頭が冬眠してしまった【ショートショート#66】
文章が書けなくなってしまった。いろんなアイデアが浮かんできてはショートショートを書いていたのに、いまはなにも浮かばない。物語を考えることも億劫になってしまった。私にとってはよくあることだ。一気に夢中になると、突然ストップしてしまう。それは数週間後だったり、数年後だったりする。
筆が進まない。眠気だけがある。毎日更新をやめると、一瞬にして私は深海に沈んでしまうだろう。間違いない。それでもいいと思いつつも、それが怖く抵抗する。私はあぐらをかいて座っている。そこに猫が丸くなって寝ている。私は言葉を打つ。目は半開きのうつらうつら。耳鳴りがジーとなっている。外では鈴虫が鳴いている。妻は電気をつけたまま寝ている。明日は図書館に行きたい。
私の指の爪はすべて短かった。噛むからだ。爪切りは不要だ。噛み切った爪は食べる。また爪の栄養として再利用になると思ったからだ。しかし足の爪は噛まないし食べない。そのことについては、「そりゃそうだろ」と考えもせずに納得している。それについて考えたいとも思わない。そこに深い意味が隠れているのかもしれないが、興味が湧かない。
気づいたら妻は部屋の電気を消していた。私の生活からリズムが消えてしまった。ルーチンはなにもなくなり、夜更かしが復活した、といっても〇時には寝るのだが。テーブルには茹で栗がお皿に盛られている。歯で二つに噛み切り、小さめのスプーンで中身を掬い取って食べる。食べる前は匂いを嗅ぐ。たまに虫食いで傷んでいるものもある。色ですぐにわかるものもあるが、たまに見た目はきれいだったりして、それを食べると苦くてまずい。
苦くてと書いたが、どんな味だったか正確には思い出せない。苦くはないかもしれない。不味いのは間違いないけど、食べればどんな味だったか思い出せるけど、いまどんな味だったのかを必死に思い出そうとするが、まったく思い出せない。
わかるが思い出せない。自転車の乗り方は説明できないけど、自転車には乗れる。そんなものだ。眠気は眠たいときにしか理解できない。出来心は出来たときにしか理解できない。振り返ってもなぜだかわからない。私はイライラしてきて集中力がなくなった。いまの状況のもどかしさに寝る。