ユウ タナカ

ご連絡先 : yuu.tanaka007@gmail.com

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最近の記事

短編文学的エッセイ 【PSPと、時を経た僕】

PSPを買うなんて、少し前の自分には想像もできなかった。大人になってからは、ゲームに対する情熱も次第に薄れていくものだと思っていた。だけど、ある日、何かが突然動き始めた。衝動的にPSPを手に入れた。Amazonで注文をクリックする時、ふと僕は、昔の自分に戻っていたような気がした。懐かしさと、手に届く範囲にあるものへの欲望。それが入り交じり、僕はこの一瞬の決断をした。 PSPは、僕の中高生時代の象徴だった。あのシルバーのPSP2000シリーズ、ゲオで中古で買ったそれは、僕の日

    • 短編文学的エッセイ 【グッドバイ、酒】

      ある時期、僕は趣味を三つに定義していた。本、音楽、そして酒。この三つは互いに密接に絡み合い、特に酒がその中心にあった。酒を手にすると、文字が一層心に染み込み、音楽が豊かに響き渡る。そして、何気ない日常の瞬間さえも新たな色彩が加わり、楽しみが倍増するように感じていた。 酒は単なる嗜好品以上の存在だった。生活の一部であり、精神の支えでもあった。酒を飲むことで、自分が本当に「自分らしい」と感じ、日々の煩わしさから解放されていくような気がしていた。人生を豊かにするための燃料だと信じ

      • 短編文学的エッセイ 【本能の一口、それは根源】

        肉を焼く。炎が肉に触れた瞬間、脂がジュッと弾ける。目の前に広がるのは、ただの食事ではなく、生きることの本質だ。豚や鶏も悪くはないが、やはり牛肉は特別だ。牛肉を口にした瞬間に旨味の波が広がり、「美味い」と口にする際、それは味覚を超えて心の深い部分に響く。噛みしめるたびに全身を快感が駆け巡り、言葉では表現しきれないこの感覚。まるで古代から続く狩猟民の記憶が、一口ごとに蘇るかのようだ。 肉の旨味は本質的なものであり、タレやソースで覆い隠すのは無粋だ。その真髄を感じるためには、シン

        • 短編文学的エッセイ 【君の返信、僕のイヤホン】

          思い通りにいかない日は、僕たちの生活の中で、しばしば訪れる。イヤホンを忘れた時、返信が来ない時。そんな些細なことで、僕は不意に苛立ち、自分を責める。それが現実だ。 音楽は僕にとって、いつも心を整えるための小さな灯だ。それを聴けないことが、日常のリズムを狂わせる。たかがイヤホン、されどイヤホン。それを忘れた自分に腹を立てる一方で、そんなことを気にしている自分に失望する。おそらく、僕が苛立っているのはイヤホンを忘れたこと自体ではない。もっと深い、不満や欠けているものへの苛立ちが

        短編文学的エッセイ 【PSPと、時を経た僕】

          短編文学的エッセイ 【Sea of Junk、ガラクタの海にて】

          世の中には、無数のものがあふれている。そして、そのほとんどは「ガラクタ」だ。少し厳しい言い方だが、それが現実だ。スタージョンの法則、つまり「9割はガラクタである」という考え方に出会ったとき、僕は一瞬で腑に落ちた。なぜなら、この法則は現代社会で生きるうえで非常に役立つ指針となるからだ。 膨大な情報や作品が溢れる現代では、すべてを追いかけるのは不可能だし、無駄でもある。だからこそ、この9割を切り捨て、1割の本当に価値あるものに集中することが大切だ。この考えに基づけば、たとえ他人

