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Tale_Laboratory
2023年6月30日 09:19
宇宙には様々な星がある。文明レベルが高い星、低い星。既に数百の他星と交流を結んでいる星もあれば、自星の中の人間同士のコミュニケーションもまだ満足に行えていない星もある。しかし、文明のレベルに差があれど、どの星にも共通していることがある。それは宗教的な意味合いを持った儀式を長くやり続けていることだ。別の言い方をすれば祭りをしているということだ。一つ、既に滅んでしまった星がある。その星には
2023年6月29日 09:00
静かな所へ行きたかった。そうすれば、この心の不安が消えると彼女は思っていた。雑音、騒音それらが自分の心の静けさの邪魔をする。全部消えれば、残った無音が自分を満たしてくれると。しかし、そうはならなかった。どこに行っても、彼女に静寂は訪れなかった。むしろ静かになればなるほど、音が際立っていった。海の波の音。風で木や草が揺れる音。何なら空気が少し動くだけで音はするし、太陽が地面を照らす音さえ
2023年6月28日 08:43
それは最初は、ほんの小さな想いだったのかもしれない。とある所に一つの脚本があった。それが作られたのは江戸時代初期との話らしい。内容はどこにでもあるような男と女の間に浮かぶ恋愛話なのだが、時代によって幾たびもの改変がなされ、今も残っている。その話には伝説、いや呪いがあると言われている。それは、その話の主役である女を演じた者は近いうちに死ぬということだ。死因は様々、階段から落ちたとか、車に轢
2023年6月27日 09:04
世界は混沌としていた。人間を始めとした多種族による見境のない争い。昨日まで異種族間で争っていたかと思うと、今日は同族間で血を流している。そんな情勢の中にあって、何とかしたいと多くの者が立ち上がるが、志半ばで散っていった。もはや人の身一つでは状況を変えることは叶わぬと、伝説に救いを見出した一人の男。運命の女神なる存在は、どんな願いも叶えてくれるという。しかし、その女神に会うには想像を絶する
2023年6月26日 06:37
月の綺麗な夜だった。しかし、彼にはそんなものは見えていない。見えているのは、屋上から見える下の景色だけ。「おやおや、こんな良い夜に飛び降りですかな?」彼は急に背後から聞こえてきた声に驚き、振り向いた。そこにいたのは小柄な老人だった。自分を止めようとしているわけではないのは何となく雰囲気で分かった。「そうです。もう僕は人生にほとほと嫌気が差しました。楽になりたいのです」「そうですか。でも
2023年6月25日 09:30
一人の男がいた。彼は高名な魔術師の元に赴き、弟子となって修行を始めた。全ては魔術の力を身につけ、それを世のため人のために役立てるためだ。修行は過酷を極めた。深い山奥、人の世とは隔絶された地での鍛錬が朝から晩まで続いた。師と弟子の二人しかいないと傍からは見えるだろうが、そうではない。様々な精霊たち、火や水を司る者たちとも共に彼は修行に明け暮れた。自然そのものが師でもあった。数年の月日が経
2023年6月24日 10:23
人は常に知らないもの、分からないものに対する恐怖を抱えてきた。それらに怯え、逃げることで生き延びることができたとも言える。しかし、中には未知なるものに立ち向かい、その正体を暴くことを使命とする者たちもいた。未知なるものに対する畏怖と探究。この二つはどんな時代だろうと変わることはない。そしてここにも立ち向かう一人の男がいた。崩れかけている瓦礫の中を慎重に進み、男はとある場所へと辿り着いた。
2023年6月23日 09:10
今日は20年に一度の特別な日だ。目の前のベッドに横たわるその体を私は見つめている。その体は、私と同じ姿をしていた。髪や肌の色、身長から体重、目元のほくろまで全て。違いがあるとすれば、顔に少し皺の線があることくらいか。最初はただの知識欲だった。もっと知りたい、世界のことを、宇宙の成り立ちを、人の心というものを。ただ全てを知るには人間という種に与えられた時間は短すぎた。だから私は永遠に生き
2023年6月22日 08:51
「ふう、やっと晴れたか」一人の中年男性が、ドアから出ると空を見上げた。昨日まで激しい雨と風を生んでいた黒い雲が嘘のように白い雲に変わり、透き通るような青空の背景の前で輝いている。そして足元の土や草も雨水の雫をまだ残し、太陽の光を反射していた。風に揺れる草木。だが、揺れているのは風だけのせいではない。地面そのものが微かに揺れているからだ。ここは小さな小さな浮島。男はその島に建つ一軒だけの建
2023年6月21日 08:36
魔法が世の中を便利にしている。それは事実だ。しかし、人がスコップで地面に穴を掘ることが、体力を使った人力であるのに対し、魔法で地面に穴を掘ることも魔力を使った人力であることに変わりはない。だから、人は自分の力を使わなくて済む機械にも頼る。だが、あえて人力で機械を動かす試みがこの度行われることとなった。現在、大陸を網の目のように走っている鉄道路線。毎日多くの人を運んでいる列車たち。そのレー
2023年6月20日 09:40
夢にまで見た都会に出てきたはいいけれど、思った以上に早く挫折しそうだ。陰気な生まれ故郷を飛び出して、初めてこの星に降り立った時は興奮以外の感情は無かった。実際、最初は何もかもが刺激的で、宇宙中から人が集まる理由がよく分かった。ここでだったら退屈することなく、自分の理想の人生が作っていけると思っていた。だが、僕にとってこの星は刺激が強すぎることに気付くのにそう時間は掛からなかった。最初は理
2023年6月19日 06:16
それは突然のニュースだった。わずか一代で農業、建築、通信、流通、教育に福祉等々、様々な事業にその手を伸ばしては成功を納め、巨万の富という表現では足りないくらいの資産を築いた男がいた。その男の突然の死。事件性は一切なく、かねてより抱えていた持病が急に悪化したことが原因であった。豪放磊落という言葉はこの男のためにあるかのように、公私問わず振る舞っていた男は、当然メディアにも積極的に姿を出してい
2023年6月18日 09:58
私は今年で211才になります。当然人間ではありません。アンドロイドです。製造されてから、バージョンアップを重ねてついにこの年齢にまでなりました。しかし、私は私のことが分からないのです。いえ、当然生今日までのアップデートを、何回、いつ、どのような内容で行ったのか全て記録は残っています。体の各種パーツの交換もどれだけ行い、性能がどれだけ拡張されたか、全てデータとして出力することが可能です。
2023年6月17日 09:38
花火職人の朝は早い。今日も夏に向けた作業が山ほどある。準備は冬の時期から始まり、今は夏の本番に向けて最後の仕上げに大忙しの毎日だ。夏の夜空を彩る打ち上げ花火には大まかに分けて二つの流派がある。一つはマテリアル式。こちらの方が歴史は古い。様々な材料を組み合わせて作る方式で、火吹き竜の火炎袋、発光石、火炎蛙の油等々、火と光にまつわる植物や鉱石、魔物たちを素材とする。その採取のために、時に冒険