
「あ、やっと入ってきた!」
午後2時10分の仕入れ室。入荷したばかりの新刊のダンボールを開ける。中を見た文芸書担当の女性が嬉しそうに単行本を手に取る。丸顔でミディアムボブ。TVで見た某カリスマ書店員と雰囲気が似ている。明らかに真似だ。もちろんこっちが。
「先輩、こういうの読みます?」「いや」同じ帯の巻かれた文芸書が新刊台の好ポジションにまとまっていた。某インフルエンサーのオススメらしい。エンタ
ハードボイルド書店員日記【67】
「納得できません!」
彼は珍しく声を張り上げた。開店前とはいえ仕事中。仕入れ室の中だから一定の配慮はされている。事務所は目と鼻の先だ。
「どう考えてもおかしいです。だってぼくの方があの人より15分は早く出社しているし、たくさんの荷物を開けています。早く終わらせて自分の仕事をしたいから。あの人がひとつ開ける間に三つは開けています。ダンボールもひとりで片づけています」朝礼が終わり、諸々の準備がひと
ハードボイルド書店員日記【66】
午前11時半。雨の日の仕入れ室。
壁際に山と積まれ、いまにも崩れそうなダンボールのいちばん上へ手を掛ける。某版元からの直送だ。中身の大半は児童書だろう。稼ぎ時なのはわかるが過剰だ。営業マンが棚を見ずに注文書を作るとこうなる。
「すいません、ちょっといいですか?」
顔を上げる。小柄で髪の長い黒縁眼鏡。文庫担当の女性だ。少し前にバイトから契約社員へ昇格した。「どうしたの?」「年末からお正月って入
ハードボイルド書店員日記【65】
昼休み。テナント従業員用の休憩室で食事を済ませ、本を読む。12時を過ぎると席が埋まってきた。誰かがテレビをつける。相変わらず恐怖を煽るニュースばかりだ。スマートフォンにイヤーポッズを差し込み、音楽プレイリストを呼び出す。
「すいません、いいですか?」左隣に契約社員の女性が来た。基本的にここでは同僚から離れて座る。相手が異性ならなおさらだ。でも他が空いていないなら仕方ない。「いいよ」「ありがとうご