          短編文学的エッセイ 【Sea of Junk、ガラクタの海にて】

          短編文学的エッセイ 【Digital 遺産】

          ゲームは僕にとって、単なる趣味以上の存在だった。幼少期、父や弟と遊んだファミコンやスーパーファミコンは、家族との絆を深める大切な時間だった。父から教わった「新しい武器を手に入れたら古い武器を売る」というゲームの基本ルールは、まるで人生の教訓のように感じた。何かを得るためには何かを手放さなければならないという考え方が、自然とゲームを通じて身についていったのだ。 ゲームに対する情熱は、未知の世界への憧れと好奇心から生まれた。パッケージデザインやイラストを眺めるだけで心が躍る。

          短編文学的エッセイ 【Digital 遺産】

          短編文学的エッセイ 【チロルチョコ、余白の甘さ】

          君の家に泊まった朝、僕は仕事に出かける準備をしていた。そのとき、君が6個のチロルチョコを持たせてくれた。普段、僕はあまりこういったお菓子を口にしないし、実際にその時食べるかどうかも分からなかった。しかし、可愛らしいハロウィンの装いをしたその小さなチョコレートたちに、思わず微笑んだ。 「行ってきます」「行ってらっしゃい」 交わした言葉は、まるでこの日常を優しく包み込んでいるかのようだった。電車に揺られながら、いつも通りの職場へ向かう。曇り空が心に影を落とし、何か重たいものを

          短編文学的エッセイ 【チロルチョコ、余白の甘さ】

          短編文学的エッセイ 【セゾン・トーク】

          季節の変わり目には、どうしても心や体に変化が生じる。 それはただ気温や天候の話ではない。もっと内面的なものだ。誰しも自分にとっての「季節」、つまり特別に心地よく感じる時期というものがあると思う。僕の場合、それは秋から冬にかけてだ。 12月が誕生月だからかもしれない。秋が深まり、寒さが増してくると、なんだか心が静かに整うような気がする。いつの間にか冷房がいらなくなっていることに気づいたり、街が冬支度を始める様子を眺めると、自分自身もその流れの中にいることを感じる。これは、幼い

          短編文学的エッセイ 【セゾン・トーク】

          短編文学的エッセイ 【邦楽と僕のリフレイン】

          僕が音楽に目覚めたのは、小学一年生の頃だ。父がTOYOTAのハイエースで流していたMONGOL800のアルバム『MESSAGE』が、僕にとっての最初の衝撃だった。正直言って、そのときの感情を鮮明に覚えているわけではない。しかし、ハイエースの助手席に座り、雑多に積み上げられたCDの中で、この『MESSAGE』のジャケットだけが不思議と目に焼き付いており、今でもその光景が脳裏に残っている。 小学生の頃、嵐やGReeeeNなどのJ-POPアーティストのCDを集めるのが僕の趣味だっ

          短編文学的エッセイ 【邦楽と僕のリフレイン】

          短編文学的エッセイ 【スナップ・ショット】

           人生とは、無数の偶然が積み重なる網のようなものだ。 人は一生のうちに約3万人と出会うと言われている。70億人の中でわずか0.000004%。 その確率を前にすると、出会いそのものがある種の奇跡であり、感謝せずにはいられない。 たとえば、地下鉄のエスカレーターですれ違う人々。日常的な光景に過ぎないが、その出会いの背後には、途方もない偶然が隠れている。何も意識せずに通り過ぎるけれど、もしももう一歩早かったら、もしももう1本遅い電車に乗っていたら、と考えると、出会いの背後に広が

          短編文学的エッセイ 【スナップ・ショット】

          短編文学的エッセイ 【時代とお金さん】

          僕はいつも現金を手に取る。 財布から出した紙幣や硬貨には、わずかな温かみがあり、それを手に感じる瞬間が僕にとっての「現実」だ。支払いを終えると、心の中で「お金さん、ありがとう。今日もあなたのおかげで良い時間を過ごせた」と呟く。 これは、僕のささやかな儀式だ。紙幣のしわや硬貨の重さには、僕が働いて得た時間が詰まっている。 ある日、仕事の昼休憩に職場近くのレストランに立ち寄った。そこはキャッシュレス専門のお店だった。キャッシュレス決済ができないと、注文すらできないと知り、僕は

