井上イロ木@人生は死ぬまでの枡潰し

ショートショート(超短編小説)とエッセイを書いています。純文学が好きです。 【好きな作家】村田沙耶香・今村夏子 【好きな小説】コンビニ人間・むらさきのスカートの女・クチュクチュバーン、肉を脱ぐ、妻を帽子と 間違えた男

井上イロ木@人生は死ぬまでの枡潰し

ショートショート(超短編小説)とエッセイを書いています。純文学が好きです。 【好きな作家】村田沙耶香・今村夏子 【好きな小説】コンビニ人間・むらさきのスカートの女・クチュクチュバーン、肉を脱ぐ、妻を帽子と 間違えた男

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大人はみんな、とんちんかんだ!【ショートショート#26】

「なにがイヤで行きたくないのか、先生に教えて」  矢山先生は、やさしい声で、僕の首を、わたあめでしめるように、みんなの前でしつこく聞いてきた。  遠足に行きたくないと言っているのは、クラスに僕だけで、ほかのみんなは遠足を楽しみにしていた。それでも僕は勇気をふりしぼって、遠足に行きたくないとひとり手をあげた。  矢山先生は、そんな僕の勇気をたたえることはなくて、いかにもみんなの輪をくずす「困った子どもだ」というふうに思っているように、僕には思えた。 「なんで、みんなと違う

    • 点と点をつなぐ「connecting the dots」

      「connecting the dots(点と点をつなぐ)」といったのはスティーブ・ジョブズ。  私という点は、両親という二つの点とつながっている。その両親も両親という点でつながっている。何十万年という人類の点のつながりで私がいる。それはすごいことだが、だからと言って私は大金持ちでもなければ、天才でもない。  点と点がつながって今があるが、ただそれだけだ。そのつながった結果が時代にマッチすればジョブズのように讃えられるが、大概はそんなことはない。  スティーブ・ジョブズは

      • へばりつく【ショートショート#74】

         ビルの壁にへばりついて三ヶ月が経った。ここは東京のとある高層ビルの三五階くらいだ。私は大の字になってビルに抱きつくような格好でベッタリとくっついている。雨の日も風の強い日も、照りつける太陽にも微動だにしなかった。  ビルの中の人たちは私と目が合うと、少し戸惑いながらも軽く会釈した。確かにビルの壁に人がへばりついていたら、挨拶するべきなのか、するとしたらどう挨拶をしたらいいのか私も戸惑うだろう。現に私もここからどう彼らに挨拶を返したらいいのかいまだにわからない。とりあえずぺこ

        • いまの私の現状

           最近ショートショートが書けないんです。いま、頭を一番大きく占有しているのはポケモンカードなんです。デッキ作りや対戦のことばかり考えています。ポケカ歴二か月ちょいです。それまで他のカードゲームもやったことはありません。できるだけお金をかけずに(かつかつの生活をしているのでw)、YouTubeで勉強しながらオリジナルのデッキを作っています。対戦相手は学童保育の小学生たちです。ポケカの先輩です。  家の外で小動物のケンカ?の鳴き声が聞こえてきました。イタチ? アナグマ? タヌキ?

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        大人はみんな、とんちんかんだ!【ショートショート#26】

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          わかっちゃいるけど

           正解なんてなくて、なんでも正解なんだけど、世間に、歴史に、時代に、文化に、常識に洗脳された頭が、正解を求めずにはいられなくて、しかし、そんな自分の何かに苦しんで、でも、なにが苦しいのか分かっているけど、知らなくて、知っているけど、わからなくて、やりたいことがわかっているのに、やりたくなくて、恐れていて、受け入れられなくて、ごねている。こうなるとわかっているのにわからなくなる。見なくなって見えなくなる。カオス。

          睡眠【ショートショート#73】

           久しぶりの残業で帰りは夜だった。お腹が減っていたので自然と車のスピードは上がっていた。低い位置にオレンジ色の月が雲を額縁にして掲げられていた。額があるとそれはより一層存在感を増していた。人が道路の真ん中に倒れていた。ブレーキを踏んだが止まれないと判断し、ハッmドルを右に切った。頭や身体は轢かなかったが、片手を轢いた。ごとんと左前タイヤが腕の上に来たとき、ずるりと左前タイヤが滑った。その感触はハンドルを通して、皮膚、脂肪、筋肉、骨の層を剥がし破壊したのが伝わってきた。車は完全

          毎日投稿【ショートショート#72】

           もうnoteの毎日投稿をやめようと思う。いつも眠たくなって、ああ、書かなければ、と思ってYouTubeを見るのをやめて、noteを開く。目は三分の二の大きさだ。もともと大きくもない目がいよいよ細くなる。瞼が重たい。  私は毎日投稿になにを期待しているのだろうか。こんな適当な文章を垂れ流し、推敲もせず、書く技術が向上するとは思えない。何かの奇跡で私の投稿がバズるとも思えない。そもそもそんな文章が書けていない。 「私は今日、筆を置きます。毎日投稿さようなら。この文章は削除し

          毎日投稿【ショートショート#72】

          存在しうる意思【ショートショート#71】

           「おはよう!」  「おはよーう」  挨拶してきた貞子に私の口が応えた。僕は「よーう」と伸ばしたくなかったが、口はそうは言わなかった。いつも僕の身体は僕の意思とは関係なく反応した。僕はこの身体にいるのにいないようなものだった。僕とは違う意思があって、身体は毎回そいつの考えや感情を採用していた。僕とは違う意思を感じたことはなく、会話もしたことがなかった。だからこの身体に僕以外の意思があるのかは、本当はわからない。ただ、この身体が僕の意思とは全く関係のないことを言ったり、行動した

