自分の子【ショートショート#69】
知らない女の子が、
「パパ、なにしているの?」
と手を握ってきた。
「パパ?」
私は女の子をまじまじと見下ろした。私はこの子が誰だか思い出せなかった。しかし女の子はにこにこと私の顔を見上げたまま手を離さなかった。結婚もしていない私だったが、直感的に自分の子だと思った。私は握られた手を強く握り返した。
「友子なにしてるんだ! すみませんね、急にうちの子が」
「あ、おとうさん。このひと、手をにぎったら、つよくにぎりかえしてきたよ」
女の子は誇らしげに言った。女の子の父親らしき男が私をきりりと睨み、女の子を強く引いて立ち去ろうとした。
「じゃあね、おじさん!」
おじさん? 女の子は私のことをおじさんと言った。女の子は振り向き振り向き私に手を振った。女の子は父親らしき男に頭をはたかれて泣いた。
私は女の子に握られた手の感触を感じながら、
「さっきの私の直感はなんだったんだ……」
と声に出して呟いた。小説の読み過ぎのせいだろうか。私は顔が赤くなった。私は中学生活最後の夏休みを謳歌するために友達の家に急いだ。