          短編文学的エッセイ 【時代とお金さん】

          短編文学的エッセイ 【名産品の葛藤、イカめしの夜】

          僕は久しぶりに夜ご飯にイカめしをいただいた。駅弁として売られているこの料理を、近くのコンビニが期間限定で取り扱っているのを見つけたのだ。 たまにその店舗では「駅弁祭」と称して、在庫処分を目的にさまざまな駅弁を売り出す。立ち寄った際、何か気になるものがあれば家に持ち帰る習慣がある。 今日選ばれたのがこのイカめしだ。 パッケージを開けると、製造会社も販売会社も北海道のものである。なるほど、名産品というわけだ。 しかし、原材料の欄を見ると、中国産のイカが使われているようだ。北海道

          短編文学的エッセイ 【名産品の葛藤、イカめしの夜】

          短編文学的エッセイ 【8分間の愛し方】

          僕は仕事の日、家を出る1時間15分前に目を覚ます。カーテン越しに射し込む光を背に、ベッドの端に腰を下ろす。グラス1杯ほどの水を口に含み、目を覚まさせる。それからベランダに出て、早朝の空気を吸い込み、目を閉じたまま顔に日差しを感じる。ぼんやりとした意識の中で、軽くストレッチをし、徐々に身体が覚醒していく。 ここまではいつも通りの朝だ。何も変わらない、規則正しいリズム。歯を磨き、顔を洗い、髪型を整え、服を着替える。そしてふと、時計を見る。あと8分。そう、今日は少し余裕がある。こ

          短編文学的エッセイ 【8分間の愛し方】

          短編文学的エッセイ 【穏やかな対比】

          秋晴れの休日、今日は彼女が仕事で留守の間、僕は自分の家からひとりでUNIQLOに買い物に出かけた。17時半、買い物を終えて帰る道すがら、空は透明感のある橙色に染まり、柔らかな風が頬を撫でていく。 歩道橋の上で足を止め、いつも通る街並みを見下ろすと、今日は何かが違って見えた。 夕焼けが世界全体に穏やかさを与え、全てが優しい色彩に包まれているように感じた。 その夕焼けは控えめで静かだ。 まるで「私を見て」とそっと語りかけるような存在感があった。僕はしばらくその景色に目を奪われ

          短編文学的エッセイ 【穏やかな対比】

          短編文学的エッセイ 【地下鉄と中古車と僕の考察】

          とある日の昼下がり、僕は彼女の家の最寄り駅に到着した。改札に向かうため階段を登りきると、目に飛び込んできたのは反対側のホームへ続く下り階段の壁に掲示された、大きな広告だった。 「中古車を買うならグーで。」 スマホを手に笑顔を見せる有名な芸人コンビと、どこかで見覚えのある女性タレントの姿があった。地下鉄の駅で中古車の広告を見るのは不思議な感覚だ。 ここにいるほとんどの人は、車を持たない生活を送っているはずなのに。 そんな中で、車を持つことが果たしてどんな意味を持つのだろうか

          短編文学的エッセイ 【地下鉄と中古車と僕の考察】

          短編文学的エッセイ 【初秋の通夜】

          夕方、スマホが振動した。 画面を開くと、地元の友人Aから短いメッセージが入っていた。「ママが亡くなった」と。しばらくその文字を眺めた。彼の母親が亡くなったのか、と自然に思った。 彼とは昔からの仲で、彼の家庭のことも多少は知っているつもりだった。それに、「ママ」と呼ぶなら、それはきっと彼の母親だろう。突然のことにどう反応すればいいのか分からず、心の中に軽い衝撃が走った。 僕はいつものように無難な返信を打った。 「なんて言ったらいいかわからないけど、何かあればいつでも言ってくれ

          短編文学的エッセイ 【初秋の通夜】