見出し画像

短編文学的エッセイ 【穏やかな対比】

秋晴れの休日、今日は彼女が仕事で留守の間、僕は自分の家からひとりでUNIQLOに買い物に出かけた。17時半、買い物を終えて帰る道すがら、空は透明感のある橙色に染まり、柔らかな風が頬を撫でていく。

歩道橋の上で足を止め、いつも通る街並みを見下ろすと、今日は何かが違って見えた。
夕焼けが世界全体に穏やかさを与え、全てが優しい色彩に包まれているように感じた。

その夕焼けは控えめで静かだ。
まるで「私を見て」とそっと語りかけるような存在感があった。僕はしばらくその景色に目を奪われたまま、ただ立ち尽くしていた。

不思議なことに、その夕焼けが僕には女性の姿に見えた。控えめで、派手さはないけれど、思わず心を惹かれるような自然な美しさを持つ人。夕焼けを背景にした街の様子が、彼女のそんな姿を映し出しているようだった。

今の僕の彼女は全く違う。
彼女は表情豊かで賑やかで、いつも僕を笑わせてくれる。彼女はインテリアやファッションに強いこだわりを持っていて、買い物のときは目を輝かせている。
彼女が好きな雑貨店やセレクトショップを巡りながら、時折「これ、可愛い!」と嬉しそうに言う瞬間を思い出すと、自然と笑みがこぼれる。

彼女と過ごす時間は、色とりどりの楽しい会話で溢れている。最近彼女が購入したインテリアの話や、おしゃれな服を選ぶ様子が思い浮かぶ。彼女の情熱が周りの空気を明るく照らしているかのようだ。
それに対して、この夕焼けはまるでその対極にある存在だった。静かで穏やかで、何も主張しない。ただそこに佇んでいるだけで、僕の心に深く染み込んでくる。

心の中にある感動を言葉にしてみようとしたけれど、それはまるで砂のようにするすると指の間をすり抜けていく。
言葉にする必要はないのかもしれないと感じた瞬間、自分自身がその感動を抱え込んでいることに少しだけ誇りを感じた。
彼女との楽しい会話や笑い声も心に響くけれど、この静かな夕焼けに包まれる時間もまた、僕にとっては大切な瞬間なのだと認識できた。

夕焼けが徐々にその色を失い、夜が街に降りてくる。歩道橋と直通しているバスの駅に向かって、そのまま足を進めた。
ふと、明日からの仕事のことが頭をよぎった。いつもなら少し憂鬱な気持ちになるが、今日はなぜか違った。
夕焼けの静けさが、僕の心に小さな力を与えてくれたのかもしれない。

彼女の賑やかさとはまた違った形で、僕は前を向く気持ちになれた。
風が再び頬を撫でていく。僕は自然と前に進み、夕闇の中へと歩き出した。
今は、彼女との時間を楽しむことも、静かな夕焼けの美しさを味わうことも、どちらも大切な要素として心に寄り添っているのだ。

※この作品はフィクションです。
※特定の個人・団体とは関係ありません。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?