          存在しうる意思【ショートショート#71】

          挨拶のタイミング【ショートショート#70】

           スマホで天気予報を確認するたびに、明日の天気が変わっている。毎朝日課にしている散歩の時間の間だけでも晴れていてほしい。欲を言えば水たまりができない程度の雨であってほしい。風は西風が望ましい。向かい風にならないからだ。雲はいわし雲が好きだ。散歩中は誰とも会いたくない。すれ違いたくもない。ひとりで静かに過ごしたい。すれ違いざまの挨拶のタイミングをいつも悩む。この無駄な思考にどうしても侵されてしまうのがもどかしい。ましてや進んでいる方向が同じで、前を進む人より私の方が速いときは、

          挨拶のタイミング【ショートショート#70】

          自分の子【ショートショート#69】

           知らない女の子が、 「パパ、なにしているの?」  と手を握ってきた。 「パパ?」  私は女の子をまじまじと見下ろした。私はこの子が誰だか思い出せなかった。しかし女の子はにこにこと私の顔を見上げたまま手を離さなかった。結婚もしていない私だったが、直感的に自分の子だと思った。私は握られた手を強く握り返した。 「友子なにしてるんだ! すみませんね、急にうちの子が」 「あ、おとうさん。このひと、手をにぎったら、つよくにぎりかえしてきたよ」  女の子は誇らしげに言った。女の子の父親ら

          自分の子【ショートショート#69】

          父が呼んでいる【ショートショート#68】

           父が二階から呼んでいる。冷蔵庫のモーター音のような音だが、冷蔵庫は一階にあるから、この音は確かに父の声だ。  私は階段を降り父の部屋の前で耳を澄ませた。ドアの向こうから父のモーター音のような声が私の名前を呼んでいた。ドアを開け、 「なん? どうした?」と声をかけた。父は座椅子に座ってテレビを見ながら「お茶」と言った。  正確には「うーん」と聞こるが、それがなにを意味するのかを私は聞き取ることができた。父は言葉を発しない。ある日突然、「言葉をやめる」と言ったきり会話は「うー

          父が呼んでいる【ショートショート#68】

          瀬戸際だ【ショートショート#67】

           瀬戸際だ。今日もどうでもいいことの瀬戸際にいる。妻はお酒を飲んで寝ると鼻の通りが悪くなるのか、閉まりの悪い弁から空気がプシュプシュと漏れるような音を立てた。聞いているだけでこちらが苦しくなる。  やめればいいのにやめてしまうと私には怠惰だけが残ってしまう。誇れるものが何もなくなってしまう。それを受け入れることができそうにない私は、やめずに今日もこうして書いている。  今日は電動刈り払い機で伸び放題の草を刈った。しかし生産的なことはしていない。ネットで映画を見て、図書館で

          瀬戸際だ【ショートショート#67】

          頭が冬眠してしまった【ショートショート#66】

           文章が書けなくなってしまった。いろんなアイデアが浮かんできてはショートショートを書いていたのに、いまはなにも浮かばない。物語を考えることも億劫になってしまった。私にとってはよくあることだ。一気に夢中になると、突然ストップしてしまう。それは数週間後だったり、数年後だったりする。  筆が進まない。眠気だけがある。毎日更新をやめると、一瞬にして私は深海に沈んでしまうだろう。間違いない。それでもいいと思いつつも、それが怖く抵抗する。私はあぐらをかいて座っている。そこに猫が丸くなっ

          頭が冬眠してしまった【ショートショート#66】

          僕の目玉とスマホのカメラ

           夜が明ける前、月がきれいだったからスマホで写真を撮ると、僕が見ている世界の月と違う月が写った。目玉とカメラでこんなに違うのなら、あなたと私が見ている世界もきっとまったく違うに違いない。  もしあなたが生まれた瞬間から黄色いサングラスを一時も外さずに過ごしていたのなら、あなたが真っ白な月と言っている月は、私にも真っ白な月と言っているだろうが、それは違う色の月だが、簡単にそうとも言い切れない。  すべての人間は生まれた時から、みんな違う色のサングラスをかけているようなものだ

          存在しない者 其の2【ショートショート#65-2】

           私は見たくもないテレビを見ていた。見させられていたといっていいと思う。テレビのバラエティ番組ほど時間を無駄にするものはない。私は目を開けたまま目を瞑り、聞こえてくる音を聞かなかった。長い年月をかけていつの間にか身につけた技術だ。私は私がテレビを見ている間、身体と精神の成長関係について考えていた。  人間の精神の発達は身体に大きく左右されると私は考えている。私の身体は申し分なく健康体だ。身長は低く力は弱かったが、身体的に不便さを感じることはなかった。ただひとつだけあるとした

          存在しない者 其の2【ショートショート#65-2】

          存在しない者 其の1【ショートショート#65-1】

           水をかけられて目が覚めた。そのとき私は学校のトイレの個室にいた。上から水が降ってくる。外からはいつものいじめっ子たちの笑い声と罵声が聞こえてきた。私は怒りで叫びたかったが声は出なかった。私の意志とは無関係に身体は両手で頭を抱えて縮こまっていた。口からは小さく「やめて、やめて」と私にしか聞こえないようなボリュームで繰り返していた。私は個室のドアを蹴破り奴らに殴りかかりたかったが、今までそんな行動の気配すら醸し出すことはできなかった。  私は生まれてこの方、思ったこと考えてこ

          存在しない者 其の1【ショートショート#65-1】